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小之森花 様より里子としていただきました。ありがとうございますvv
ロイエド←アル 君が生まれた日。 君が初めて呼吸をした日。 その日を、共に祝福しよう。 エドワードは、その日、朝から不穏な空気を感じ取っていた。 明らかに違和感のある弟の態度ももちろんだが、司令部に顔を出してくると言った時の、弟の強ばった声が、とてもおかしかったのだ。 一人で出歩くことは、余りしない。けれど、今日は、珍しくアルフォンスに断られてしまったのだ。買い物があるという。 仕方なく、着慣れたコートを羽織って、定宿を出た。 「待ってよ、兄さん。途中まで一緒に行くよ」 がしゃんがしゃんと、聞き慣れた音を立ててアルフォンスが駆け寄ってくる。エドワードは、ホッとしたように頷いた。 イーストシティの大通りを並んで歩いていると、違和感が消えていくような気がした。 きっと気のせいだ。エドワードは自分に言い聞かせる。隣で、アルフォンスが妙にそわそわしているのも、きっと勘違いだ。 「じゃあ、行ってくる」 「早く戻ってきてよ。あ、6時まで戻らなくてもいいけどね」 「どっちだよ」 「うーん、じゃあ、6時に帰ってこれる?」 エドワードは頷いた。 6時まで、あと5時間もある。図書館でしばらく時間潰しをしてから、司令部に行こう。昼よりも夕方の方が、軍部も暇だと思ったからだ。 エドワードは半日の予定を立てながら、横に立っている弟を見上げた。 アルフォンスも年頃だ。一人になりたい時もあるのだろうと、エドワードは勝手に解釈をして、弟と別れ、一人で図書館に向かって歩き始めた。 今日は、何の日だよ。 エドワードは思いっきり眉間にシワを寄せて、その光景を眺めていた。 東方司令部司令官室、つまりはロイ・マスタング大佐の執務室で、エドワードは不審たっぷりの眼差しをその男に向けた。 机の上には、残り少ない書類。そして、机の横には、高く積まれた書類。よくよく見れば、裁可済みのものの方が圧倒的に多い。 珍しい。というよりも、おかしい。 血走った目で、ロイはエドワードを見上げる。 「大佐ぁ、寝てないだろ」 机に両の手を乗せて、エドワードは覗き込む。 ロイは、小さく頷いた。 目は血走っているし、目の下には隈があるし、何よりも顔色が良くない。 「これでおしまい? 早く帰れば?」 「いや、そうはいかない」 ロイは頑なに言い張る。 そうこうしている内に、残されていた書類も整理させてしまった。 ようやく一息ついて、コーヒーを味わう男の横顔を見ながら、エドワードは、先ほどアルフォンスにも感じたのと同じような違和感を覚える。 絶対に、おかしい。 「帰るんだろ? 送っていくか?」 余りの顔色の悪さと、何か企んでいるんだろうという疑惑から、エドワードは珍しく手を差し出した。 「ありがたいな。そのまま、泊まりはどうかね?」 「もう帰るよ。アルと、6時に約束してるんだ」 「連絡しておけばいいだろう。行こう、鋼の」 「……え? ちょっと、……おいっ!」 グイグイと腕を掴まれて、エドワードは半ば引きずられるように部屋を出ていく。 睡眠不足の身体に、よくぞこんな力が残っていたかと不思議なほど、ロイの腕は強かった。 ズルズルと引きずられながら、通りの時計を見れば、そろそろ6時になろうというところ。 帰らなきゃ、とは思ったけれど、顔色の悪いこの男を突き放していくわけにもいかないし。 そう悩んでいると、鋭い声で呼び止められて、エドワードは顔を上げた。 「やっぱり! 何してるんですか、マスタング大佐!」 エドワードは、言葉もない。 珍しく怒り気味のアルフォンスが、司令部の正面玄関に立っていたからだ。 確かにもうすぐ6時だけれど、どうしてこんなところで、しかも怒っているのか。 エドワードの姿は、見るからに拉致られそうな勢いの状況なのだが、そのせいだろうか。 「マスタング大佐。兄さんを返してもらえますか?」 アルフォンスは駆け寄ってきて、エドワードの空いた腕を掴んだ。その手の握り締める強さに、エドワードは驚いて弟を見上げる。 怒っている。 身内には怒る事なんてないアルフォンスが、酷く怒っている。 だが、エドワードのもう一方の腕を掴んでいるロイもまた、低く答えた。 「悪いが、断らせてもらう。