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長編
シリアス・オリキャラ有り



 誰しもが望んでいること。 

 それはエドワードの願いでもある。

 エドワードの、もうずっと願い続けている、望み続けていることに近づくためには、

 この場にいる者達共通のこの願いをまずは叶えなければならない。

 事態の収束の為に日々行動している。

 なかなか終わらない、この日々に嫌気がさしている者もいるだろう。きっとそれは間違いない。

 しかしこれは遊びではなく。命のやり取り。

 誰もが、一日も早い事態の収束を望んでいる。

 勿論、勝ち名乗りを上げるのは軍であるはずだけれど。

 そんな中、大勢が同じく願いとするこのことが、現実になる。

 事件は唐突に、起こる。そう、加害者以外には、唐突に。

 それと同じであるかのように、事件は唐突に終焉する。


* * *


 ウェインのものとから自室に戻ったエドワードだったが、くつろぐ時間は既に存在していなかった。

 その原因は、たった一枚の紙。

 見慣れた文字。


「え…」


 一瞬、見間違いかと思った。

 でもどう見ても間違いではない。間違いだと思いたくてもそれは不可能。


「アル…」


 グラリ、とエドワードの足元が揺れた。

 一瞬、思考回路が全く働かなくなった。

 長い一秒間。

 自分は動くことが出来る、と当たり前のことをぼんやりと思い出したように、鈍く腕が動いた。

 そっと伸ばされたエドワードの左手はそれを手に取る。

 ついさっき自分の脳裏を過ぎったことがぶり返してくる。

 アルフォンスにも、ロイにも。軍部の皆にも嘘を言って出てきた。事実を伝えずに。

 どうせそう時間の経たないうちに全員に知れ渡る事実だった。拒否も叶わない事実だった。

 自分にこういう指示が出されることは、当然のことだ。

 それだけの待遇を受けているのだから。

 等価交換という言葉を使う以上、他の誰よりも理解しているはずだから。

 けれど、自分から言い出せなかった。

 いつかはこんなことになることくらい知っていたのに。むしろ、忘れかけていただけ。

 アルフォンスに言い出せなかった。自分の口から言えなかった。誰よりも言わなければならなかったのに。

 本来だったら、誰よりもまず、ロイ本人から告げられるはずだったろうに。

 それが、不安だった。

 ロイは大佐だ。大佐という地位がどれほどのものなのか、それなりにエドワードだって分かっている。

 きっと軍属ではなく、自分も軍服を着て司令部の中で一軍人としていれば、その現実をもっと知っていただろうけれど。

 そして恐らく、今エドワードが思う以上にロイの立場というものが、難しいものであるということも分かっていただろうけれど。

 しかし、今現在のエドワードは、それは心配しなくていい。

 心配しなくていいように、ロイ本人が取り繕っているからだ。

 だからエドワードはそんな心配をしなくていい。ロイのために。

 だからこそ、今回の辞令を、もしも。

 もしもロイが知らなかったら。

 実際、ロイが知らないというはずはないのだが。

 ありえないはずなのだが。

 しかし、それでも。

 もしも。

 もしも知らなかったら。

 知っていたとしても、ロイから告げられる前に知ってしまった自分は。

 
(あんたの口から、あんたの声で聞きたかったよ、最初に)


 けれど、他人を通して知ってしまった後となると。


(あんたに言わせたくなくなっちまっただけだ)


 どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。

 どんなことを喋ればいいのか分からなかった。

 その後、どうやってこの場に来ればいいのか思い浮かばなかった。

 逃げた。

 逃げるようにして出てきた。

 きっと、いつもの表情で、いつものように告げただろう。

 でも、知りすぎてしまった。

 軍人ゆえに語れない個人的感情。

 全部奥に押し込めている彼を知っているから。

 どんどん溜まっていく苦しい思いばかりが増えて。だから。

 帰ったら。そのときはどんなことでも言われよう。

 終わったことになら、何とでも言える。

 大丈夫だったろ?

 オレはここに居るだろ?

 お前を置いてどこかになんていかないよ。

 アンタの目の届かないところになんて行ってないだろ?

 なんとでも。

 そう思った。

 異様に重たく感じるその一枚の紙を、恐る恐る開く。

 見慣れた文字。

 無くせないもの。

 それが綴った言葉。



『早く帰ってきて』



 そうだな。

 オレには目的があるんだ。

 お前をそのままになんてしないよ。

 沢山書きたかったことはあっただろう。

 文句も沢山あっただろう。

 けれどそれを全て、一言も書かなかった弟。

 きっと、それよりも。

 この場に来ようとしたはずだ。

 来ないでくれ。頼むから。

 来ないで。

 きっとそんな弟を留めていてくれたのはロイだろう。想像がつく。

 ロイも、言いたいことは沢山あるはずだ。

 手紙はなかったが、きっと誰よりも。

 この理不尽な展開を。


「ごめん…」


 帰るよ。

 帰ったら、お咎めはいくらでも聞くから。

 だからここには来ないでくれ。

 もう少しだけ、待っていて。

 待っていて。

 エドワードがごめん、と再び小さな声でつぶやいた時。

 その声は、大音声にかき消された。


「!」


 エドワードの目が見開かれる。

 ガタンと音を立てて席を立つ。


「何だ!?」


 素早く脱ぎかけていた上着を着なおすと、司令部に戻る。

 戻りがてら、資料を持っていた者から書類を受け取る。足早に移動しながら目を通す。

 騒がしい建物の中を、頭を整理しながら歩く。

 前を見ろ。今目指すものを間違えるな。

 本当に欲するものを得るためには。今何をすべきなのかを間違えるな。

 数多のことに心を揺さぶられるな。


「少佐」

「ローランド大尉」

「敵数は完全には把握していませんが、人数的にはさほど多くはなさそうです。それは間違いありません」

「多分、向こう側ももう打ち止めなんだろ」

「そう思われます」


 この場において、誰よりも今までの展開を理解しているのはローランドだろう。それはエドワードも納得している。

 現状までの流れを一番把握しているのはファウツだろうが、軍事的展開を理解しているのはローランドなのは確かだった。


「ここ数日の向こうの動きは捨て身っぽかったし」

「切羽詰ってることを隠そうとはしていたようですが、そこまで頭が回っていなかったのだろうと」

「ああ」


 ボロが出始めた時点で、向こうは途端に素人と化したようなものだった。

 そんな程度で軍を出し抜けるはずは無かった。


「派手にアクションを起こせば、こちらが怯むと思ってるんでしょうか。今まで何度かありましたし」

「うん。一理あるかもな。随分最初の頃無茶苦茶やってるしな。勝てると余裕かましてたんだろ」


 少数しかいなくても、敵方に大勢で奇襲をかけられた、と思わせる方法など基本だ。

 それはエドワードも実戦済みだ。

 心理を読みきったほうが勝つ。

 このまま無理をし続ければ、向こう側が傷ついていくだけだ。

 勿論こちら側も恐らくは無傷とはいかないだろう。軍としての面目もあるが、それ以上にただ、早くこの場所に平穏を返してやりたい。

 最早、無意味な戦いをしているとしか思えない。

 エドワードは顔を上げた。


「朝の会議の通りの動きで行く」

「分かりました」

「オレも行くから」

「少佐」


 エドワードは明るい表情をして振り向いた。


「大将が自ら指揮を執るんだから。気合入れてけよ」


 エドワードは外の光のこぼれる正面ドアを走り抜けた。


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