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長編
シリアス・オリキャラ有り



 幻でも何でもなかった。

 あったのは、ただの事実だった。

 見間違えは、したくても出来なかった。無理だ。

 向こうも、こちら側に気付いたらしかった。

 少しだけ、手を上げた。

 向こうの口が動いた。

 言葉を紡いだ。


「鋼の」


 確かに、そう言った。


「…何で」


 ポロリと口から出た言葉は疑問だった。

 何故ここにいるの。

 あんたはここに来る必要がない。大佐は大佐らしく、椅子にどっかりと腰をかけていればいい。

 そして報告を待てばいいんだ。


「終わったようだな」


 近づいてくる。


「何で?」


 会いたかった。

 会いたかった。けれど。今じゃなくても。ここじゃなくても。

 まだ、終わってないだろう?

 まだやらなければならないことは、ある。

 それなのにこの場に来るなんて。

 ジャリ、と音を立ててロイが止まった。


「何で、とは失礼だな」

「偉い奴はそれ相応の場所でふんぞり返ってろよ」

「普段はそうしている」

「……知ってるけど」


 何を話せばいい。こんなところで。周囲がこれだけいるところで。

 上司と部下の会話か。


「…初めてだな」

「…何が?」

「それ、だ」


 目が合った。

 ああ、これか。


「アンタが昔着てたやつだろ。佐官の肩章に星一個」

「いや、そのサイズには袖を通した記憶はないが」

「……五月蝿いな」


 エドワードはロイのその物言いに反駁はしなかった。周囲の手前か、いやそれも今更だか、とロイは思った。

 エドワードの表情が無意識のうちに綻んでいた。それは微かに、程度だったが。その微かな表情の違いにファウツは気がついた。

 ファウツはそんな光景をやや驚きながら見ていた。

 確かに大佐に対して『あんた』などと言える人物は恐らくエドワードだけだろう。

 それ程、軍内部に限らず社会において役職という階級は重視される。


「随分と派手に、しかも勝手にやってくれたな」

「勝手に、ってあんたが言える立場かよ。自分から自分の部下に指示も出せねえくせに」

「何?」


 ロイは、どういうことだ、と言葉を続けるつもりだった。

 自分が事実を知ったそのときには、既に司令部からエドワードの姿はなかったというのに。

 確かに命が下されたのならば即刻それに従うのは当然ではあるが。


「あ」

「何だ」

「あんた、手ぇ出したな」

「何のことだね?」

「とぼけんな!手ぇ出しただろ、どさくさに紛れて!さっきの硝煙!あの炎!」

「さあ、知らんな。鋼のの指示だろう?」

「……!」


 相変わらずだ。

 会いたいと思った自分はおかしかったのではないかとすら思えた。


「余計なことしやがって…」

「私がここにきたときは随分とゴタゴタしていたからな」

「はいはい、申し訳ありませんね、不出来な部下で」

「随分と、派手にやったな」

「あ?」

「見れば分かることだろう?」


 満身創痍、ということか。


「大したことないだろ。遊んでんじゃねえんだから」


 エドワードはやや脚を引き気味に体勢を直した。


「ごめん、ファウツ中尉」

「いいえ少佐。ええと…マスタング大佐は司令部にお寄りで?」

「ああ、そろそろ決着がつくと思ってな。事実確認をまずはもう少ししていくつもりなので、寄るつもりだが」


 ロイの返答に、ファウツは返事をすると、周囲に居た数名に指示をする。


「それでは、とりあえずこの者を連れて行きますので」

「全員、捕らえたのだな?」

「はい。この場にいた者は全員のはずです。これからまず確認をとります」

「状況把握は速やかに行うように」

「はい」


 ファウツは他に人物を数人呼ぶと、エドワードの前で崩れていた人物を拘束する。

 ロイとエドワードは黙ってその姿を見ていた。


「あのさ」


 エドワードの方が先に口を開いた。


「アルフォンスは、ここには来ていない」

「……」

「軍人でもないのに、ここに来ることはできんよ」

「……そう」

「早く戻ってやれ」

「そんなの、あんたに言われなくても戻るよ」


 そのために今までやってきたのだから。


「あんたも、もう戻れよ。安心したろ?失敗してなくて」

「……そうだな」

「ホークアイ中尉にまた怒られるんじゃねえの?」

「別に私はホークアイ中尉にいつも怒られているわけではないぞ」

「そう?」

「……何か間違った認識をしてはいないかね」

「……正しい認識はしてると思うけど」


 ああ、こんな感じだ。

 エドワードは唐突にそう感じた。

 ロイがこの場に来ただけで。


(馬鹿じゃねえの、オレ)


 浮かれて。子供のようだ。


(オレはガキかよ)


 心配して様子を見に来た保護者のようだ。ロイは。


(今更だよ、ホント)


 ああ、きっともうすぐ弟にも会える。


(何言われても構わねえ)


 アルフォンスにだけは、エドワードに何でも言える権利がある。

 最後の最後で手を差し伸べられたことは、不服ではあったが。

 上官の指示であり意向であるなら仕方ない。

 早々に終結させられなかった自分の結果でもある。

 そして、改めて思う。弱い自分は必要ない。

 こんな弱い自分は必要ない。欲しいのは、もっと。

 こんな精神では。

 まだ強くは無い。けれど、こんなにも弱かったなんて。それを知っただけだった。

 知られたくない。知られるわけにはいかない。知られる前に、ばれてしまう前にもっと強くならなければ。

 エドワードは小さくため息をついた。


「先に行けよ」

「鋼のは行かんのかね」

「行くよ。ただ二人していくことないだろ。あんたは大佐らしくもてはやされてろ」

「つれないな」

「結構だよ」

「動けんのか」

「動けるよ」


 軋んで動かしにくい脚を引きずりながらエドワードは言った。


「あんたに手を貸されても困るし?」

「……そうか。ならば戻ろう」


 エドワードの真意を察したのか、ロイは踵を返す。


「では、私はとりあえず行くとしよう。少しここに残るがね」

「勝手にすれば」


 本来は、ロイにはやるべきことはたくさんある。

 ここに来る時間すら惜しいはずだ。

 それでもここが気になって仕方がなかったのだろう。

 気にしすぎて、他の仕事がまともに手がつけられなかったのかもしれないとエドワードは推測する。

 曲がりなりにもロイは軍人だ。こんなことで感情を露にするほど弱くはない。

 だからこそ、言葉にしたくてもできない気持ちばかりがロイの心のうちに溜まり続けているのだから。

 それでもここに来たのは、恐らくはホークアイ達の機転の賜物だろう。

 ここですぐに帰ってしまったのでは、マスタング大佐はここへ何をしにやってきたのか、と問われかねない。

 だから体裁を繕うために、少しの時間だけ滞在するように振舞う。

 ほんの一時間程度。それが限界だろう。

 あの男のことだ。何故、と問われたなら適当に言葉をあしらってしまうに違いなかった。

 少しずつ小さくなるロイの背を見ながら、エドワードも身体を動かした。

 近くに居た軍人が、失礼、と声をかけてエドワードを支える。

 悪いな、と声を返して、エドワードもロイの背を追うようにして歩き出す。

 目の前を再び見ると、ロイの前に一人の軍人が居た。

 ローランドだった。

 ローランドはロイに丁寧に敬礼をすると、何かを簡潔に話した。

 エドワードには見えなかったが、ロイの眉間に微かに皺がよる。


「鋼の!」

「……なに…?」


 急に呼ばれた意図を測りかねて尋ねようとしたそのとき。

 やっと落ち着き始めていたその場に、激しい音が響いた。


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