忍者ブログ
ブログ
[6] [5] [4] [3] [2] [1]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

続きます。

 ひとは、弱い?
 どんなに強がっても。
 ひとは自然の中では、弱い。
 例え弱くても、前に進むよ。
 その状況を突破しようとする、この思いがある限り。





a thinking reed





 夢を見るのは、好きじゃない。
 それでも見せられる夢があるなら、辛い夢でいい。
 優しい夢なんていらない。
 優しい夢ほど、現実に帰った自分に牙を向くものはないから。
 辛い夢を見た時、その時自分は押しつぶされそうなショックを受けることもある。
 自分が、ここで命を失うんじゃないかという時だって。
 それでも、悪夢から現実に引き戻されて飛び起きた時、安堵する。
 ああ、夢でよかったと。
 それこそ夢で倖せを握ったり抱き寄せたりしたなら。
 現実に戻った時の自分は、目覚めた自分の落胆たるや如何ほどのものか。
 夢にまで見るその希望が所詮夢であったと、認める心がまだ自分にはない。
 そんな夢を見た自分を情けなくも思うし、腹立たしくも思う。
 そんなくらいなら、いっそ今すぐにでも飛び起きて走り出した方がまだいい。
 どっちにしても、夢に左右されるのが嫌だった。
 そんな夢さえみることのできない弟。
 現実として考える必要のないただの「夢」なのに。
 こんなことは気付かれたくないんだ。知られる必要が無い。
 知ったところで、弟がさらに自分の心配をしてくれるだけだ。
 心配してもらっても、こればかりは自分にはどうすることもできない。
 だから。
 自分が弟に隠していることがないわけではない。
 だけど、どうかもうこれ以上、不必要に心苦しまないでくれ。

 どうか。

 俺のことはどうでもいいんだよ。
 俺は、お前を取り戻したいんだ。
 その手で触る、触れる、触れられる感触を。匂いを、味を、心地よさを、安眠を、夢を。
 俺のことは少なくともそれ以降でいい。
 だから無理な事はしないでくれ。
 俺も気をつけるから。
 俺が何かやらかせば、お前は絶対気付くから。
 俺は、走るよ。
 走って、走って、走って。
 
 そして、隠すから。
 気付こうとする、お前の前を走る。

『兄さん』

 呼ばれた気がして。
 自分の後ろに居るはずの、この声の持ち主を振り返る。
「アル…」
 何、と聞こうとした。
 いない。
 姿が見えない。何処にも。
 いない?
「アル?」
 振り返っても、いない。
 目を見開いて、目を凝らしても。どこを見ても。
「アル!?」
 叫んでも。
「アル!!」
 先を走りすぎた罰?
 そこにいるものと、勝手に思い込んで、安堵して。 
 自分の後ろに、すぐそこに居てくれているんだと自惚れていた。
 あわてて走り出す。見境無しに。
 振り返ったとき、急に自由を奪われて転倒した。
 いつか自分をとりまいた、あの黒い触手が邪魔をする。
 あちこちを。
 ここで止まってはいられない。
 邪魔をするな。
 その邪魔なものを、必死に払う。払っても、払っても、なくならない。
 邪魔をしないでくれ。奪わないでくれ。
 焦りだけが、増えていく。


