明鏡止水

短編　最終回ネタ、エド独白

些細な喧嘩だって。 　言いあいだって。 　何だって、愛おしいよ。 　おまえがいなければ、何にもならない。 　オレを形作るもの。 　それはこの心だけ。 　オレの脚は、罪の証。 　オレの腕は、罪の証。 　それぞれ別の、罪の証。 　おまえは？ 　お前のそれは、お前の罪じゃない。 　それは、オレの罪。 　お前のその姿は、オレの罪のかたち。 　お前は、オレの被害者だ。 　オレの、罰。 明鏡止水 　オレの希望はいつだってひとつ。 　アル、お前の身体を取り戻したい。それだけだよ。 　お前は、オレの腕と脚を、と言ってくれる。 　オレも、できるなら取り戻したい。 　でも、例え戻ってきても、オレの罪は消えない。 　オレは罪を消すために旅をしてるんじゃない。 　お前のその大きな鎧は、オレの罪。オレの罰。 　オレは何としても取り戻す。 　お前がその姿でいる理由が、お前にはない。 　例え誰が「同罪」だと言ったとしても。 　それがオレの全て。 　オレは、方向を間違えたのかな。 　オレの根底にあるものは、お前を取り戻す事。 　それは、変わらないのに。 　いや、変わらないんだ。 　長い長い道を往く過程で、いろいろなものに衝突しただけ。 　だから優先したとか、そういう思いは全く無い。 　スカーを止める事を優先したとか。そういうことはないよ。 　あれだけ欲した石が眼前にあっても。 　その石が眼前に現れる行程を理解していても。飲み込んだって。 　希望になるはずだったものがお前を紅く染めるんじゃ、希望と絶望があまりに近すぎた。そう思った。 　何で、言い争いみたいなことをしたんだろう。 　オレは、お前を助けたかっただけだった。 　望むなら、出来うる限り何でもしてやりたいよ。 　でも、剥き出しになったこころと、その現状から、思いはうまく伝わらなかったのかもしれない。 　アル。 　アル。 　何でこんなに、歯がゆいんだろうな。 　オレの心は、いつだって決まってた。 　色んなものが押し寄せてきて、混乱しても。 　心の根底は。本当に本当の奥底では。オレのこころの水面は揺れない。 　いつだって、ひとつしかなかった。 　毎日一緒にいたって、言い足りない事もあるし、言えない事もある。 　現実を知ることが、怖かったときだって。 　油断は、身を滅ぼす。 　身をもって実感した時、オレはお前の方を、向いた。 　…と、思う。 　覚えてない。 　光を失ったことだけ、なんとなく覚えてる。 　オレの根底にあるものは、いつだって一つしかないんだ、アル。 　あの日あの時から、オレのたった一つの望みは変わらない。 　いつだって、この胸にある希望は一つ。望みは一つ。 　たったひとつ。 　居て。 　ここに居てくれ。 　お前は何も悪くない。 　いつだって、オレは。 　明るい記憶。あれは、門だった。 　門を見て、自分がそこに来た理由が解った。 　命が終わるのなら、強制終了するならお前と引き換えにしたいよ。 　これだけじゃ足りないかもしれないけど。 　足りなくても、それ相当分の代価として。 　再び「自分」の瞼が上がった。 　伝う涙の理由も知らない。 　知らないんだよ、アル。解らなかったんだ。 　現実を、目を開いたときはオレは解ってなかった。事実を。 　お前が消える必要はないんだ。 　いなくなる理由はないんだ。 　いなくならないで。 　いなくならないで。 　居てくれ。 　今度こそ、お前を。 　オレは、お前の犠牲の上に立つようなもんじゃない。 　何をどうしたって、命の代価なんて。だから。 　お前がくれたこの脚で、立つよ。 　お前がくれたこの腕で、お前を呼ぶよ。 　きっと、取り戻してくれたんじゃない。 　お前が、すべてをかけて、オレにくれたんだ。 　命の代価は、他にない。 　 　オレの全てを捧げても、無駄かもしれない。 　でも 　お前が消えちまうことなんてないんだ。 （だから） 　戻って来い 　……アル。