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長編
シリアス・オリキャラ有り



 軍部内にシーアールとトリプロウの問題が伝わった頃。

 大きな湖のそばに建てられた軍の緊急司令部兼宿舎は混乱していた。

 ローランドはやや大胆に動こうと画策してしていた。それに伴う先陣を送ったところだった。

 予想以上に向こう側は火薬の類は事足りているらしい。

 軍に所属しているくせに、臨機応変に行動できる人物が少なかった。

 経験の浅い人物が多すぎるのは事実だとしても。

 それでもここにいる以上そんなことは言ってなどいられない。

 指揮系統が乱れがちになっていた。

 指示が行き渡らない現状に、ローランドは苛立ちを募らせる。

 これでは本来勝ち試合であったとしてもみすみす相手にそれを献上するようなものだ。

 どんなに有能な指揮官がいたとしてもその能力が発揮されないのであれば全く意味をなさない。

 それこそ予想外のことが起ころうが起こるまいがそれ以前の問題だ。


「現状報告は」

「は、はい」


 書類を携えながらファウツが返事をする。ファウツなりに状況をまとめてきたらしい。


「ファウツ中尉以外にある程度の報告を出来るものは居ないのか」

「…は?」

「報告すらまともに出来る者はいないのか」

「それは…申し訳ありません。私が動きますので」

「それに関して君が謝る必要はないだろう。君がそういった面に秀でていることを抜きにしても、酷すぎる」


 ファウツがそちらの方面にメインに動いてしまえば、統率力に問題が出る。

 渡された書類を横目に、デスクに広げられた地図やその他の情報をローランドが確認する。


「とにかく事態がこう動いてしまった以上これに対抗しつつ主導権を確実にこちらが握らなければならない」

「はい」

「第一小隊を動かす。後、ここの入り口付近であたふたと無駄な動きをしている者たちを何とかしろ。所属はどうなっている」


 報告に戻ってきた者、負傷して担ぎこまれた者様々が混乱していた。

 実戦に慣れていない者が多く、統率が取れていないこともまた事実。

 しかし理由が何であれ同じ軍服を着て、ここにいる。やるべきことは定められている。

 分かって入ってきたはずだ。逃げられるわけもない。子どもではないのだから。

 強制で一般市民がある日突然国のためにこの場へ送られたわけでもない。

 そう、子どもではないのだ。


「とにかく立て直す。動揺するな。それでは思うツボではないか。出払っているものを除き各々持ち場へ動くように」

「了解しました」


 ローランドの言うことに異論はない。

 ただひとつあるとすれば、軍は相手を甘く見ていたということくらいだ。

 そして、送られてきた軍人達も同様だった。

 本当の意味で第一線に立てるような者たちはひとりもいない。

 皆、心のどこかが緩んでいた者ばかりだった。

 久方ぶりに銃を、ただの練習でない目的で持った者たちには荷が重過ぎる土地だった。

 それでも、そんなことは当然言ってはいられない。

 そして、相手に屈するわけにもいかない。

 ローランドにしてみれば、援軍すら待ってはいられない。援軍を受けることはできなかった。

 とにかくこの状況をまずは打開しなくてはならない。

 そして上に報告をあげなければならなかった。

 ローランドが緊急司令部の外に出ると、途端に凍てついた風が身体を駆け抜けていく。

 視界の先には、問題の土地がかすかに見える。

 自分が出向いていくことなど、容易い事だ。しかし今自らが行くわけにもいかない。

 こちらにそんなに余裕がないのかと思われるわけにはいかない。相手側は自分のことをデータとして知っているはずだから。

 軍側としてもただ適当にやってきたわけでは勿論ない。

 今回のダメージがないとは、勿論言えないが、相手側が無傷というわけでもない。ただ、表立った向こう側の攻撃が派手だった。

 早急な立て直しは当然として、後はいかに動けるか。

 どう転んだにせよ、終結はそう遠くない未来だ。

 そして、こちら側が負ける未来は、当然有り得ない。


「以上です、大尉」

「ああ、ご苦労。引き続き頼む。そして」


 ローランドは周囲に報告に来ている各軍人に言葉を放つ。


「とにかく報告連絡相談は基本中の基本だ。どんな若造でもそれ位知っている。基本を怠るな。個人での勝手な判断も間違ってもするな」


 ローランドはそれぞれに指示を下した。

 入り口に溜まる無駄とも思われる人員の整理とともに。そして負傷者の把握。

 以下に現状を的確に知り、打開策を打ち出すか。


(そう)


 冷静で居なければ周囲を把握などできない。


(私は冷静だ。まだ負けたわけではない)


