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長編
シリアス・オリキャラ有り



 仕事に見切りがついた頃。

 やっと司令部内の人数が減った。当直の者以外は、やっと帰路につき始めていた。

 しばらく真面目に仕事をしていたロイもそろそろ滅入ってくる。つくため息も重くなっていた。


「大佐ー、そのため息やめてくださいよ」

「無理をいうなと言ってるだろう」

「だって俺まで滅入る……」


 やっと提出できる段階まで来た数種類のファイルを如何にして一回で持っていくかを真剣に悩みながらハボックも軽くため息をつく。

 ファイルの中身も重たさもサイズもばらばらで、上手く持てずにいるハボックを見て、ロイは再びため息をつく。


「途中で落とすより二度に分けたほうがダメージが少ないんじゃないか?」

「だから、そのダメージを負わずに抱える方法を考えてるんじゃないスか」

「……好きにしろ」


 やっと少しは少なくなったといえるだろうデスクを弄りながら力なくロイが言う。


「ハボック」

「はい?」


 あれこれと抱えてみながら、返事だけを返すハボックに、やはり視線を向けずにロイが続けた。


「それが終わったら、仮眠を取って来い」

「え?」


 やっとハボックが視線をロイに向けた。

 仮眠の時間をもらえるのは嬉しいが、いつもよりはまだ時間が早い。


「……いいんスか?」

「構わん」


 実際いつもよりはひと段落しているのは事実だし、今回の件に対する多少なりの感謝の表れでもあった。

 ハボックもすぐにそのことに気付く。

 よくロイはエドワードのことを不器用だというけれど、そういう本人も同類だということに気付いてはいないのだろう。

 ハボックは素直にその好意に甘えることにする。

 こういうことを言い出してくれるだけ、まだ良い方だ。

 また無理難題を押し付けられる日もこれから多々あるだろう。

 ならば、好意を示してくれるときくらい素直に受けても罰は当たるまい。


「じゃ、そうします。ありがとうございます」

「ああ」

「大佐はどうするんスか」

「私はまだキリが悪いからな。お前が戻ってくるころには何とかしておく」

「途中で疲れたらそこで寝るつもりですか」


 指し示されたのはソファだ。すでにサボることが前提で言われているのか。

 前科は多々あるので、というかある意味茶飯事なので反駁することもできない。

 ハボックも、自分が戻ってくる頃までに何とかなる状態になどなるはずがないと普通に思っている。

 それは彼の中ですでに普通に有り得ないことなのだ。

 こと、こういった書類整理などに関しては。

 ハボックは一度ファイルの束から手を離すと奥の棚の方に歩み寄った。滅多に触らない棚を勢いよく開ける。

 それは以前ホークアイからも言われていたことだった。多分こんなことは多々あるだろうと。まったくその通りだ。

 そこまで見破られるのもどうだろうかと思うが。

 ハボックが棚から引っ張り出してきたのは毛布だった。

 仮眠用の毛布は、ここにもすでに用意していた。したのはホークアイだったが。

 上司の性格を考慮した上でのことだ。さすが、とハボックも思う。上司自らこんな用意はすることがないだろうことは自分でも想像がつく。

 自分が仮眠に入って、どれくらいでこの上司が自主休憩に入るのかを少し考えてみて、すぐにやめた。

 考えるだけ無駄なことだ。正確には、自分が悲しくなるだけ。この光景と大差ない予想図を描けばそう思うのも仕方なかった。


「大佐ァ明日の朝までにせめて半分は終わらせないとダメっすよ」

「ああ」

「生返事でも何でもいいすけど、中尉に半殺しにされた挙句ずっと監視下に置かれますよ。俺はいいけど」

「……」


 少し想像したらしい。

 小さく肩をすくませると視線を戦う相手に向けた。明日の敵のために。

 そうだ。あの頃の最前線を思えば。

 しかし、その最前線でさえ。

 何故自分がこの立場を志願したのかを思えば。

 そう、志願したのだ。自らこの道を選んだ。あの全てが焼ける世界へ身を投じることを自ら。

 そして上を目指すことを選んだのも。

 いくら目指したところで全員が得られるものでもない。だからこそ、勝ち取ってきた。蹴落としてきた。戦ってきた。

 彼もそうだろう。

 道の選択肢は他人に教えてもらったものもある。

 けれどその複数の選択肢の中から、自分も彼も、今の道を自らが選んで歩いてきたのだ。

 後悔することがないはずがない。でもそれはどの道を選んだところで同じ。違うとすれば、後悔の種類。

 何かを悔いることがあっても、道を間違えたと悔いることは、自分には少なくともない。

 きっと、彼もそうだろう。

 多かれ少なかれ、大なり小なり悩みや苦しみを持たない人間の方がずっと少ない。

 それでも止まることはできないから。

 ふと、ロイは視線を時計の針に向けた。

 一応集中してはいたようで、思っていたよりも針は進んでいた。

 ペンから指を離し、体重を背もたれに預ける。確かに月の位置が随分動いていた。

 しばらくして、ゆっくりと腰を上げる。

 徹夜するという手も確かにあるが、眼精疲労がキツイ。

 少しは休んだ方がまだ進むだろう。

 まあ、大抵の場合こうして休んでいると誰かしらがやってきてサボっている、というのだが。

 折角用意された毛布は素直に使わせてもらうことにする。あるものは有意義に使わなければ意味が無い。

 身体を預けて目を閉じると、思っていた以上に疲れていたらしい身体は素直に休憩に入る。

 浅い眠りの中で、やっと落ち着いたことを何となく悟る。

 彼以上に、自分に覚悟が無かったのかもしれない、と。



* * *



 目元がひんやりして心地よかった。

 気がつくと、目元は軽く冷やされたタオルが置かれていた。

 自分ではない誰かが置いた。

 ロイはしまった、と思う。本当に寝てしまったらしい。

 それでも起こされはしなかったことを考えると、それほど時間が経ってはいないのだろう。

 ゆっくりとタオルを剥ぎ取ると、目の前を軍服のオーバースカートが通り過ぎたのが映る。

 同時に時計が視界に入る。

 この場所に落ち着いて、一時間ほど。

 一時間くらい仮眠が取れれば眼精疲労も少しは落ち着くだろう。寝過ごしてはいない。サボっていたわけでもない。

 ロイは軽く息を吐き出す。


「すまんな」


 身体を起こして首を回しながらロイが言う。

 ハボックの仮眠が思っていたよりもずっと早かったからだ。いつもならまだこの時間には戻っては来ない。


「続きは今からやる」


 仕方なく自分のデスクに歩み寄る。始めたころを思えば書類は減っている、減っている、と暗示をかけながら。

 終わりが見えないのは辛い。

 確かに前に進んでいることを、確認したくなる。

 見えないゴールを目指すことは、精神的にも容易いことではないのだ。

 エドワードなら、それを痛いほど知っている。


「いつになく早かったな、ハボック」


 使用済みのファイルを邪魔だとばかりに適当に棚に戻しながらロイは語りかけた。

 が、それに対する返答はなく。


「……?ハボック?」

「少尉ならここにはいねえよ」


 ロイは思わずその声のほうを振り返る。

 その先には、軍人がひとり。

 金の髪をした、強い瞳を持つ将校。

 しかしその将校は、ハボックではない。

 いつもと違う、その長い髪は三つ編みではなく軽くひと括りにされているのはあの場所で見たのと変わらない。

 変わらない。


「鋼の」


 それは想像しなかった深夜の来訪者。


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