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長編
シリアス・オリキャラ有り ここもまた、戦場。医療もまた、戦い。命を救うための。貴方を救うための。 エドワードの左腕には、点滴の針が刺されている。 医者が心臓マッサージを、人工呼吸をロイが始めてどれくらいの時間が経ったのか、 ただそれを見守るだけの周囲にはもう分からなくなっていた。 ロイ本人も、時間の感覚などとっくに失っていた。 ただただ、長い時間を感じるだけで。 目の前にエドワードがいるのに、時間の流れをこんなに長く感じるなんてことはなかった。 ロイから少し離れたところで、ただ見守るしか出来ない軍人の一人が、ぽつりとつぶやく。 「もう……」 それを聞いた周囲が、ぎくりとした表情で振り返る。 「だって、もう……」 それ以上言葉を続けなくてもいい。と他の誰かが制止する。言わなくても言いたいことは分かる。 ただ、それを言葉にするな。 墜ちてから、どれくらいの時間が経ったかを思えば。 後遺症の心配だってある。 けれど、ロイにはそんな選択肢は毛頭なかった。 ただ願うのは、エドワードを連れ帰ること、それだけだった。 初めて見た彼は、車椅子に小さな身体を預けていた。 身に着けていた衣類の右袖と、ズボンの左足は、風に揺れていた。 何よりその眼に、光が無かった。正確には、失う寸前。 あの時の、そんな眼から一気に焔のついた眼を見たロイには、 もう自分の眼にエドワードの強い眼差しが映らないなんて考えられなかった。 「鋼のッ」 強く叫んでみても、反応はなく。 人の体温を保っていないエドワードと、だんだんと熱くなるロイの間は縮まる気配が無い。 やや離れたところで黙って見ていた一人の軍人が、声を絞り出す。 「大佐……マスタング大佐」 ロイには聞こえているような、聞こえていないような解らない状況の中に響く声。 「も、もう。少佐をゆっくり休ませてあげるべきです……!」 隣でそれを聞いた軍人が驚いておいっ、と慌てて制止する。 それでももう耐えられない。止まらないのは彼だけではない。そう、ロイだけでもない。 「俺……いや、私だってエルリック少佐には元気になって欲しい!まだ生きていて欲しい!ですがっ」 この姿を見続けるにも限界がある。 これ以上は彼自身が可哀想に思えてならない。 「私達のためではないっ!少佐のために、もうっ……!」 言えたのは、ここまでだった。 この言葉を放った彼が、他の誰でもないエドワードを思ってこそ発言したのだと、 意を決して発言したのだと、冷静な頭は理解できる。 しかし、それをそのまますんなりと飲み込める状況に、今のロイは居ない。 そして。 彼は、違う。 違うから。 「今まで少佐の何を見てきたんだ」 「え?」 唐突な質問に、返答に困った表情の彼を横目にロイが言う。 今まで何を? どんな彼を見てきた。 ロイの知らないエドワードの姿を。 「鋼のは、諦めたりしない」 ロイはきっぱりと言い放つ。 これは確信。 彼は簡単に事を諦めたりはしない。 弟のことを。 きっと自分のことも。 みっともないと言われても、縋り付いてでも、限界を超えるまで。 そのあるだけの可能性全てを使って。 生きることをそう易々と諦めたりしない。 「容易く命を諦めたりしない」 それはきっと、他人に対してさえも。 その重さを、脆さを、儚さを。彼はよく知っている。 どんなに苦しくても。 どんなに追いやられても。 希望を絶たれても。 どんな絶望を突きつけられても。何度でも。 彼は、生きることを止めない。自らやめることは無い。自ら断ち切ることは。 まだ、止めない。 彼のためを思うなら、決して。 諦めない。諦められない。 やるべきことは、彼の命をつなぐ事。 「……逝くな」 逝くな。 目の前から消えないでくれ。 目の前に、あんなに近くに居ながら助け切れなかったことは謝るから。 手を差し伸べることが出来なかった自分をただ悔いることしか出来ずにいる。 このままでは、この場へ、国家錬金術師への道を示した自分を呪うしかなくなる。 この可能性を知らなかったわけではない。軍事国家のこの国において、その軍服に袖を通す可能性が低くないことも解っていた。 軍属の国家錬金術師が袖を通すということが、どういうことを意味するかを知っていた上で。何のために袖を通すか知った上だ。 そのときはどんな現実を直視しなければならなくなるかを知った上で。 知っていて、誘った。 そしてついてきた。全てを承知の上で。 ただ言えることは、決してこんなことのためではなかったということだけ。 きっとそれはエドワードも解っている。口ではどう言っていても。 ならば。どうか。 