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長編
シリアス・オリキャラ有り



 その場に現れた人物は同じ軍服を着込んでいた。

 入り口のドアにもたれかかって腕を組んでいる。 

 見たことのない人物でもなかったが、この場に居ることに関しては違和感を隠せない。

 正規の軍人でもないのに、とある資格を有しているというだけで佐官の印を肩に乗せて。

 酷く似合わない、とローランドは思った。

 口に出してもしもそう言ったなら、恐らくそれに対しては本人も賛同しただろう。

 好きで着ているわけではない。

 当人にとってはこれは、国軍の証。軍属の証。

 軍の戌であることを体現させられているだけ。

 そして個人的には、あの人物のイメージ。


「ど、どういう」

「どーもこーも。オレもさっきそう言った」

「誰の指示で?」


 ローランドの言葉にエドワードが視線を上げた。


「誰からだったら納得する?」


 ローランドは敢えて答えない。


「オレだって好き好んでこんなの着てるんじゃねえよ。でも」


 軍の狗だから。

 そうエドワードは言葉を締めた。


「大総統から言われたら、ハクロのおっさ…将軍だって首を縦に振るしかねえだろうな」

「ええ?」


 態度で示したのはファウツだった。ローランドは微かに眉間にしわを寄せた。


「そんな…それでは」

「いい、中尉」


 予想通り慌てたファウツを冷静に静止する。


「それで?私に帰還命令でも持って?」

「いや?」


 ローランドの問に、エドワードは軽く首をかしげた。


「そんなんないだろ。多分。少なくともオレは聞いてない。詳しくは書類が届くだろ。待ってれば」

「じゃあ君…いや、貴方は」

「オレはあんた…いや、ローランド大尉の後見人のハクロ将軍から、大総統令を聞かされた」


 本来なら別の人物から受けるはずなんだけど、と付け足す。

 自分ごときが大総統から直々に勅令を与えられるはずが無い。そんな地位にはいない。

 何故ロイからではなかったのか。

 確かにロイはこの決定を快く思わないだろう。それはロイ一個人の勝手な感情だ。

 それでも大総統から下された決定に言葉を挟むことなどできないことは承知だ。それでも。

 エドワードは確認しては来なかった。

 この決定をロイが既に知っていたのかということを。

 知っている上で、何か理由があって別の人物が自分に指令を下したのか。

 もしもまだ知らないで居たのなら。

 それこそ何故ロイが知らないうちに自分にだけ決定が伝わったのだろうか。

 エドワードは仕組まれたことなのではないかと思っていた。だから、恐らくロイは知らないのだろうと。

 もしかしたらさすがに今頃は知っているかもしれないが。

 自分の部下であるにもかかわらず、今回の作戦変更の文章の中にその部下の名前が書かれているのを発見するのだろう。

 そう推測するのは簡単なことだ。

 あのとき、司令部内でエドワードは結局ロイに会わないままだったから。

 だからエドワードはロイがオフィスに戻ってくる前にあの場所から遠ざかった。

 本当はアルフォンスに嘘をつくことが辛くて。罪悪感ばかりがあるだけだった。それは今だって同じだけれど。

 ロイと面と向かってこの話をするのが億劫で。

 どんなに何を言われても決定は覆ったりしない。

 それでもロイはどうにかしようと動くだろう。それが嫌だった。

 こんなことでロイの株が下がるなんて、それはエドワードの本意じゃない。

 行け、と命令されるまで、行きたいと、行かせろと言っていたのは他ならぬ自分なのに。

 今頃どんな気持ちで居るだろう。さすがにもう図書館なんぞに居ないことは知っているだろう。
 
 もう今はどこにいるか知っているかもしれない。

 でもあの時事実を話すことがどうしてもエドワードには出来なかった。

 短時間で説得する術が見つけられなかった。口論したところで話の溝が深まるだけなのは目に見える。

 何としてもここに連れて来ることだけはできなかったから。それだけだったのだが。

 大丈夫だよ、と言っても三倍返しで何かを言われるだけだっただろう。


(大丈夫なのに心配しすぎんだ)


 大丈夫。大丈夫だよ。

 身の危険を案じてくれるのは嬉しい。けれど、立ち止まったままではいられない。

 オレはそんなに弱くない。

 けれど、オレはそんなに強くない。

 だから離せない。

 手を離せない。

 離したくないから。

 だから心配されるようなことは。


 事実エドワードはそう思っているのだが、彼の「程度」は一般とは大きく異なる。だから心配されるのだが。

 エドワードの『身の危険』の境界線は限りなくギリギリすぎる。それをいまいち本人は理解していない。

 崖のギリギリに立ってもその危険を危険だと思わない節がある。

 風がその身を誘って宙に身が踊ったときに「危ない」と思われても遅すぎる。

 だからロイも、アルフォンスももっと早く手を差し伸べたくて言うのだが。


「納得できなくても構わねえよ。それでも大総統からこれ渡された以上オレには拒否権ねえから」


 エドワードは静かに手袋をしたままの左手を右肩に乗せた。


「こんなガキに何が出来ると思う奴は、こんなガキが出てくるまで何やってたのか考えた方がいいって言っとけ」


 ローランドは反駁できなかった。

 口調は乱雑だが、言われたな内容には文句を言う理由がなかった。

 ファウツも言葉をなくしている。

 確かに国家錬金術師と言えどこの戦場で一体何をどれだけ出来るというのか、という思いを抱く者は予想よりも多いだろう。

 それにいくら若いといってもこんな十台半ばの少年に何が出来るというのか。

 何をどう指揮をとれというのか。

 そしてその指示に従えと言うのか。

 それはエドワードのことを「国家錬金術師」という枠組みでしか見ていないから思うことなのだが。

 命をゆだねることが出来るとはこの時点では恐らく誰も思わない。

 しかし既に下された決定を覆すことは叶わない。


「改めて。エドワード・エルリック。国家錬金術師。二つ名は鋼。そんで」


 口を挟むことはできなかった。


「地位は少佐。少佐相当じゃなくて、少佐。ここの指令指揮…あー、全部。は今をもって大総統の命令によってオレに移行する。以上」


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