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長編
シリアス・オリキャラ有り



 ハクロ将軍について行ったのはエドワード一人だった。

 部屋についてみれば予想通り、その目的をすぐに話し始めた。これはビジネスだ。ここは軍内部だ。自分の置かれた立場を思えば当然だ。

 部屋にはすでに見慣れた軍服を着込んだ数名のハクロ将軍直属と思わしき部下がいた。

 基本的なことは当然その部下達の仕事だった。

 エドワードは黙ってそれを聞く。

 黙っていていれば自分が発言しなければならない状況になる。

 ここにいること自体不機嫌極まりないことだったが、言葉にはしなかった。

 おそらくアルフォンスあたりにしてみれば、食って掛からないだけ成長したとでも思うかもしれない。

 それでも、食って掛かる気にはなれなかった。それだけだ。

 ただ、ここでエドワードにとっては予想外な動きがあった。

 ささやかな動作だ。不気味な動きでも何でもない。

 本来なら気にすることのない。何も変哲のない。


「……」


 目の前にいるのはロイではない。

 だが、自分の前に座ってこちらを見ている。

 重い空気。

 そして雰囲気。

 そして現実。

 そして語られた言葉。

 不服そうにゆがむ唇。



* * *



 三十分程経った頃か。エドワードはロイのオフィスに顔を出した。


「兄さん!終わったの?」

「…ああ。悪ぃな待たせて」


 そんなことないよ、と屈託なく弟は言った。


「で?何だって?将軍は」


 書類の山に仕方なく手をつけていたハボックがエドワードを見る。


「別に。あらかた予想通りな内容だよ」


 エドワードは素っ気なく答える。

 ハクロ将軍の下から戻ってきたばかりだ。仕方ないかもしれなかった。


「まだエドワード君の提出したレポートは見ていないものね。重複することも聞かれたのでしょう」


 ホークアイの言葉は間違ってはいない。素直に頷いた。

 聞かれるのは当然のことだっただろう。少し待てば書類が回ってくるだろうに。

 そこまで仕事熱心なのか。

 それには、あの人物が気にする理由があったから。

 軍の、それも将軍という役職についている以上、心配しないはずはない。

 しかしそれ以上に彼には心に引っかかるものがあった。


「あんまり急に情勢が変わったもんだから余計心配なんだろ」


 伝わってこない情報。被害状況。何がどうなっている。

 指揮官はどうした。どうなっている。動ける人数はどれくらいいるのか。指揮官は指揮を取ることが出来る状況にはいるのか。

 こちらの不利になってはいないか。

 指揮を取っているのは一体誰だ。

 派遣された期待の人物だというのなら。

 誰だ。誰がその人物を推した。

 つまり。


「あの大尉の派遣を推薦したのがあいつだったってことだよ」


 そう、それが理由。


「後見しているのね?」

「じゃねえの?そりゃ自分が気合いれて推薦した奴がしくじれば困るのはあいつだろうし」


 面倒くさそうにエドワードは言った。

 簡単にパズルは組みあがった。

 分かってしまえば至ってありきたりな展開だ。

 こんな時にまで自分の名誉か。

 所詮そんなものかと、呆れるだけだった。

 ただ、呆れるだけでもいられなかったくらいだ。

 だからこそ、いち早く知りたかったのだろう。知ったところで大した策を講じることも、何かをてやることも出来やしないのだろうに。

 分かっているから、あのローランドもそれなりにやっていたのだろうに。

 少なくとも頭の中では理解していたようだった。

 結局は理解していたところで実行に移せなければ意味がないのだが。

 所詮は結果が全てか。


「一番今回のことで困ってんのがご本人様ってことだな。オレから聞くなら行った方が早いっつの」

「それができないから呼んだんだろお前を」


 これが現状かと思うとエドワードは司令部は大丈夫なのかと思えてならない。


「で、大佐はまだなわけ?」

「うん」

「そっか」


 もともとの予定時間はまだ残っていた。遅いのは、単に緊急会議が時間を食っただけ。

 エドワードは壁にかけられている時計を見上げた。

 ただ、思っていたよりも時間が経過していた。

 エドワードは小さくため息をついた。


「何かまだ当分帰って来なさそうだなー…オレ図書館行って来ていいかな」

「図書館?」

「時間勿体無いだろ?ちょっと行って来るからさ、アルはここでとりあえず大佐を待っててくれね?」


 二人揃ってこの場を離れることは恐らく出来ないだろう。

 もうここにはホークアイ以下メンバーが揃っている。

 逃げるとは言わないが、丁重に今この場を後にすることは出来そうにない。

 しかし時間は待ってはくれない。

