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長編
シリアス・オリキャラ有り



 エドワードが文句を言いながら部屋を後にしてから一時間経たないころ、ロイはやっと開放されて戻ってきた。

 意義のある会議ならばまだいい。

 しかし実情を大して理解してもいない輩に限ってあれこれ物言いをする。

 今に始まったことではないとはいえ、時間の浪費だと思う。

 ロイはドアを開けると、周囲からお疲れ様です、と言われた。

 ロイは卓上の書類を見て、本当にそう思うのならあれを何とかしてくれ、と内心つぶやいた。

 そしてすぐに来客の存在に気づく。


「やあ、来たか」

「お疲れ様です。こんにちは大佐」


 彼の優しいトーンでの挨拶。もしも表情があったなら、やはり優しい表情を浮かべているのだろう。

 そしてすぐに気付く違和感。


「鋼のは、どうした?」


 ロイはそう聞きながら定位置の席につく。


「ごめんなさい。今兄さん図書館に行ってて」

「図書館?」

「はい。時間勿体無いって言って。やっぱりさっきのことでイライラしてたみたいだったし、気分転換させてあげたくて」


 アルフォンスは丁寧に謝る。

 しかしロイはアルフォンスの言っている意味が理解できない。


「さっきのこと?」

「大佐、ご存知ではないのですか?」

「何をだ」

「大将のことですよ」

「兄さん、さっきハクロ将軍に呼ばれたんです」

「何?」


 ロイは露骨に表情を替える。

 少なくとも絶対にいい気分はしない。

 そしてある程度にはすぐに察しがついた。

 追加で入った緊急会議を思えば納得だった。

 提出書類はハボックから自分の手に渡り、その手で提出した。

 気にしているであろうハクロ将軍は直接目にすることは出来なかった。だから。

 その後の本来よりも遅れて始まった会議にはもともと将軍は出席する予定ではなかった。

 だからロイにも聞くことが出来ずにいたわけだ。

 実際聞くことが出来る状態だったとしても皮肉を言いながら出なければきっときくことはできなかっただろう。将軍の性格を思えば。

 自分ですらそれなりに動向を気にしている。上層部が気にすることは当然だ。

 そしてハクロ将軍もまた、ある意味で誰よりも気にしている。

 状況も、大尉も、自分自身の保身を。


「なるほど。ローランド大尉の派遣の件か」


 意気込んで彼を推薦していた。今頃その表情以上に不安に駆られているだろう。

 ロイ自身ローランドのことは大して知らない。しかし、悪い噂は聞かなかった。

 どちらかといえば勤勉なタイプらしかった。

 こちら側としては特に何も思うところはないが、あちら側としてはあまりロイのことを芳しく思っていないのではないかというくらいだ。

 そう言ったのはハボックだった。それについては反駁したが、自分に味方してくれる部下はいなかった。


「それで?いつ呼ばれたんだね」

「今からだと…二時間は経ってないと思います」

「何?そんな前か」

「ボク達が来てからそう時間経ってないころだったので、多分」

「……一体何を聞かれたんだ」


 さすがにエドワードを不憫に思ったロイだ。

 そのロイの思考とは逆に、その一言にロイへの視線が集まった。


「何だ?」

「やっぱり知らないんスか、大佐」

「だから何をだ」

「多分、報告のほかにも何かを言われたのだと思うのですが」

「あ、中尉もそう見たんスね」

「みんなそう思ったんだな」


 ブレダも同意していた。

 だからこそ満場一致でエドワードをこの場から逃がしてやった。気分を変えるために。


「大佐なら何かご存知かと思いましたけど…」

「中尉の言うとおりです。大佐が戻ってきたら聞こうと思ってたんですけど…」

「生憎だが私も何も聞いていない」

「あいつ本人が渋ってたっぽいことだけ確かですけど」

「一体何を言われたんだ」


 ロイは不服そうに言った。少なくとも気分がいいとはお世辞にも言えない。

 そして気になることと言えば、ここにアルフォンスがいることだった。

 彼だけが残っていると言うことは、恐らくエドワードが一人で行くと言ったということだろうと容易に想像はついた。


「大佐はご存知なのかと思っていました」


 ロイはそういって書類の溜まったデスクを少し弄ってみた。

 もしかしたら伝達事項の書類が他のものと混ざってしまっているかもしれないと思ったからだ。

