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長編
シリアス・オリキャラ有り どんなにその分野に博識であっても。 写真だろうと本だろうと自ら手を伸ばして触れてみなければ本当の意味での理解などできはしない。 噂なんて一人歩きは常。 自分自身確かめて初めて、自分の中で真実になる。 すばらしい発見も、美味しい料理も、スピードを誇る乗り物も。凄惨な事件も。 どれほど詳しい情報があってもそれを経験して、体験して気付く。 それで初めて自分の真実になる。 たった数分で一人の人間を理解することは出来ない。 それは何年同じときを過ごしても、達成されることは、恐らく難しい。 それでも触れてみれば、少しずつ近づいていけば。気付く。 いい面も悪い面も。 個人の評価なんて、そこからやっと始まるのだ。 ファウツは初めて、今まで『知っている』と思っていたエドワードが自分の中で作り上げられていたものだったのだと気付いた。 ただでさえ噂に名高い人物。 その時点でエドワードに対する固定観念が出来上がっていた。 子どもではないか。 たったこれだけ、触れてみただけでも子ども扱いは好まないのだと分かる。 どんなに高名な錬金術師であっても、実際は子どもだ。 何故あんなふうに振舞えるのか。 傷を負って、間違いなく痛いはずなのにそんな素振りが見られないのは、見せまいとして故意に隠しているからか。 それとも、そういう風に振舞うことに慣れてしまっているからか。 誤解を受けやすいかもしれない。 素っ気ない物言い。乱暴な口調。目立つ、その存在感。どれをとっても。 その実、どれほどの過ちを犯したのか、どれほどの業を背負っているのか、どれほど弟を思っているのか。 それを、もしもこの場にいる軍人が知ったなら、言葉にも出来ないだろう。 それhエドワード自身は例え口が裂けても言わないだろうが。 あの傷が痛くないはずがないのだ。 素っ気ない素振りをしているが、ダメージがないわけがないのだ。 錯覚を起こしそうになるのだ、周囲は。 あまりにエドワードが普通に振舞うから。 だから、周囲はエドワードが負傷している事実を薄く認識してしまうのだろう。 ちゃんと、あの少年を見ていよう。 少佐の近くに居るべきは、誰なのか。 ファウツは、静かにただ、そう思った。 * * * 落ちついた頃、エドワードは医務室に向かった。 左腕は吊るされている。 不便そうな表情を浮かべながら足は目的の部屋にたどり着く。 「入るよ」 カツン、と足音がよく響いた。 相手はすでにベッドから身体を起こしていた。 「久しぶりだね、ウェインさん」 「やっぱりエドワードだよな」 「うん」 何でこんなに気付くのが遅れたのだろう、と思う。 相手はまさか自分がこんな軍服を着て再び現れるなんて思ってもいないだろうからおかしくはないのだが。 あれだけ事情を聞いておきながら。 そしてこんな子どもが、まさか国軍少佐だなんて。 「ホント、悪かった」 エドワードはどんなことでも言われるつもりでこの場に来た。 今この姿でここにいることは、彼に対するある意味での裏切りだと思った。 「…違う」 「え?」 「違うだろ?」 真っ直ぐに向けられる視線は痛かった。それでも相手は大人だった。 激しい感情をギリギリのところでまだ抑えている。 「だましてたわけじゃないんだ…あの時はたまたまっつーか…」 「軍人なのにたまたまか?」 「……たまたまじゃねえよな。頼まれて寄ったんだ。様子を報告してくれって。軍属なのは、黙ってた」 「その年で軍人か。しかも」 階級章を見れば分かる。 しかし、十代半ばの少年が、少佐とはこの国はどうなっているのか。 「オレは少佐っつー階級に魅力を持ってるわけじゃねえけど。付いてきたっつーか…」 「付いてきた?」 「そう。オレにとってはオマケみたいなもんかな」 昇進に夢を馳せる者たちからすれば、今のエドワードの言葉は聞き捨てならないものだろうが。 欲しかったのは少佐相当の地位ではない。 欲したのは… 求めたのは。希望を見出すために欲したのは。 「オレは錬金術師だ」 エドワードの右手の中で光るもの。銀時計。 「エドワードが国家…錬金術師!?」 「そういうこと」 エドワードは肩を落として軽く笑んだ。 「そうか、だから」 「?」 「ガタが来てた家のものが、随分使えるようになってた。あれはお前達が」 「ああ、あれ?あれはただのお礼だから」 朝アルフォンスと別れの挨拶をしたあの日。夕方家にたどり着いてみると、本当に随分と掃除されていた。 ぴかぴか、とは言わないが、丁寧に掃除をしてくれたのだと分かった。 そして、グラついていた家具の脚やら微妙に歪んで建てつけの悪くなっていたドアやら、いろいろな物が直っていた。 わざわざこんなところまで、と思っていたが。理由がはっきりした。 