君はいつも鋼のといるのだから、今日ぐらいは譲ってくれたまえ」 「譲れません」 「なかなか頑固だな。では、どうすると?」 「勝ち取ります。大佐、失礼します」 アルフォンスは、エドワードの腕を放した。 途端、アルフォンスはどこからかチョークを取り出して、コンクリートに錬成陣を描く。 次の瞬間、コンクリートが信じられないほど波打ち、三人の足下を揺らし出した。 ロイは、少年の先制攻撃に驚き、エドワードを掴んでいた手を放した。そうしなければ、自分もろとも横転してしまう。 エドワードも、ようやく解放された両腕でバランスを取ったが、やはり足場を失ったことが大きく、慌てて体勢を整えようとして転んでしまう。 だが、普段から鍛えてあるせいか、すぐに受け身をとって、その場から退いた。 半径2メートルの範囲で、コンクリートが軟化されている。 安全な地帯を確保してから、エドワードは二人の様子を遠目に見つめる。 「何なんだ、あいつら」 ロイは、指先を弾いて焔を錬成し、一方のアルフォンスは、素早い動作で描く錬成陣で対応していく。 ロイの発火布という道具のおかげで、明らかにロイの有利だが、アルフォンスも決して負けない。 あらかじめ用意しておいた錬成陣の描いた紙を取り出しては、まるで刃のような物質に錬成し、焔を避けている。 その上で、足下のバランスを崩そうと、コンクリートへの錬成も忘れない。 「へえ、上達してるじゃん、アル」 エドワードは、どうやら自分が関係ないと分かると、暢気に見物と決め込んだ。 当然のように騒ぎを聞きつけた野次馬で、司令部の正面は人だかりが出来ている。 その中から、エドワードの肩を叩く手が伸びてきた。振り返れば、そこにはリザ・ホークアイ中尉の姿があった。 「どういうことなのかしら? 大佐と、アルフォンス君が戦っているなんて」 リザの声に抑揚はない。 「オレにも分かんないんだって」 「そう。全く大人げないわね」 リザの指しているのはロイのことだ。 彼女はどうやら訳知りらしい。 「……エドワード君。申し訳ないけど、止めてもらえるかしら」 深い嘆息と共に、リザはエドワードの肩を叩く。 確かに、この状況で割って入れるのは、エドワードぐらいなものだ。 「もう少しいいんじゃない?」 「あれでも、大佐は東方司令部の看板なのよ。体面が悪いわ」 野次馬は徐々に増えている。 確かに、軍人であるロイが、我を忘れた勢いで錬金術対決をしている図は、余り格好良くはない。 まあ、一般人から見れば、充分度肝を抜かれる光景だとは思う。それでも、ムキになっている様子は、冷静な軍人の姿には相応しくはない。 「しょーがねぇなっ!」 エドワードはようやく重い腰を上げて、スタスタと2人の元へ歩み寄る。 群衆が静まりかえった。 「いい加減に……しとけよっ!!」 パンと言う手拍子一つが響くと、轟音と共にコンクリートが揺れ始める。 そして、その轟音と共に、コンクリートから無数の手の石膏が伸び、二人の足首を掴んだ。思いっきりつんのめって、二人は膝を付いた。 それを、エドワードは上から見下ろす。 「頭冷やしたらどうだよ?」 「鋼の、君の出る幕じゃないぞ」 「邪魔しないでよ、兄さん」 二人は、異口同音に叫ぶものだから、エドワードはそれぞれの後頭部を叩き倒す。 ゴツンガツンと、濁音を発してコンクリートに額を埋めさせると、エドワードは満足げに振り返った。 「中尉、こいつらはもういいから、野次馬なんとかしてくんない?」 リザは、優雅に微笑み、頷いて返した。 彼女の指示のもと、下士官たちが、野次馬たちを散らしていく。 その隙をついて、エドワードは肩を落とす2人の男の背中を蹴りながら、司令部へと立ち戻った。時計はもう、7時を回っている。外も薄暗い。 司令官室まで戻るのも面倒なため、一階の仮眠室に二人を押し込む。 何よりも、ロイの顔色がますます悪くなっている。空いているベッドにロイの身体を突き倒してから、エドワードはパイプ椅子に腰掛けた。 アルフォンスは、肩を落としたままドアのところに立ち尽くしている。 「で、何なんだよ、さっきのは」 瞼を閉じて溜息を吐くロイと、俯き加減のアルフォンスを見比べていると、先にアルフォンスが口を開いた。 「だって、今日はダメなんだ」 「だからっ、そもそも話が見えないっつの!」 「……それは、その……」 モゴモゴと口ごもるものだから、エドワードの語調はますます厳しくなる。 