 俺を置いていかないでくれ。









「兄さん」








 呼んで。
「兄さん」
 瞼が異様に重たかった。
「……」
 瞼を開いたはずなのに、薄暗い。
「兄さん…」
「ア……ル…?」
 遠慮がちに、アルフォンスの手はエドワードの左肩に置かれていた。
「目が覚めた?」
「う…ん…?ゆめ…」
 現実。
「あ…ごめ…アル」
「ううん、いいんだよ。こっちこそ起こしてごめん」
「いや…いい」
 まだ夜は明けていなかった。
 朝焼けすら、まだで。
 雨の音が聞こえた。
 まだ降っているらしい。
 一人を怖がる夢なんていらない。こんな女々しい自分もいらない。
 夢見が、最近悪い。
「折角久しぶりにちゃんとしたベッドで寝られるのにね…兄さん」
 そのこともあって、アルフォンスはエドワードに起こして悪かったと言ったのだろう。
 薄暗い部屋で、エドワードはアルフォンスに笑って見せた。
「まあな」
 でも。
「アルが俺のこと起こしたのは、…俺、何か言ってた?」
 うなされていた?
 だから、その声を思って、もしくはそのしかめ面を見て、現実に引き戻してくれたのだろうか。
 どちらにしても、エドワードは複雑だ。弟には「ない」物。
「ううん。…兄さんまた嫌な夢でも見たの?」
 アルフォンスの答えに一時安堵したものの、結果自分で墓穴を掘ったようなもので、聞き返されてしまう。
 少しの間の後にエドワードが答えた。
「いや?ただほら、かっこ悪い寝言だったら嫌だろ」
「腹減ったー、とか。牛乳はいらねー、とか?」
「少なくともいい気分しないだろ、俺が」
「そうだね」
 こんな嘘、見逃してくれるよ。誰が、とは言わないけど。
「まだ、雨降ってんだな…明日も雨かよ」
 窓の向こうの雨による冷気を、左手を窓にかざして感じる。
 自然に、話題を変えた。
「そうだね…もう何日降ってるんだろう」
「うあ~かったる…」
 うんざりする。
 疲労は少しずつ、でも確実に蓄積されていく。
 元々、常々身体は鍛えているので常人よりは全然ましではあるが。(と、エドワードは思っている)
 そのことに関しては、アルフォンスの方が解っていた。
 兄に蓄積されるものは、身体的疲労は勿論だが、何よりも精神的な疲労だ。
 寝ていてまで、精神的疲労を蓄積させているのだろうか。
 自分は、どうしたらいい?
 アルフォンスも、エドワードが眺めるその窓の向こうを見やった。
 ここのところ、しばらく雨が続いていた。
 やっと表面の乾いた、いつも持ち歩いているそのトランクの中には、
 マスタング大佐に渡すレポートが入っている。
 そろそろセントラルに戻ろうと思っていた矢先、戻るならなるべく早めに提出して欲しいものがある、
 と言われたのだ。
 その時は田舎町から電話していて、交通手段も決していいところではなかった。
 列車を乗り過ごす事の無いように時刻表を確認してセントラルへ向かうルートを決めた。
 しかしそれからまもなく悪天候が続き、足取りが停滞した。
 ただでさえ一日に数本しかない列車のダイヤが乱れたのだ。
 エドワードにしても無目的の土地に長く居る事など望んではいない。
 しかしセントラルまではまだ距離がある。
 自分のせいではないのだから連絡しなくてもいいかとも思ったが、
 折角到着した時に大佐にああだこうだ言われるのはとてつもなく癪に触る。
 仕方なく、多少は遅れることを電話で伝えた。
 その時は珍しく大佐は会議に出ているときで、ホークアイ中尉が対応してくれたのだが。
 その時の電話で、どうも頼まれたレポートは本当に近日中に必要らしいことが解った。
 しかし実際そうは言われても、という状態だったのだ。
 数日ずっと雨が続き、昼夜問わず降りつづける。
 列車もやっと動いたかと思えば止まる、の繰り返しでやっとの思いでここまで来たのだった。
 そんな中、昨日は雨間で、何とか降らなかった。本当に数日振りのことだった。
 雲は相変わらず薄嫌い色をしていて、いつ何時(なんどき)降りだすか解らないような天候。
 それでもやっとまともに距離が稼げるかと思いきや。
 連日の雨で川が増水したり土砂崩れが起こったりと、列車はそう簡単に通常運行はできない。
 仕方なく残っているセントラルまでの距離を稼ぐために、
 雑草が胸元まで生い茂るような山道を近道だと思って抜けてきた、
 その晩だった。
 いくらその時雨が降っていなかったとはいえ、数日分の大量な雨を吸い込み、
 吸い込みきれなくなっている地面は酷い有様だ。
 ちょっとでも気を抜けば、その悪い足場でバランスを失ってしまう。
 今日の朝、そのルートを決めた時に予定したこの町に到着するまで、
 結局随分時間を費やしてしまっていた。 
 一日経っても全く厚みの取れなかったあの雲から、今も雨が降ってきていた。
 夕方からまた降り続いているらしい。
 もうすこしで司令部なのに。
 まあ、さすがに明日中には司令部に到着できるだろう。
 やはり当初の計画からすれば遅れていた。
「理由がハッキリしてるところで、大佐に何か言われる事だけは確定だろうな。何か納得いかねえ」
 明日には恐らく見ることになるであろう人物のことをぼそりと言う。
 そのとき、脈絡無く周囲が明るくなった。
「っ?」
 アルフォンスが電気をつけたのだ。
 急に飛び込んできた明るさに目を一瞬細めて、エドワードはアルフォンスを振り向いた。
「どした…」
 急に明かりをつけて、というつもりだった。
 が、それより早くアルフォンスの手はエドワードの腕を掴んでいた。
「な…アル?」
 意図がわからないエドワードは鎧姿のアルフォンスを見上げた。
 しかし、次にアルフォンスの声で聞こえてきた言葉は、エドワードには思いもよらぬ内容だった。
「脱いで」
「……は?」
「脱いでよ兄さん」
「アル?」
 聞き間違いかと、エドワードは聞き返したが間違ってはいなかったらしい。
 訳の解らないエドワードを他所に、アルフォンスが一歩踏み出して近寄った。
「シャツ、脱いで」
 いつも以上に、アルフォンスが大きく見えた。
 ベッドの上のエドワードは身動ぎもできない。
 アルフォンスがエドワードに近寄る事で、エドワードの視界はアルフォンスの影のせいで暗くなった。
 何だこれは?
 再び訳の解らないエドワードは弟に聞き返そうとした。
 その時。
「もう、ほらっ!」
 いつまでも動かないエドワードに業を煮やしたのか、アルフォンスは強引にシャツを脱がせた。
PR

コメント


コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


トラックバック
この記事にトラックバックする:


忍者ブログ [PR]
カレンダー
07 2025/08 09
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
No Name Ninja
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
アーカイブ