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長編
シリアス・オリキャラ有り



 あの人物の言うことを聞けというのか。 

 周囲から微かに聞こえてくるその内容は、エドワードも分からなくはない。

 驚かない人物などいない事くらいエドワードも分かってはいたが、やはり気分は良くない。

 もともと好きでここに来ているのではない。

 来たかったと言えばそれは事実ではあるが、自由に動けない分面倒くさい。

 そもそも影でこそこそ何やらを言われることを嫌だと思わない人物なんていないだろう。

 袖を通した新しい軍服も、見慣れてはいたが実際に自分用として支給されたものを着てみると変な感じがした。

 それにエドワードがここへ到着したときにはすでにローランドは策を練っていて、すでに実行に移った後だった。

 少佐が派遣されてくると分かっていればそれはなかったのだろうが。

 本来ならそういう伝達があって当然なのに今回は不可解なことがいくつかあった。

 それはロイがエドワードがこの場に行かされることを知らなかったことを含めて。

 ローランドが少佐が派遣されてくることを知っていた場合は、それはそれで結局エドワードの姿を確認したところで反応は変わらなかっただろうけれど。

 そもそもエドワード自身、戦闘経験がないわけではないが、あくまで個人戦だ。

 士官学校を出たわけでもないし、一兵卒として身を投じたこともない。

 個人技はあったとしても、この場にいる者の中ではある意味一番の素人でもあった。

 何人動かせる部下がいたところで、軍事能力はないのだ。

 それとも負け戦とみなして、せめてもの体裁を繕うために用意されたコマだったのか。

 真実は結局のところ見えるわけでもない。

 とにかくエドワードはここから帰らなくてはいけない。ただそれだけだった。

 帰るためには、この場で起こっていることを終わらせなくてはならない。言葉にすればなんと簡単なことだろう。

 そしてここにいる軍人たちも帰さなくてはならない。

 理由はどうあれ、敵側から見ればエドワードもただの敵の一人なのだ。

 敵将を討つ意味はエドワードも良く知っている。

 ここに来てから十日経つ。

 早く帰りたいという気持ちだけ逸る。


「少佐」

「…」

「エルリック少佐?」

「ん?」


 振り返ると、ファウツがいつの間にか傍に居た。


「あれ?いつ来た?」

「今しがたですが。考え事ですか」

「オレ?まあ確かに考え事してたけど、どうもその呼び名になれてねえっつーか」


 呼ぶことはあっても呼ばれることには慣れない。


「まあ、中尉達にはあんま聞こえはよくないだろうけど、オレは別に少佐になりたかったわけじゃねえし」


 目的は他のところにある。

 今は目的から大きく離れたところに居るけれど。


「で?どうした」

「今さっき小隊が戻ってきました。少佐に報告をしたいそうです」

「もう?やけに早いな…」


 エドワードがは風が吹き込んでくる窓に目を見やった。

 空はまだ明るい。

 夜が明ける前にここを発ったが、予定では日が暮れた頃だったはずだ。まだその時刻よりも…。


「それで、あの」

「何?」

「人数が、足りないのです」

「人数?」


 エドワードが眉をしかめた。

 そのとき動いたのは咄嗟のことで、本能が察知したような感じだった。


「中尉伏せろ!」

「え?」


 エドワードはファウツの返事を待たずにファウツに飛び掛った。

 ファウツはいきなりエドワードに倒され、理解できないままに床に押し付けられた。

 エドワードはファウツの頭を床に押し付けながら、自分も身を屈めた。 

 その直後。シャン、と聞こえた音は可愛らしかったが、鋭利な棘を持っていた。

 開けられていた窓が割れたのだ。


「くそ!」


 エドワードは降り注がれた破片を払いのけるように瞬時に防御壁を錬成する。


「中尉!?」

「すみませんっ…私は無事ですが、一体どこから」

「人数足りなかったんだろ!?予想の一つくらい浮かぶだろ。嫌な展開だな畜生」


 再び手を合わせるとエドワードの右の袖口から光る鋭利なものがすらりと伸びる。

 割られた窓ガラスを気にせずに勢いよく窓からするりと外に飛び出したエドワードを、一瞬遅れてファウツが追う。

 外では数名が戦っていた。

 それを目で素早く確認すると、再び手を合わせて両手を地についた。

 途端。


「!?」


 ドン、と派手な音がして戦っていた軍人数名全ての目の前に防御壁が現れた。

