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長編
シリアス・オリキャラ有り



 ここの指揮をロイが執っていたなら、きっともっとスムーズに終結していただろう。そんなことを考えてしまう。

 悔しくても事実。

 だから、終わって、戻ったら。

 何とでも言って。

 まだまだだな、と言って笑ってくれていい。

 そうしたら、アンタほど手練じゃなくて悪かったな、って返してやるから。

 時間がかかった分は、アンタのその大佐っていう地位でカバーしておいてくれよ。

 もうすぐ、きっと帰るからさ。


* * *


 シーアールの空は、澄んでいて青かった。

 風は相変わらず凍てついていて鋭く頬を掠めていた。

 その風は傷ついた部分に沁み込む。傷を負っているのだという自覚が戻される。

 しかし、それもつかの間。

 爆風と、硝煙の臭い。

 エドワードが目にした光景は、まさに硝煙弾雨だった。

 眉間に寄った皺は、すぐに気付くことができなかった己への怒り。状況判断が一歩遅かった。

 そのたった一歩が命取りになると知っていたのに。

 炎が上がっている。

 エドワードは情報を報告させた後、臨機応変に各隊に指示を出し、自身もすぐに走り出す。

 はじめはローランドもファウツもエドワードの近くに居たが、すぐに別行動になった。

 視界が悪い。無理に一緒にいる意味がなかった。

 ある程度の指示だしを二人に許可し、優先事項の再確認をして離れた。

 確かに最初にエドワードが見た光景は苦しいものだったが、すぐに現実が見え始める。


(やっぱり)


 人数が少ない。

 派手な攻撃は、あらかじめ用意できる。

 この場に用意させてしまったのは軍の、最終的には指揮を執るエドワードの失態だった。

 しかし、既に相手方の限界を読んでいたエドワード達の心理を崩すことができなかったトリプロウのテロリスト達には勝ちはなかった。

 冷静に、確実にしとめればいい。

 殺すな。

 そして、死ぬな。


「ッ!」


 ギィン、と派手な音がした。

 エドワードの左足に銃弾が当たった。

 相当の至近距離だったらしく、反動がエドワードを襲う。

 付け根が悲鳴をあげた。

 しかし、当たった位置が、エドワードにとっては不幸中の幸いだった。


「ちっきしょ…!」


 それでもやはりバランスを崩したエドワードは倒れる際に機械鎧の鋭い切っ先を相手に振りかざす。

 素早く両手を合わせて刃の厚みと太さを変化させ、切っ先を伸ばした。

 左腕が言うことをきかずにエドワードはその場に倒れる。

 それでも急に現れた刃に、相手が反応しきれずに倒れた音が、確実にエドワードに届く。


(よし…)