この声を聞き届けてくれ。 「逝くな!」 腹の底から叫んだ。それだけが、今の願いだった。 同時に、この場に居る者達の代弁でもあった。 「エドワード!」 息を送り込んでエドワードから離れたロイが叫んだ。 奪うな。 消えるな。 呼びたい。名前を。呼ばせてくれ。そして自分の名を呼んでくれ。あの声で。どんな呼び方でもいい。 居なくなったらそれすら叶わない。 名前を読んでもその声は虚空に消えていくだけなんて。 世界の何処を探しても、この身体を引きずって生きている間は永遠に返事が聞こえないなんて、そんなことは。 名前を呼ばれないなんて、そんなことは。 心臓が痛い。 苦しい。胸の辺りが何かで痞えているような。 自分でも信じられないような感覚。どこか他人事のようにも思える。 しかし、これが現実。 もう失いたくない。あんな思いはもう充分だ。 恐いのだ。 恐怖にすら負けそうだ。 君がここから永遠にいなくなる恐怖。 「エドワード」 そのとき。 音がした。 水の音。 ゴプッと詰まったような。 喉が引きつる。震える。 微かに動いて。 身体が酸素を取り込もうとしている。 生きようと。 「鋼の!」 生きて。 「生きろ!」 自分自身で呼吸を。 「……ッ」 エドワードの眉間が苦しそうに歪んだ。 確かにロイがそれを見た後、エドワードは苦しそうに水を吐き出した。 肺が膨らんだ。 やっと酸素を得たというように、荒く呼吸を始める。それでも苦しそうに咳をしながら。 動き出す。 止まっていた時が、動いた。 「鋼の!」 確かに、その睫が動いて。 その身体が、生きることを再び始めた。 医者の動きが早くなる。 これから先、とりあえずロイに出来ることは無かった。 一歩下がったところで、ただ見ているだけ。 エドワードは生命の危機は脱した。 後は、意識を取り戻してくれさえすれば。 後遺症がなければ。 「失礼、マスタング大佐」 エドワードが処置を終え、別のベッドに移された頃。ロイにそう語りかけてきたのは。 「……ローランド大尉」 「はい」 敬礼をして目の前に居たのはローランドだった。 ファウツはローランドの指示のもと、各方面の処理を仕切っていた。すでにここに姿は無い。 ロイは黙って向きなおす。 今になって、やっと冷静に思い起こすことが出来る。 思えば、自分は随分取り乱していただろう。 どんなときも、目的のために自身をさらけ出すことは抑えてきたのに。 「何だ?」 「大佐はこの後もしばらくここにおられるのですか?」 ああ、とロイは納得する。 さっきの緊急事態のときは、勝手に指示を出してしまったからだ。ロイの手前、ローランドはそう聞いてきた。 本当は、指示を出すことは避けるつもりでいた。それはエドワードのためでもあったのだが。 今現在は、その責任者であるエドワードが指示を出せない状態にある。 本来ならばローランドに一時的に移行するのだが、今この場に、エドワードの上司にあたりロイが居る以上、ロイからの許可は必要だ。 「私はもう戻る。もともと長居する予定もなかったし、中央に仕事が溜まってしまうからな」 正確に言うと、すでに大量に溜まっているだろうが。 「エルリック少佐が復帰するまでは、ローランド大尉が指揮するように」 「了解致しました」 「報告は私の許にも私宛で送ってくるように。勿論少佐の容態も含めてな」 「はい」 敢えて指示を出した。改ざんされた経過報告もいらない。 本来はローランドはロイにそんなものを送る道理はない。 しかし、事態の責任を負えと言われるよりはマシだろう。 「しかし、鋼のにも大尉にも、すまないことをしたな」 「と、仰いますと」 「勝手に動かすつもりは、なかったということだ」 ローランドの視線が動いた。 ここに居る軍人たちは、ローランド、及びファウツの部隊にあたる。 大総統令があった以上、ローランド以下この場に来ている軍人達は一時的に今現在までエドワードの指揮下に入っている。 「現状が現状でした。私にはあの場においての異論はありません」 「……ありがとう」 それが本心からなのか、ただの手前の言葉なのかはわからないが、今その言葉をうけて、ロイはそう言った。それだけのこと。 ローランドはそもそもハクロ将軍の配下。いくらエドワードの直属の上司にあたるとは言え、普通なら面白くないはずだ。 ロイは、黙って視線を動かした。 ただ眠っているだけのように見える。 エドワードは逝きはしなかった。 それを願ったはずなのに。 今は声が聞きたくてたまらない。 欲は尽きることなどない。 声が聞きたい。キスをしたい。 ただ、君に会いたい。 PR |
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