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長編
シリアス・オリキャラ有り


 ウェインの家の二階の部屋を借りたエドワードとアルフォンスには、ベッドと簡易ベッドが用意された。

 もともとベッドはしばらく使われていないままだったらしい。

 自分の使っているベッドとは別のようだった。

 どっちも本当にしばらく使ってなかったからな、綺麗じゃなくて悪いがそれでもよければ使ってくれ。

 そう言って部屋を出て行ったのが、昨日の夜のこと。

 ベッドを軽く掃除して、洗濯済みのシーツに替えれば充分だった。

 明け方、本を読んでいたアルフォンスは下で物音がするのに気が付いた。

 ウェインはもう起き出しているようだった。

 アルフォンスはエドワードを起こさないようにゆっくりと動き出すと、階段を降りて音のする部屋の方へ進む。

 そこには食事の済んだらしき皿とコップが残っている。


「ん?お、アルフォンス。起きたのか?早いな」

「おはようございます」


 アルフォンスはウェインに向かって挨拶をする。

 ウェインはといえば、すでにある程度の支度が済んでいるようだった。


「もう出かけるんですか?」

「ああ、今日は早めに交代することになってるんだ。置手紙でもしていこうかと思ってたんだけどな」


 無理に起こすのも可哀想だと思ってのことだろう。


「兄さん起こしてきます」

「ああ、いい、いい。いらねえよ。好きに寝かせとけ」


 ウェインは屈託なく笑う。

 二十代半ばといった外見をしているが、笑うと以外に子どものようにも見えた。


「こんな家なんでさ、飯もろくなモンないけど。パンとスープしかねえけどそれでいいなら食ってっていいよ」

「でも、そんな」


 宿賃代わりといってはなんだが、少しは気持ちとして貰ってくれと昨日エドワードは金を渡そうとしたが、ウェインは結局受け取らなかった。

 善意は善意として受け取っとけ、とそれだけで。


「鍵は置いてくから、かけたら隣の家の奥さんにでも渡しといてくれるか」

「はい、解りました」

「ん。じゃあな。気をつけていけよ。街出てもしばらくは特に」

「あの、本当にありがとうございました」

「ああ。また街が活気付いたら遊びに来いよ」


 そう言ってウェインは玄関へ向かう。


「あの、ウェインさん」

「ん?」


 ウェインの背中に声をかけたアルフォンスは、言葉を続けた。


「ボクたち、今日の昼過ぎに発つつもりなんです。この家、掃除していってもいいですか?」


 それは、昨日エドワードと相談して決めたことだった。

 等価交換では図りきれないことがもしも実際あったとしても。

 その気持ちに応えたいという純粋な気持ちがあるなら。


「そんなの別にいいのに」

「やりたいんです、ボクたち」

「何だよそれ」


 ウェインは苦笑する。

 アルフォンスの一生懸命な物言いに、自然と表情が綻んだ。


「きったねぇよ?家」

「だから掃除するんです。なかなか時間取れないでしょう?」

「じゃ、頼んどくか」

「触らない方がいいところはありますか?」

「ん?…別にねえなあ。俺はお宝とか持ってねえし。持ってたら売るけど。ま、常識の範囲で」

「解りました。帰ってきたら気持ちいいですよきっと」

「張り切りすぎんなよ。でもアルフォンスは腕っぷしありそうだな」

「ありますよ」

「見たまんまか。すまねえな」


 外から入ってきた風は、まだ少し冷たい風。日が昇りきる前の。

 アルフォンスには解らない。

 それでも、ウェインの様子から見て取れた。


「いってらっしゃい。ありがとうございました」

「エドワードによろしくな」


 明け方の会話は、ドアが閉まるとともに終わった。



* * *



「しかし…すげえな」


 エドワードは窓を勢いよく開け放つ。

 ホコリが宙を舞った。


「うえっ」

「そういうのボクがやるからさ、兄さんは床掃除して家具拭いてよ」

「その方がいいかも…」


 エドワードは素直に従った。

 エドワードが起きたのは、ウェインが出てからしばらくしてだった。

 遅く起きたわけでもなかったが、ウェインの外出が思ったよりも早かったということだ。

 つまり、それだけの状況ではあるのだ。

 自分はまだ少年で、たまたま道すがら目的地への途中で立ち寄った街。

 だから、ウェインはそれほどの情報は言わなかった。それはあの店にいた他の者たちも同様だろう。

 エドワードは起きてからアルフォンスにウェインが既に家を出たことを聞き、早朝の街へと繰り出していた。

 目立たない程度に走って様子を見てきた。

 それでもひとっ走りで回れるはずもない。だから事前にロイから渡されていた資料に前日中に再度目を通し、目星をつけていた。

 ウェインの姿も、遠巻きに見た。

 警備は、確かに警備。名目上は。

 しかし実際は万が一の戦闘にそなえたような状況だった。

 メインは当然軍である。

 住人にしてみれば装備などあるわけがない。

 最低限は軍が支給しているようだったが。

 それでもエドワードはやや腑に落ちない。

 それなりの人数がこの街に入っているはずなのに、見える軍人が予想よりも少ない。

 配置を考えれば、このあたりは多くてもおかしくない。

 途中、街の人に聞いた話ではこの場所よりも少し離れたところに、軍は仮司令部を設置しているらしい。

 しかしどういうシステムなのかを把握しているはずもなかった。

 一応エドワードはその前を歩いてみたが、当然どういう状態なのかは解りはしなかった。


「で、どう?報告書書けそう?」

「ん?うーん。微妙だな…ある程度はいいけど…」


 書こうと思えば書けないことはない。

 結局は可もなく不可もなく、結果を見るのであればどちらにしてももう少し時間を要する、そんなところだろう。

 強いて言えば、軍は機能してはいるが、あまり芳しくないということだ。

 その報告は待っている側からしてみれば欲しくはない一文に違いなかったが。


「あ」

「どうした?」

「壊れてる」


 所々、壊れた家具があった。家自体も手入れをあまりしていないせいか痛んでいる。

 椅子の脚は、テープで気休め程度に固定されている。


「じゃ、オレたちの出番だな」

「そうだね」


 エドワードは少しだけ、金を置いていこうと思っていた。食事代として。

 しかし、おそらくウェインはいい顔をしないだろう。一晩世話になって思ったことだ。

 ならばその代わりに特技を生かしてから、行こう。

 部屋数は多くない。広い家でも、なかった。

 掃除は予想よりも早く終わった。

 昼ご飯にありつくには、まだ早い時間だった。

 壊れかけていたものも、錬金術で修復していく。

 大体の作業を終えて、随分綺麗になったと、アルフォンスは満足そうだった。

 そんな弟を見てエドワードは笑う。


「何?兄さん」

「いや?」


 綺麗になった床を歩いて、エドワードはトランクに荷物を詰め込んだ。

 自分たちの支度を整える。


「アルはもう準備いいよな?」

「うん。兄さんももういいの?」

「準備するものなんてそんなにねえしな」


 せいぜいトランクの中に使ったものを戻す程度だ。


「…よし。鍵は、隣の家に預ければいいんだっけ?」

「ウェインさんがそう言ってたよ」

「じゃ、行くか」


 エドワードは鍵を握って歩き出す。

 誰もいない家に、施錠の音が小さく響いた。


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