 すぐに体制を立て直して機械鎧のバランスを戻すと、倒れた相手に近づいた。


「確かにオレの失態だったな。こんな、軍の施設の裏側に何の用?」


 静かに、機械鎧を突きつけたまま、エドワードの声は相手に降り注がれた。


「この先は湖しかないぜ?」


 崖になっていることを知らないはずはない。

 高さで言えば、大したことはないにしろ裏に周る理由など一つしかない。

 こんな裏手にまで回られていたのは、確かにエドワードの、指揮官の失態であるけれど。


「さっき、自分の脚やっただろ。逃げられねえんだし、言うこと言った方が懸命だと思うけど?」


 相手の足が、不自然に曲がっていた。


「どうする?」


 もうすぐ。

 帰れるよ。

 帰すよ、全員。

 返すよ、この街を、住人に。


「ほら、向こう見て決めた方がいいんじゃない?」


 エドワードは首で相手を促す。

 示された先は、立ち込めていた硝煙は随分と落ち着いていた。

 最後の特攻は、不発に終わったことを示していた。


「まあ、これだけ軍人集結させて、てこずらせたのは悪人としては頑張った方かもしれないけどな」

「っ…」

「あんた結構軍を舐めてだだろ?こんなガキが軍服着てるのも含めてな。それが敗因だっつの。

 使えねえ将校もいるけど、使える奴もいんだよ」


 そして、相手を舐めた上での作戦を用意した自分たち自身が敗因であると、気付け。

 地獄を見たものだけが知る境地を、相手は知らない。

 エドワードは、エドワードとアルフォンスしか知らない地獄を見てきた。

 ロイは、あの殲滅線を体験した者にしか分からない地獄を見てきた。

 絶望的な光景を見て。逃げることもできずに。助けを求めることも出来ずに。

 ただ、声にならない悲鳴を上げることしか出来ずに。

 いま、ここにいる。

 むせ返る血の臭いが好きか。この臭いが。

 硝煙の臭いが好きか。

 そんな奴は、一度味わってから言え。

 己が生きるために戦う、生き物の闘争本能を超えた生き物。それがヒト。

 そこに快楽を見出すのなら。利益を得るためだけに見出すのなら。

 それなら。


(オレは…)


 どうしたらいい?

 教えてくれよ、大佐。


「全部、吐けよ」


 前には、軍のほぼ勝利の光景と、野望を砕かれた者達が。

 後ろには、そんな前に広がる光景とは遠く離れた、静かに水面を湛える湖が。

 エドワードの機械鎧の切っ先が、少しだけ相手に食い込んでいた。

 一筋。血が流れ落ちていく。ほんの少しずつ。

 終わりにしよう。

 もう、こんなことに錬金術を使いたくない。

 それで苦しんだ錬金術師がたくさんいる。

 守るために、という思いだけで、攻撃を繰り返していた術師が。

 攻撃した分だけ、自らの心も痛めてきた術師が。

 できればこれ以上は、ロイにも見せたくない。

 自分が錬金術でヒトを傷つけ続ける姿を思わせたくない。

 だから、できるだけ、錬金術を使わずにどうにかできたらいいのに。

 本当は持ちたくもない銃を片手にしているのは。ナイフを仕込んでいるのは。


(そりゃ、何だってヒトを傷つけてることに変わりはねえんだけどさ)


 特に自分は、他でもない錬金術で機械鎧を変形させているのだから。

 それでも、化学物質を変化させて攻撃している姿を、ロイに想像させたくなかった。思い出させたくなかった。

 やろうと思えば、実力にも理解力にも材料の量にもよるが、どれだけのヒトを一思いに殺せるか。

 一般人が思っている以上に、可能だろう。

 自分なら。ロイなら。

 だからこそ、もうやめよう。

 人を殺めるために生きているんじゃない。


「後は、中央にいるオレなんかよりずっと偉い奴らがあんたの相手してくれるよ。今更無駄なこと考えるなよ」

「っ…!少佐!」


 エドワードの姿が見えないと、探していたのだろう。ファウツが走ってくる。


「あー、中尉。ここに一人確保。こいつ脚いっちまってるから、頼むよ」

「は、はい。少佐は…っ」

「オレ?オレは大丈夫。後で包帯貰いに行くからさ。行かないと、怒るだろ?」

「あ、当たり前です!」


 どう見たところで、エドワードが無傷だとは思えない。

 もともと、左腕はまだ大して動かないままだ。

 それが分かっているから、あえてエドワードは先手を打った。

 その程度だから。

 心配しなくていいと。

 エドワードは相手に機械鎧の切っ先を突きつけたまま、よろりと立ち上がった。

 脚は動くが、ダメージはあるようだった。動きが鈍い。付け根が軋んで痛かった。


「少佐?」

「ん?ああ、脚にちょっと当たってさ。機械鎧の方だから、気にすんな。後でちゃんと技師に診てもらうよ」


 たった十五歳なのに。どうしてそんなに周囲のことを気にするのか。出来るのか。

 身についてしまったのか。

 ファウツは、それが心配でもあった。

 心に、多分いろいろ隠していると瞬間的に悟った。


「後で、絶対に医者に診てもらいますからね」


 半ばむきになって再度言うファウツに思わず苦笑する。雰囲気も声も全く違うが、思い出してしまう。

 そういうふうに思われやすいのか、エドワード自身が分かりやすいのか、本人の知るところではないけれど。


「わーったよ。それより、こいつ」

「はい。後」

「…何?」

「あちらに」


 ファウツは、左手で奥を示した。

 一人、こちらに向かって歩いてきていた。

 一瞬ローランドかとも思ったが、それは違うのだとすぐに気がついた。

 気がつかないはずはなかった。

 見間違うことが出来なかった。

 その姿を。


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