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完結
ロイは猛烈に自身に呆れた。 有り得ない。 絶対に有り得ない。 自分を客観的に見たとしても。 周囲が驚いたのも無理はないだろう。誰よりも自分自身が信じられなかった。 内容自体を考えればそんなことに真剣に呆れること自体がおかしいかもしれないが、ロイにしてみれば問題だった。 今まで一度でもない失敗だったから。 理由がいかにあれども。 それがどんな状況でも。 絶対に忘れてはならなかった。それは決められたことではなくてただ単に自分のプライドの話。 * * * それからロイは物凄いスピードで動いた。 それこそ、やれば動けるんじゃないかと周囲が呆れた。 その真面目かつ真剣な、てきぱきと仕事をこなすロイの姿は、後に語り草になりそうなほどに。 やっと仕事のメドをつけた頃。足音が聞こえた。一人がオフィスに戻ってきた。 その足音はエドワードではなかったが。 「…やあ。さっきは済まなかったな」 「ボクは兄さんのために甘んじて今日、戻ってきたんですよ、大佐」 アルフォンスの開口一番はそれだった。 本音を言えば、今日はここには来たくなかった。 けれど兄のことを思えばこそ、その思いを封じてさらに渋る本人をここへつれて来たのだ。 「一応一目会えましたし。このまま行っちゃってもいいんですけど」 「…待て」 アルフォンスの言わんとしていることを察してロイが立ち上がる。 「君の行為には感謝している。さっきはこれからの時間のために我慢を」 「…そうですか?」 アルフォンスは真っ直ぐロイを捕らえつつ言葉を遮った。 ロイが口をつぐむ。 「本当は、忘れてたんじゃないですか」 「何を言う。ここにこれから渡すものもちゃんとあるぞ。まさか今日渡せるとは思っていなかったがな」 ロイは自分のデスクを軽く叩く。 それは引き出しにその物が入っているというサイン。 「用意してたんですね」 「ああ」 「でもそれならなおさら大佐だったらさっき渡すはずです。兄さんも、まあちょっと不満ですけど大佐に会いたかったはずです。だけど」 「何だ?」 「もしかしたら、今日の夜は無理になるかもしれないじゃないですか。予定はあくまでも予定ですよね。大佐は絶対そういうのは当日に渡したい人だから」 もしも、万が一。今日という日に渡すことが出来なかったら。 きっとこの人は悔いるから。 元から可能性がなかったのなら別だけれど。ここに本人がいないのだったら仕方のないことだと思えるけれど。 今、この街にいるというのなら。 甘い言葉でも喧嘩でも他愛無い会話も。 そんなものは朝になるまででも、次にここを発つまででもすればいいから。 大切にしているのを知っているから。 だから、分かる。 大好きだから、アルフォンスにも分かってしまう。 チャンスがあれば、今日という日のうちに必ずロイは渡すはず。 急用で渡しそびれるなど考えられない。その日に一度会っているなら尚のこと。 「…鋼のは?」 「会いたいですか?」 「愚問だよ。これ以上へこませないでくれ」 ぐうの音も出ないロイは負けたといわんばかりに凹む。 「借りが出来たな」 「大佐が借り作ったのはアルだけじゃないっスよ」 「何?」 「ここにいる全員ですよ大佐」 手は止めずにホークアイが微笑む。 ロイの背中が凍った。 エドワードの誕生日は、アルフォンス自身が誰よりも一番祝ってやりたかった。 誰よりも一番、というのはアルフォンスの気持ちであって、もしも人の心を計る物差しがあるとしたら分からないが。 それでも一番の自信はあったが。 でも、自分と同じように祝いたいと思っている人物がいることも分かっていた。 決して本人は口に出さないが、兄が会いたいと思っている人物のことも。 あの性格だから、決して自分からは言わない。 だからアルフォンスが背中を押さなければ、きっと今日司令部には二人の姿はなかっただろう。 でも来れば、来てしまえばエドワードの照れた顔が見られる。 悔しいことでもあるけれど、それでも兄の喜ぶ顔が見たい気持ちもある。 だからアルフォンスはエドワードの背中を押した。ここへきたのだ。 今日という日を一番最初に祝ったのはアルフォンスなので、それで許してあげようと自身に言い聞かせて。 それなのに肝心のロイがこれでは、一体なんだったのだ、ということになる。 でもロイが今日という日を忘れるわけがないことも分かっていた。 すべて見破った上での、一人での登場だった。 そして、本当に当日ここにエドワードが現れるかすら分からない状況でプレゼントだけ用意していたロイが一瞬でも。 