「市街地を破壊して、中尉にも迷惑かけて、その理由は何なんだって聞いてんだよ」 「鋼の……責めるのは止めたまえ」 ロイは、うっすらと瞼を持ち上げている。 「アルフォンス君。どうやら私たちは、同じことを考えていたらしいな」 「……そうみたいですね」 ロイは半身を起こして、エドワードを手招きする。 エドワードは、ちらりとアルフォンスを見遣った。気まずい気がするからだ。だが、ロイが疲れ切った顔をしているので、仕方なく歩み寄る。 ロイは、手を出せと言う仕草をした。だから、素直に手を差し出す。 ロイは、胸ポケットから細長い包みを取り出して、その手の平に乗せた。 可愛らしいラッピングされていて、小さなリボンも付いている。先ほどの錬金術戦のせいだろう、角が多少曲がってはいるが。 「これ、なに?」 「贈り物だ」 ロイがそう言うから、エドワードは顔を上げてアルフォンスを振り返る。 アルフォンスも、困ったように首を傾げている。 その瞬間だった、ドアを叩き割るぐらいの勢いでノックされて、男がドアを開けた。ジャン・ハボック少尉だ。 「いたいた。エドワード、今日はお前の誕生日なんだってな。メシでも奢ってやろうって話になってんだ」 ハボックは、ヒラヒラと手を振っている。 そして、エドワードは目を丸くしていた。 そう、今日は、自分の誕生日。 「……忘れてた」 そうボソリと呟いたのが、一体誰に届いたのだろう。 「みんな待ってるからさ、早く来いよ。良かったら、大佐もご一緒しますか?」 陽気な口振りが、ロイの勘に障ったらしい。眉間に深いシワが刻まれた。 だが、焔までは出なかったのは、先達ての錬金術戦によって消耗されていたせいか、それとも狭い室内にいるエドワードを気遣ったものか。 どちらにしろ、ハボックは消し炭にされることはなく、待っているからという台詞を残して、部屋を出ていった。 微妙に居辛い沈黙が広がる。 「と、とりあえず、行くか」 エドワードは、アルフォンスの手を取る。 アルフォンスも何か用意していたらしいが、この場で話し合う事柄はもうないはずだ。 居心地の悪さに耐えきれず、エドワードは誤魔化し笑いすら浮かべた。 「奢りだってさ、悪くないよな?」 「鋼の、待て。私も行くぞ」 ロイがベッドから起きあがろうとすると、エドワードは急に表情を険しくして、ダメだ、と鋭く叫んだ。 ロイは勢いを失い、ベッドに再び埋もれる。 確かに、身体は重いし、頭まで痛くなっている。 エドワードは、それ以上は何も言わず、アルフォンスの手を掴んで部屋を出ていく。むしろ、アルフォンスの方が、ロイを心配しているような風情だ。 一人残されて、ロイは深く溜息を吐く。プレゼントを渡せただけでよしとしようか。そう呟いて。 ハボックを筆頭とする東方司令部の面子が集まり、ちょうど司令部を出ようとしたところだった。 エドワードは足を止めて、ちらりと振り返る。 そして、最後尾に付いていたリザに、ちょっと、忘れ物したからとだけ告げると、急ぎ足で立ち戻っていく。 その後ろ姿を見つめながら、アルフォンスは複雑な思いにかられる。ロイが嫌いではない。むしろ感謝している。 エドワードは大好きだ。だから、彼の好きなものも全て受け入れたい。アルフォンスは、恋敵を憎みきれない自分を分かっている。 それでも、見送る時だけは、いつも、少しだけ複雑だ。 ロイは瞼を伏せていた。 浅い眠りの中で、呼吸だけが一律に繰り返されている。身体は睡眠を欲求していても、心だけは酷く乱れている。 折角の、愛しい君の誕生日。 ロイは、眠りの淵から身を起こして、瞼を開いた。 そこに、エドワードがいるとは思わずに。 「……夢か。幸せな夢だな」 ロイは乾いた唇で呟く。 ずいぶんと都合の良い夢だとは思ったが、ロイは幸福そうに微笑んだ。エドワードの声が、遠くから聞こえてくる。 「ありがと、これ。大事に使うからさ」 エドワードが照れながら微笑み、そっと顔を近付けてきた。 ロイは素直に目を閉じて、温かく湿った唇が、乾いた唇に重なったのを感じていた。 柔らかく、心地よいそれは、長くなかったが、ロイは幸福の中で、再び眠りの淵に沈んだ。 幸福な夢の続きが見れるようにと、願いながら。 君が生まれた日に。 あなたが生まれた日に。 来年もまた共にあるよう。 誓おうか。いつまでも、一緒にいよう、と。 PR |
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