 こうしている間にも、やりたいことは沢山ある。


「それならボクも行くよ。でもそれより大佐を待ってなきゃ駄目なんじゃないの?」


 もう一度アルフォンスが聞いた。

 アルフォンスの言うことは正しい。その為に来た。

 エドワードは仕方なさそうに、頭を抱えながら答えた。


「もともと図書館には行く予定だったろ。今のうちにオレだけまずは行って、後で二人で図書館に行ったほうが効率いいだろ?」


 エドワードはポケットにある銀時計を触りながら言った。

 気分転換をしたかった。

 エドワードがハクロ将軍に呼ばれたことで少なくともいい気分ではないことは、周囲の誰もが感じている。

 気を使ってくれていることも、心配してくれていることも。

 自分は直属の部下ではない。ハクロ将軍は、エドワードにとってはただの上役だ。

 本来なら、何か指示されるならロイからであるはず。

 だが、それをエドワードは口にすることがなかった。

 口にする前に、向こうから次の言葉があったからだった。

 それで、エドワードは言おうとしたその言葉を言わなかった。先に言われたということだ。

 求められていたのは恐らく国家錬金術師。

 しかし、そうそう指示を出せる人物が、しかもこんな急にたくさんいるわけはなかった。

 だからきっとエドワードに白羽の矢が立った。立ってしまった。

 自分もまだ国家錬金術師でいなければならない。

 断固断れば少なくともロイにも支障を来たす。

 自分はきっと無骨に嫌な表情をしていただろう。

 そしてそれは、相手側もそうだった。

 そしてなにより、その決定を下したのがハクロ将軍ではなかったから。

 彼はただの伝達者。

 でなければ、納得などしない。


「人が足りてねえのかよ軍は?」

「優秀な人は…有能な人物はそう沢山はいないわね」

「…そんなすんなり言わないでくれよ中尉…」


 ありきたりな年功序列ばかりでないことは知っている。もしそうならロイは大佐の地位にはまだ居られなかっただろう。

 かといって完全実力主義なシステムでもないだろう。ロイはその過去の功績ゆえの地位なのだろうから。しかし。


「国家錬金術師は何でも屋じゃねえっつんだよ…」


 ため息が出る。

 分かってはいたけれど。


「都合よくいたのがオレってことだろ…本気で戻ってこなけりゃよかった」

「兄さん、やっぱりボクも」


 エドワードはアルフォンスの言葉を遮った。


「…駄目、か?」


 う、とアルフォンスが下がる。

 ハボックは今のエドワードの一言が自然に出たんだろうということを分かりつつ恐ろしいと思った。


「だってさ…二人してサボると後々大佐にも何か言われんだろ?それもむかつくし」

「それはそうかもしれないけど…」


 エドワードは弟を見上げた。弟はそれを受けて答えた。


「気をつけてね、兄さん」

「当たり前」


 大体なんでオレがこんなことしなきゃならねえんだ、と愚痴る兄を見て、仕方なさそうにアルフォンスは手を引いた。

 想像以上に気疲れしたのかもしれない。

 エドワードに限ってそういうことはあまりなさそうだが、気分を害しているのは分かる。

 見慣れた、嫌そうな表情。

 嫌な事実を知ったときの顔ではなく、面倒なことに関わったときにする顔。

 ロイに同じことを言われたくないというのも分かる。ここで無視して後にロイに何かを言われると腹立たしいというのも分かる。

 むしろ黙って勝手にどこかへ行かれるよりは。

 何も口にせず黙って腹の中に溜め込まれるよりは。


「大佐戻ってきたら、そう言っといて」

「分かったわ」

「ったく、どいつもこいつもこき使いやがって…」


 二度も同じことを言われるのは御免だ。


「じゃ、ちょっと行ってくる」

「うん、気をつけて」

「ごめん、中尉」

「いいのよ」


 柔らかい表情でホークアイが笑う。


「エドワード君の気持ちも分かるわ。あまり遅くなりすぎないようにね」

「…努力するよ」


 エドワードは肩をすくめた。


「アル」


 エドワードの声が、弟の名前を紡ぐ。何度となくエドワードの声が音にする、弟の名前。

 アルフォンスが視線を改めて向けた。


「じゃ行って来るよ」

「行ってらっしゃい」


 その場にいる人間にそう言って、エドワードは扉を閉めた。

 いつも身に着けている黒の上下姿のエドワードは、慣れた手つきでやはりいつも着ている赤いコートを羽織る。

 そして数歩廊下を歩いてから、廊下の隅に置かれていたいつも持っているトランクを担ぎ、紙袋を持って再び歩き出した。

 金糸のような髪を揺らして。

 その足音は、だんだんとオフィスから離れていく。

 音が小さくなっていく。

 その音は目的地へと向かっていった。

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