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長編
ロイエドシリアス、オリキャラ登場有り



 栄冠がほしいのは自分じゃない。

 そんなものは別にほしくない。

 欲しいものはもっと違うもの。

 栄冠なんて、全部あいつにくれてやる。

 自分が通った道に、通る道にあるんだっていうのなら、全部拾ってくれてやる。

 自分の目的の、ついでに。



* * *



「ほら、兄さん」

「……」


 エドワードの足取りは決して軽くはない。

 目的のない場所に行かなくてはいけない理由なんてあるのか。


「仕方ないでしょ、大佐からずいぶん前から言われてるでしょ?」

「それはそうだけど…」


 これは絶対にロイの仕掛けが成功していると言えるだろう。

 だからこそ、余計に気に食わない。

 それは、半月ほど前の出来事。





『今度は東の方に行くんだったな』

『そうだけど』

『東といってもリゼンブールの方じゃないんですけどね』


 あのときの、会話だ。


『まあ簡単に東と言っても狭いわけでもないからな』

『ま、そういうことだから』


 そう言って司令部を後にしようとする前に、ロイが先手を打ってきた。


『待ちたまえ』

『ヤだ』

『兄さんっ』


 間髪入れずに否定の言葉を吐いたエドワードをすぐさまアルフォンスが嗜める。

 心底嫌そうな表情をアルフォンスに向けて、エドワードは言う。


『よくないことに決まってる』

『国家錬金術師だろう、鋼の?』


 ふてくされるようにロイを睨むエドワードに対して、ロイは反駁しようのない言葉で再び返した。

 エドワードは反抗期の子どものような表情でロイを見る。

 ロイの呆れたような表情の後の余裕のある笑みを見ると、エドワードは余計に腹が立つ。

 踊っている。

 否。

 踊らされている。

 踊らされそう、ではなく。すでに。


『むかつく…』

『それは別に構わんよ。ついでに行って来てくれればいいだけだ』

『それがヤなんだよ…』


 どうせ断れはしない。

 なら、文句の一つや二つ言うくらいいいだろう、というのが今のエドワードの気持ちだ。


『詳しくは簡単にまとめておいた。列車の中で目を通してくれればいい』


 そういってロイは書類の入った封筒を差し出した。

 説明時間短縮のためだということは、すぐに分かった。

 エドワードは無言のまま右手でそれを受け取った。


『視察ですか?』

『そうだ。ついでに行って来てくれればいい』

『分かりました』


 エドワードの代わりにアルフォンスが答える。

 その視察報告を書面にして、送って来いということ。


『その近辺は、あまり治安がよくなくてね。いざこざが最近多発している。君たちは恐らく大丈夫だろうが、気をつけたまえ』

『そんなところに行けっていうのかよ』

『君だから頼んでいる』


 ロイの表情は相変わらず余裕のあるものだったが。

 目は、真剣だった。

 何度も顔を合わせている。それくらい分かる。

 持って来い、とロイは言わなかった。

 エドワードは半ば諦めたような表情で封筒を持つ右手をひらつかせた。


『分かったよ』


 二人が部屋を出て行こうとして、扉を開けた。

 その背中に、ロイが声をかけた。


『本当はそんなつまらない書類ではなく、口で説明したほうが楽だったのだがね』


 背中でその言葉を受けたエドワードは、振り返って相手を見た。

 相手は相変わらず余裕のある表情で。

 周囲は書類に埋もれているのに。

 やらなければならないことは沢山あるのに。

 つまり、確かに口頭のほうが早くて楽だったということだ。

 でも、それだけではないことをエドワードは理解していた。

 だからこそ、振り返って相手を見ている。


『じゃあな、大佐』

『…ああ』


 扉が閉まる。

 進む道が違う。

 二人の距離が再び、開く。


 口頭のほうが、共有する時間は、わずかでも長かった。そういうこと。

 持って来い、と指示した方がというのも、同じ理由だ。

 そんな、はじめて恋をして戸惑って、甘い時間を考えるような想像。

 ばかばかしい。

 しかし、否定する言葉は持ち合わせてもいなかった。

 自分の相手も、充分に「そういう」ことなのだろう。

 もし自分が第三者なら、本気で笑うところ。






「…で?何だっけ?」


 興味なさ気に詳細を弟に確かめる。