 ガタガタになど、なっていない。まだまだ問題ない。早めに立て直しの報告をあげられれば、きっと。

 ただの一個人の戦いではない。自分の後ろにあるものを思えば。

 あの自分を推した上官の元へ持ち帰るものによっては、いい結果にもなれば大損害にもある。激しく二面性がある。

 勿論悪いものを持ち帰るつもりは毛頭ない。

 使えないものをただ「これは駄目だ」と突っぱねるわけにもいかない。それをどううまく扱うのかが問われている。

 今頃援軍を送るかどうかで上層部は揉めているかもしれない。

 それはやはり最初に相手を見くびっていたということだった。だからそれなりの見掛け倒しの軍人の比率が多いのだ。

 それでもやはり曲がりなりにも軍人なのだ。やるべきことはやってもらう。


「帰りたいだろう」

「は?」

「生きて帰りたいだろう」


 突如問われた軍人達は言葉を詰まらせる。


「帰りたければ、勝つしかない。ここは戦場だ。怯めば自分の命が絶たれる。甘いことを考えるな」


 怯めば一瞬の隙が生まれる。その隙こそを、相手が狙っているとしたら。


「難しいことはない。私はここへ来ている軍の者を家へ帰さねばならないからな。自ら命を亡くすなよ」

「大尉」


 確かに時には戦場に赴くとしても、役割というものがある。

 必要があるならば言葉なんていくらでも。

 人数は必要なものだ。言った言葉は嘘ではない。


「大尉。ありがとうございました」

「何のことだ?」

「さっきの言葉です。混乱気味だった者たちが随分落ち着きました」

「たったあれだけで落ち着くのなら、パニックになど陥るなといいたいけれどな」


 予定通りになんて行くはずがない。相手だって必死なのだから。

 プログラムで作られたゲームではないのだから。

 簡単にいくことなのなら、歴史は繰り返されたりしない。


「どちらにしても時間はそう残されていないんだ。もう決着がつく」

「大尉」

「そのためにやってきた。そろそろ中尉も含めて戻ろう」


 マイナスな結果を持って戻らないために。

 例え多少の犠牲を持ち帰ることになっても。

 それの上を行く結果を。


「負け犬にはならない」


 こんな小競り合いは終わらせる。

 勝者は一人で十分。

 それを相手にくれてやる道理はない。



* * *



 緊急司令部はローランドの言葉で、少しは落ち着きを取り戻しつつあった。

 奇襲はいつあってもおかしくはないのだから、それ一つを受けて簡単に混乱するようでは相手の思う壺だと改めて思ったらしい。


「相手の希望通りになるわけにはいかないもんな」

「力はこっちのが上なんだ。段取りあってあるんだろうし、集中力を切らないようにしないとな」

「…まあ、甘いこと考えてると痛い目見るぜ?」

「それはそうだな」


 会話していた一人がふと、一緒に会話している人物を見やった。


「自分の身は自分で守らないと。勿論こっちだって気にはしてるけど限界あるしな」

「ああ…」


 じゃ、と言って一人がその場を離れて行った。


「確かにそうだよな。生きて帰る為だ。仕方ないって簡単に割り切れないこともあるけど」

「なあ」

「ん?」

「見たか?」

「何を?」



* * *



 ローランドはファウツに作戦の指示を出した。

 数人でその確認をし、意見を多少聞き入れた結果の指示。


「ではこれで。…?」


 再び資料に目を通したばかりのファウツがふと顔を上げた。


「また表の方から声がしますね」

「また何か盛り上がっているのか。私の言葉は通じていないのか」

「いや、それはないと思いますが。見てきますか」

「いや、いい。君がわざわざ動くことはない。必要なことなら向こうから来るさ」


 例えば何かが送りつけられてきたのなら誰かが報告に来る。

 そして、ローランドの言葉は間違ってはいなかった。

 扉を誰かが叩いた。


「入りたまえ」


 やっと冷静に報告できるようになったのかと半ば呆れるようにローランドは答えた。

 報告すらままならないというのはどういうことだ。ここは学校ではないのだと既に数週間思っていたためでもあった。


「…失礼」


 小さな声がしてドアが開いた。


「随分と苦戦してるようだけど」

「…何?」


 相手の唐突な言葉に鋭い目つきでローランドが反応する。


「誰だ?大尉に向かって失礼だろう」


 ローランドもファウツも、ホルスターに手を伸ばしたのは、瞬間的なことだった。本能だ。無意識に手が動いていた。

 半開きになっていたドアノブを握ってファウツが扉を開け放つ。誰だかを、単に確認するために。

 一瞬、敵にここまで入り込まれたのかと思ったのだ。揶揄するようにも取れる言い方だったから。

 しかし目に飛び込んできたのは、自分と同じ軍服だった。

 相手がこちらの軍服を手に入れて内部調査をするという可能性の否定は出来ないが、どうもそうではないらしい。

 単に自分が顔を見知らないだけかと考えた。

 しかしその考えも間違っていたことにすぐに気付いた。


「お前は」

「久しぶり。…でもないかな」


 声の主は軽く腕を組んで柱にもたれかかった。

 肩の階級章は、ファウツのものともローランドのものとも違っていた。


「…少、佐」


 星はひとつでも、ファウツやローランドの肩に乗る章とは絶対的に違うもの。佐官の証。

 着心地の悪そうな本人には気付きもせずに。

 
「…鋼の錬金術師」


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