 これには錬成した本人を除く全てが躊躇いを見せた。何が起こったのかを瞬時に判断できないからだ。

 派手な音もその効力の一つだった。

 その隙にエドワードは駆け寄り、敵の一人に切りかかった。

 その切っ先は相手を捕らえる。


「安易に敵陣に踏み込みすぎだ。お望みどおりそろそろ終わりにしようぜ」


 喉元に切っ先を突きつけられた相手は動けない。


「そっちも分かってんだろ?もうこの戦いはこっちに分があることくらい。だからそんな捨て身で来てんの?」


 エドワードは別に相手の返答を欲しているわけではない。

 簡単な事実確認。

 ここにしばらく居て分かった。

 本来ならこんなに鎮圧に時間がかからなくてもよかったはずだと。

 もしもロイであったなら、とっくに片付けているだろう。

 ロイの場合は実力も部下もここに居る者とはある意味で比較対象外かもしれないが。


「そっち、本当は結構もうやばいんじゃねえの?」

「…」

「幾ら資源あったって無尽蔵じゃねえからな。それにメンバーも実は大していないんじゃねえ?」

「っ」


 相手の顔がやや苦渋した。


「そろそろ諦めたほうがいいぞ」


 エドワードが動こうとしたときに後ろで音がした。発砲音だった。


「え?」


 一瞬の隙を突いて敵方の一人が発砲した。

 誰かが崩れ落ちた。エドワードは視界の端でそれを捉えた。

 その瞬間敵はエドワードの視線が自分から外れた、と思った。自分に突きつけられた切っ先を弾き飛ばす。


「!しまっ…」


 袖口に仕込まれていた短刀でエドワードの機械鎧を弾いた。

 その結果エドワードに無防備な時間が出来てしまう。

 短刀はそれを狙ったかのようにエドワードの心臓を目掛ける。


「ッ!」


 エドワードは無理やりバランスの崩れた身体をよじる。

 短刀はエドワードの胸には届かなかった。

 届く前に左腕がそれを阻んだ。

 短刀は左腕に食い込む。

 途端に鮮血があふれ出す。

 深い傷にはならずに済んだが、思わずエドワードは顔をしかめた。

 しかし勝機を逃したその短刀を持つ相手の右手をエドワードが右手で払う。


「何してる!」


 短刀は相手の手から離れ宙を舞う。

 数秒間動けなかった軍人達が我にかえり相手を捕らえた。


「さっき撃たれた奴誰だ!?大丈夫か!」


 人が数名集まっている。

 その中心に居た人物は、軍服を着てはいなかった。

 しかし敵ではなく。

 エドワードは左腕を押さえながら走り寄る。

 けが人を抱きかかえていたのはローランドだった。

 外に異変を感じて出てきた。タイミング的にはエドワードが出てくる直前だった。


「おい…!」


 う、とうめき声が漏れた。

 傷口を見て、かすり傷だと分かると全員に安堵の表情が浮かんだ。


「意識はあるな?大丈夫か!?」

「っ…」


 表情は歪んだままだったが、意識はあるかという問に、微かに首を縦に振る。


「…軍服は」


 そう問いかけようとして、すぐに思い当たる。

 もともと知っていたこと。

 知っていたのに、どうして忘れていたのだろう。

 そうして真っ先に指示を出さなかったのだろう。

 他の、大尉以下の軍人に何と言われようとも真っ先にすべきことだった。


「済まない…!医療班!!」


 謝ったのは、怪我を負わせたことと、今まで街の人物たちへの指示を正式に解除しなかったことに対するもの。

 自分が指示したところできちんとその後を把握していなかった。

 軍は頼りない、と住人が思うのは分かる。

 ここでは上に立つエドワードが見ていないところで、中堅クラスの誰かが住民へある程度の指示を勝手に出すのも可能性は否定できない。 

 エドワードは後方にいるであろう医務班を呼ぶ。自分よりも重症である者を先に診るように指示した。

 ここで倒れている人物は軍人ではない。

 一般人だ。

 この場にいたのはその個人の意思であるから軍が面倒を見なければならない義務はない。

 それでも責任はあるとエドワードは思った。


「し、しかし少佐」

「いいから!その後でも二班でもいいから、オレのことは」


 担架に乗せられる負傷した人物に目をやり、エドワードも力を入れて立ち上がった。

 弱い姿勢を晒すわけにはいかなかった。


「大丈夫だから」


 相手の目が、初めてエドワードを捕らえた。


「…お前は」

「責任者。すまなかった」


 運ばれていく姿を、エドワードは見つめていた。

 そして聞こえた言葉。

 聞き間違いか、と思った。


「軍人だったのか」


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