 結局本来の目的地であった場所は今回も空振りに終わり、エドワードの機嫌は決していいとはいえなかった。もちろんテンションもだ。


「うん。治安は確かによくないみたいだね。いざこざが起こってるみたい。隣あたりなのかなぁ、近隣の街と随分衝突してるみたいだよ」

 
 アルフォンスは渡された資料に再び目を通しながら口にする。

 当然すでに目は通している。

 後は、それが事実かどうか、実際に自分の目で見ればいい。

 エドワードはアルフォンスから資料を受け取ると視線を紙の束に落とす。

――アメストリスのやや南部よりの東部の街、シーアール。

 それが、今エドワードたちが向かっている街の名前。

 黙って、書類に目を通しなおす。ぱらりとめくる。

 街を仕切っているのは軍だった。

 もともと治安がよくなかったこともあり、随分前からそのスタイルだったようだ。

 駐在する軍人の数が増えたのは、ここ半年ほど前から。

 つまり半年ほど前から、近隣からの襲撃が大きくなってきたということだ。

 シーアールの隣の街、トリプロウ。

 あの街はもともと軍事品製造で大きくなった街だ。

 爆弾や銃などの製造量はかなり多かった。

 拠点ともなるそんな街だからこそ、軍としてもきっちりとやってきたはずなのだが、やはり目の前の財に心を歪める輩はいるということだ。

 それを許した軍としては恥さらしの状態だった。

 もともとトリプロウは火薬の原料も取れる非常に都合のいい街だ。

 あの街自体を押さえるということは大きかった。

 これだけ軍自体が危惧している状態だ。

 シーアール侵略、ということにはならないだろうと軍は読んでいるようだが、不安は早々に取り除くことに越したことはない。

 そういう経緯から、軍はシーアールに駐在する軍人を増やし、強化した。

 シーアールも原料が取れる。

 規模の拡大及び原料確保の一番のターゲットに挙げられるのは間違いなくシーアールだろうからだ。

 そうして少しずつ、しかし確実に小競り合いが続いてきた。

 近況は決してよくはない。

 しかしこれ以上均衡が崩れていくと、危険だ。

 そうなる前にどうにか事態を収束させなくてはいけない。

 そういうことから、軍は一ヶ月前に大尉を一人、派遣した。

 それまでは中尉一人ですべてをまとめていたが、荷が重過ぎるだろうということから踏み切った。

 更なる強化と指揮官派遣。

 そろそろどんな形であれ結果がでる頃である。

 それを見てきてほしいということだ。

 確かに軍としてはいい結果がほしい。

 それは勿論、報告する側としてもだ。

 しかしその後に何か問題が起きては余計に立場が悪くなる。

 悪くなって困るのは、特に管理職だ。

 ロイの立場からしても、いい報告がほしいだろう。

 今回はエドワードが脚を運ぶことになったが、どのみち誰かが行かなくてはならない状況だった。

 もちろん、指揮官自らは動くわけがない。

 エドワードはあのときのオフィス内を少し思い返して、ため息をついた。

 自分以外に、誰が行くというのだ。

 ロイが、指示を出してもいいだろうと思える部下たちは、どう見たってそれどころじゃなかった。


「…これでよくない報告挙げたらどうなるんだ?」


 エドワードがぽつりと呟く。

 報告をすることは、まだいい。

 しかしそれが芳しくないものだったら。

 報告だけで終わるとは、思えない。

 ありがたくもないオマケがあるのではないか、という不安。


「兄さんの中で、何となく予想付いてるんじゃないの?」

「つくから、ヤなんだよ…」


 できることなら、なるべくいい報告をしたい。

 切実に思った。

 とにかく現地に入ってみなければ何も分からない。

 一ヶ月。確かに何らかの動きはあるだろう。

 それにしたって、いきなり、たった一ヶ月で状況がよくなるわけもないだろう。

 それで済むなら既に何らかの報告が司令部に挙がっているはずだ。

 後は、状況が悪い場合は派遣された大尉と話してみるしかない。

 本当は、話したくなんかない。というのがエドワードの心情だ。

 第三者として、視察する。それが一番透明度が高くていいのではないか。

 それに踏み切るかどうかは、様子を見てからといったところだろう。

 おさらいをしているあいだに二人の目の前には目的の街、シーアールが見えてきた。


「さっさと見て回って、帰るからな」


 エドワードは心に決めたことを絶対実行するぞというように、あえて口にした。

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