忍者ブログ
ブログ
[46] [45] [44] [43] [42] [41] [40] [39] [38] [37] [36]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

長編
シリアス・オリキャラ有り



 予想しなかった。

 正確に言えば、予想は不可能ではなかった。予測しなくてはならなかった。

 最後の最後まで、思考を断ち切ってはならなかったのに。断ち切ってはいなかったが、気を緩めてはならなかったのに。

 その場の誰もが、突然の大きな音に、視線を動かした。

 それと同時に、低く笑う声がした。


「はは…あはははは」

「何だ、何をした!?」

「ははは、これだから軍なんて大したことないって言われんだ!」


 エドワードの背後にいる、自由を奪われて拘束されたテロリストは不穏に笑った。


「全部消えちまえ!」


 同時に。

――ドォン!

 激しい音が響き渡った。

 完全な失態だった。

 エドワードがこの人物のことを突き止めたときには、すでに仕込みを終えていた。

 建物の周囲で立て続けに爆発が起こった。


「全部!全部ぶっ壊れりゃいい!沈んじまえっ」

「こ…の野郎ッ!」


 エドワードは歩く補助をしてくれていた軍人を突き放すと、この場にいたテロリストの襟足を強引に自分に引き寄せた。


「ちゃんと調節しといてやったよ。街にはそんなにダメージはないだろうさ。多分な」


 いつエドワードから拳を繰り出されるか分からない相手は、喉の奥で低く笑いながら言った。


「俺がここにいるのは、ある意味でハズレくじ引いたからだよ」

「どういう意味だ」

「こういう…ことだ」


 相手が答えると同時に、ズン、と地響きがした。大きな音だ。身体が震える。


「!?」

「これが仕事なわけだよ。アンタが、俺の相手ってワケ」


 エドワードが目を見開いた。

 やっと意味が解ったのか、とそういう目で眼前の相手がこちらを見ていた。


「お前ッ…こんなことしたら、お前も…っ」

「まあ、そうだな。でも」


 エドワードは相手のその目を見て、一層相手の胸倉を締めた。

 これから起こることを全てわかっている、自分の結末を知っている冷たいその目がエドワードの腕を震わせる。

 受け入れるのか。自分が決めたことでもないその暴力的な結末を。甘んじて受けるのか。

 この場で生きているのに。


「そんなことアンタに心配されることじゃねえ。俺はこのために来たって言ったろ?ここで死ぬのは俺の意思だ」


 周囲は、やっと収まりかけた状況での大音声にやや混乱していた。

 エドワード自身は、やや離れたところから見ているが、ローランドやファウツ、そしてロイが統率しているのが分かった。

 ロイの声の前では、ローランドもファウツもただ従うしかない。

 それが的確であるから、尚更だったが。

 それが、認識できた光景だった。

 次には、世界が踊った。

 何を見ているのだろう。

 湖か?空か?相手か?事態が収束しかけている眼前の光景か。

 既に理解は不可能だった。

 足元が、崩壊した。

 テロリストが、失敗したときのために仕掛けた爆弾だった。

 軍の緊急司令部を丸ごと破壊するつもりだったのだ。

 結局はそれは不可能に終わったが、少しずつだが確実に仕込まれていた爆弾が一斉に爆発した。

 完全破壊が不発に終わっても、このまま行けば、半分くらいは達成される。

 それは、敵の上の人物を屠ることだ。

 エドワードは建物の裏、崖に近い所にいる。

 まともに立っていられなかった。


「う…わっ」


 よろめいただけで終われば良かった。

 しかし、もろい地面は、耐え切ることが出来なかった。その衝撃に。


「ウアアッ!」


 完全に足場が奪われた瞬間だった。

 大きな崩壊音に、その場に居た全ての視線が瞬時に注がれた。

 見えたのは、崖崩れと、それに飲まれたエドワードの姿。

 次の瞬間には、その場からエドワードの姿は失われた。

 エドワードの透きとおるような金色の髪が、太陽に溶けた。

 その軍服が、空に溶けた。


「鋼の!」


 思わずロイは叫んだが、叫びに対する返答は戻っては来なかった。

 ロイの叫びはただ空に消えた。


「っ…少佐!」


 ファウツは思わず駆け出す。

 しかし、それをローランドが阻んだ。


「!?何をっ」

「危険だ!君までが巻き込まれたらどうする!」

「しかし、少佐がっ」

「分かっている!」


 ローランドの荒い声に、ファウツは思わず閉口した。

 初めてだった。感情がこれほど露に口調に現れるのは。

 しかし、そんな二人の横をロイが走りぬけた。


「マ、マスタング大佐!?」

「危険です!」

「そんなことは分かっている!」


 寄れるだけ、近寄ってみた。

 エドワード達がいた場所は、えぐられるようになくなっていた。

 すぐ下には、冷たい冷たい水を湛えた湖。


「…!」


 ロイは、拳を強く握った。


「負傷者は順次応急処置!応急処置担当は人数と負傷レベルを報告!後は捕らえたテロリストの把握、報告!及びエルリック少佐の捜索!」


 ただし、動けるもの全員が行っても統率が取りにくい。

 泳げるもので、負傷レベルの低い者を選出する。


「湖なのは、まずい。少佐は水面に浮かんでは来られない」

「っ」


 意識があれば。湖底がさほど深くなければ、錬金術で身体を水面近くまで押し上げることは可能かもしれない。

 しかし、すでに意識を失ってしまっていたら。

 機械鎧の重さの分、湖底に沈んでいる可能性が高い。

 くわえて水温の低さがある。


「何か発見があれば直ちに報告しろ!」

「大佐。私も行きます」


 志願したのはローランドだった。


「大尉…!?」

「申し訳ありませんが、この場はファウツ中尉と、出来ましたらマスタング大佐にお願いしたく」

「…」

「お願いいたします」

「…分かった」


 ロイは静かに、なるべく冷静に答えた。


「捜索隊を任せる」

「了解いたしました」


 敬礼をすると、ローランドはすぐさま緊急にチームを作り、すぐに行動に移した。

 崖を降りる間際、すれ違うファウツに一言残して。

 頼む、と。

 少佐は必ず連れて帰ってくると。


「大尉…」


 その背中を、ファウツは目で追うことしか出来なかった。

 後は、祈り。


「鋼の…」


 ロイから零れた小さなつぶやき。

 今の今まで目の前にいたのに。

 今だって近くに居るはずなのに、こんなにも遠く感じるのは、何故。

 どんなに手を伸ばしても、届かないなんて。

 どんなに叫んでも、届かないなんて。

 早く、戻って来い、この場に。


PR


忍者ブログ [PR]
カレンダー
07 2025/08 09
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
No Name Ninja
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
アーカイブ