理由が何でも忘れたことを後悔しているだろうコトも弟はお見通しだった。 ロイには既に言い訳をする言葉もなく、例え逃げようと思っていたとしてもそんな逃げられるところなど既に何処にもなかった。 「自分がもどかしいと言うか、私としたことが…」 「大佐はそういうでしょうね。もう…」 アルフォンスが呆れたような声で言う。でもその声のトーンは優しく。 「図書館で時間忘れてるんで、時間の流れの中に戻してあげてください」 「ああ」 「程ほどに」 「アルフォンス…」 さらりとこんなことを言ってくる弟がある意味で恐ろしい。 * * * すっかり本の世界にシンクロしていたエドワードを見つけ出し、ロイはエドワードを連れ出した。 ポケットには渡しそびれているものが入っている。 周囲にお膳立てをされまくってのこの現状がある意味で悲しかったが。 お膳立てというよりもただの借りに近いが。 こうして隣を歩いていると、ただの少年にしか見えないな、とふと思った。 いかにも好奇心の旺盛な十代の。 意志の強そうな瞳と、よく通る声。 そんな少年の頭脳の明確さと、苦悩。 背負ってしまったものの重さ。 一見あまりにアンバランスな感じもするが、それが今のエドワードを形成している。 苦しそうに吐き出す声は、その年齢を思わせない含みを。 からかわれたり気分のいいときは、まだ、本当に少年を思わせるトーンの声で。 会うたびに、変わる。 ロイがエドワードを見てしまうのは。気になるのは。こんな気持ちになるのは。 どんな状態においてもエドワードだから。 だから、今は素直にあの弟に。部下達に感謝しよう。 「ここ?」 「ああ」 「でも、ここって」 「気になっていたんだろう?だからここにしたんだが」 「だってすげー人気あるじゃん」 「リザーブしてあるから問題ないぞ」 「…誰と来るつもりだったんだよ」 「だから、鋼のとだろう?」 ロイはエドワードの質問の意味が分からない。 エドワードは、そんなことをさらりというロイが分からない。 「だって、今日オレが戻ってくるかなんて分からなかっただろ。オレだって今日戻ってくるって決めたの昨日だぜ」 「まあ、そろそろだろうと思って数日取ってあるからな」 「……」 そうだった。 ロイはそういうことくらい平然と出来る。 「もしも無駄になるなら他の者が来ればいいし、なんならキャンセルすればいいだけの話だ」 ロイは普通にそういったが、今日だけは、特別だった。 可能性をかけて、今日だけはいい席を取ってあった。 バースディケーキと一緒に。 あなたがこの世界に生れ落ちた今日。 この広い世界に生まれた、さまざまな「生」のひとつ。 この世界にはいろいろな「生」をもつ生き物がいるけれど。 「特別」だ。 君だけは自分の特別だ。 今日という、君がこの世界に生を受けたこの日を。 だから。 自分なんて、とは言わないで。 自分なんか、とは言わないで。 君が、大切だよ。 だから言わせて。 誕生日を祝わせて。 ***** タイトル=人の心はみな違う。うーん。同じものを見ても、聞いても、印象は十人十色。というイメージ。 誕生日は、当人よりも、そのひとを大切に思う人たちが大切にするんじゃないかな、と。 そしてちょっと大佐の設定が苦しくてスミマセン…大佐は何があっても一瞬たりとも忘れることはなさそうだもん。大切な人の誕生日なんて… 書きたかったのは、この後の会話です… ***** 「やっとグラスが来たな」 「オレ、オレンジジュース?」 「まだ当分成人には遠いだろう、鋼のは」 「…どういう意味だよ」 「気になるかね?単に年齢の話だろう?それでも今日一歩近づいたじゃないか」 「いちいち嫌な言い方だな…」 ロイは笑って目の前にあるグラスを掲げた。 彼がひとつ大人に近づいた今日を祝うために。 「ま、そんじゃ」 エドワードも用意されたグラスに手をかけた。 「お疲れさん、大佐」 「ああ……。あ」 「え?…何、大佐」 エドワードの言葉につい返事をしてしまったが。 ロイは動きが止まったままだった。 当のエドワードは事態がわかっていなかった。 「…!」 ロイは激しく自責の念にとらわれた。 言うタイミングを奪われたロイは、どうやってその胸のうちにある誕生日プレゼントを渡すのか。 いつ、誕生日を祝うその一言をいうのか。 自ら随分と前から用意していたものは、今白紙へと返る。 PR ![]() ![]() |
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