「オレが戻った後、ここでいろいろあったみたいだな。今回のことも…」 「エドワードが指揮とってんのか」 「…どうなんだかな」 一応はそうだ、と言えるが。 「それでも今この場にいる軍人で一番階級が上なのはお前なんだろ?ならこの場の最高責任者はお前だろう」 たとえ常時司令部に身を置く者ではないとしても。理由はどうあれ、現時点で考えれば。 言い逃れは出来ない。全て事実だから。 「…町の人にはもう、随分と長い間迷惑かけてる。それはホントに、申し訳ない」 甘ったれたことを言える立場ではない。 最初から予想できた未来だったはずだ。軍の戌になると決めたときから。 最初にウェインに会ったときは、ただの軍属であって。軍属である以上無関係とは言えないが、それでも今の立場とは大きく違った。 ウェインだって分かっていた。 エドワードの着ている軍服が真新しいこと。 むしろ、それが課されたものだと分かっていても、こんな少年をいきなり放り込む軍がどうかしていると。 エドワードの実力を知らないウェインだからこそのこの評価だが、一般的に見たらそんなものだろう。 お飾りの高役職者。 エドワードの実力を知る者などそうそうはいない。軍においての戦歴などあるはずもない。 それゆえに、そういう誤解がついてまわるのは仕方のないことだ。 別にエドワード自身実力を認めて欲しいわけではない。 ただ、少なくとも今だけは、ただのお飾りだと思われているだけでは困ることだけは確かだった。 仮にもこの場においてトップに立つ者として、それを示さねばならない。 それに関してはついさっき実行に移されたわけであるが。 しかし、それは今やっと、自分が身を置くこの場で示すことが出来ただけ。 恐らくはウェインも見ていただろうが、町の住人の殆どは、一向に相手を立ち退かすことが出来ない自分達にイライラし続けていることだろう。 「口先だけの言葉はもう要らない」 「ウェインさん…」 「これは、命のやり取りだろ?間違えれば、死ぬんだ」 機械鎧が軋んだ。 鋼で出来た右拳がギリ、と鳴る。 「…帰るから」 「…は?」 「オレは、帰るよ」 「おい…」 ウェインは身を乗り出す。 「ここに居る軍人全員連れて、帰る」 「エドワード」 「目的を果たして、誰も命を無くさないで、帰すよ。待ってる人んとこに」 ウェインは、唐突に感じた。 目の前に居る将校は、まだ齢15だったと。 強い目をしていても、まだ所詮15年しか生きていない、子供だった。 「オレも、帰らねーと」 困ったように、笑う。 身に纏うその服と、あまりにギャップがありすぎるように、ウェインには思えた。 そうだ、この場にはあの弟がいない。 弟はどこかでこの兄の帰りを待っているのだろう。 「弟…アルフォンスは、ここへは来なかったのか?…ああ、国家錬金術師はエドワードだけか」 「…そう、だな」 アルフォンスは今頃何をしているだろう。 勝手に消えた兄をどう思っているだろう。 どうせすぐにバレることだった。 本来なら、自分の口から決定されたこの未来を報告しなければならなかった。 それでも、そうは思っていても出来なかった。 口に出していえなかったのは、単に自分がその現実を現実として言えるほど覚悟が、まだあのとき出来ていなかったからかもしれない。 本来なら、上官の声で知るはずだった今回の事も。 エドワードは、ロイが自分から何らかの理由があって自らの口で言えなかったのではないかと勝手に推測していた。 大佐という地位にいるロイが、今回のこの決定を知らないはずがない。 直属の者に自ら伝えないなんてことは。ロイとエドワードの間で言えば、ますます不可解。 避けられていたのかはエドワードとしては知る余地もなかったが。 あの時あの状態で、ロイとは会えなかった。 だから、本人が戻ってくる前に。 何かを言われる前に。 出てきた。 何を言われたって、何を言ったって、覆ることはない。 異見を言えるわけもない。 ロイは、一体この事実を知ったときにどう思ったのだろう。 いつかはあることだと、予想された未来だったとしても。 起こり得ることだったけれど。 (会いたい) ふと、そんなことが脳裏を過ぎった。 過ぎってから、それを振り払った。 弱くなる。弱くなるんだ。 その気持ちは、自分を強くしてくれる。 けれど同時に、弱い自分が姿を現そうとする。 会いたければ、帰ればいい。 帰りたければ、目的を果たせばいい。 ここはただの通過点。 自分が真に望むものを手にするための、通過点。 「帰ろうぜ」 「エドワード…」 「必ず、帰ろう」 あまりに待たせすぎたらそれはそれで後が恐いしさ、とエドワードが笑う。 帰ろう。 ウェインは、ただ疲れたその顔で笑って返した。 PR |
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