 しかし、本当にここにあるのだとすれば、その存在だけでもホークアイが知っているだろう。

 そのデスクのどこかに確かあったはずだ、とでも。

 その予感は間違ってはおらず、やはりそれらしき書面は見当たらなかった。


「もしあるなら、もうすぐ届くんじゃないですかね?」


 そんなブレダの言葉にハボックが同意するように頷いている。

 イレギュラーが発生して司令部内は慌てている面があるのは事実だ。それでロイに内容が降りるのが遅れてしまっているのではないかと。

 しかしロイはそんなことすら思わなかったらしい。


「気分転換がしたければそれこそここにいればいいものを…」


 不服そうにロイがつぶやいた。

 部下達の物言いも分かる。しかし気分がどうしてもよくなかった。

 ここに来れば久々に会えると思って疑わなかっただけに。

 実はこんなに楽しみにしていたのかと、自分が呆れるくらいに。

 のんびりといつ来るかどうかすら分からない書類を待っていることなど到底できない。

 ロイはホークアイを動かした。

 手っ取り早くエドワードが聞かされた内容を知る方法がこれだと思っただけのことだ。

 交換条件に出された卓上の紙の山を片付けるということにも、仕方なく同意した。

 つまり彼女が戻ってきたときには少なくともそれ相当分は処理が終わっていなければならなくなったが、ただ待つよりはましだと判断した。

 仕方なさそうに書類に手をつけてはいるが、ただただ動く時計の針が気になって仕方なかった。

 短い針が動く。

 分を刻む長い針が一周してしまった。

 一時間ほどしてホークアイが薄い封筒だけを携えて戻ってきた。

 
「遅くなりました」


 有能な尉官が持って戻ってきたのは、その封筒だけだった。

 とりあえず報告のため戻ってきたホークアイに、大佐宛の書類の入った封筒が届けられた。

 軍内便だった。

 書類を生のまま持って廊下を移動するのは個人及び内部機密漏えいの危険性を持つ。

 それゆえにどんな書類でも必ず封をされた状態で届く。

 ロイはすぐに封筒から書類を引っ張り出した。

 自分の部下であるエドワードが呼び出された後なだけに、それ関係かもしれないと思ったからだ。

 一枚目からそれらしきことが書かれてはいなかったが、きちんと目を通す。

 書類は、エドワードに関することというよりもシーアールの問題に関するものだった。

 多少なりともエドワードに関わる内容ではあるが。このことならさっき話をしてきたばかりだ。

 数枚めくったところで、ロイの指が止まった。


「大佐…?」


 そんな部下の声は届いたのか届いていないのか、ロイは黙って読み進めていた。

 そして更に紙をめくる。


「大佐?どうしたんですか」

「どういうことだ?私は意見を求められてすらいないぞ」


 覚えのない内容が追加で記載されていた。

 ついさっきまで会議をしていたのに?

 急な内容追加に伴う書類のようだった。付け加えられたこと自体はそんなに細々としたことではないようだったが。枚数からして。

 それにしたってロイは意見を言うだけの立場にはある。むしろ聞かれて当然なのに。

 このことを、たった一枚程度で収まる内容だとしても、自分が全く知らなかったというのはどういうわけだ。

 ロイはその紙に印字されている名前に気付く。


「これは」


 ハクロ将軍の名前では勿論ない。

 そこにあったのは。


「大総統直々の采配…?どういうことだ」


 ハクロ将軍は伝達者だった。

 彼ほどの地位にあるものが伝達者扱いをされても仕方ない人物といえば。確かにそうではあったが。

 ロイは上層部からの決定に従ってあの時、視察をエドワードに命じた。

 その上層部が大総統からのものだったとは。

 何を考えていたのか。

 今更それを知らされても。

 そしてさらに紙をめくる。

 ロイの表情が変わる。

 状況が状況だ。

 現状が急展開を見せることなどあっておかしくはない。

 今の地位に居るからこそ、現地ではなくこの場で報告を聞ける。

 爆撃のない。敵襲のない軍の中枢であるこの場所で。

 それでも。

 それでも。事実をこういう形で知ることになること。

 自分の管轄外で、かつ自分が結果として関わることのない事件なら、結果だけをこうして見ればいい。

 しかし今回は違うはず。

 今頃事後報告一枚だけをよこされても。

 今すぐに出来ることなんて何もない。
 

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