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完結
『a thinking reed』から繋がった話です。 A lie never lives to be old. = 嘘はいつまでも続かない。 嘘なんてついても。嘘なんていうものは。 一時はひとを欺くことができても、いつかは露見してしまうもの。 ほんの些細な事だよ。 何故捲くし立てるように言うの。 どうしてそんなに怒った顔をしているの。 嘘をつたつもりは無いよ。 隠したつもりも無いよ。 必要ないだろう。 誰だっていちいち細部まで報告なんてしない。 今に始まったことでもない。 だから、今自分は、不思議な気分で貴方を見上げているのかな。 A lie never lives to be old 3 大した蔵書数ではない。 しかし、結果はさて置きページを捲ってみようと思う本はあって。 結局いつものように本棚から取り出した本の山に埋もれているエドワードだ。 静かな時間だ。 多少五月蝿くても集中したエドワードにその雑音は届かない。 それでもやはり、この静かな一時は好きだった。 外から聞こえる雨の音。 自分がページをめくるかすかな音。 どれ位時間が経ったかは解っていない。 「……」 ページをめくるエドワードの手が止まる。 辞書で確認したい個所があった。 「えーと…。あれどこ置いたっけ」 周囲に散乱した本の山を眺めて、目的のエンジ色の辞書を探す。 「…あった」 色々な本に手をつけているうちに、どんどん追いやられてしまっていた。 手を伸ばしてもさすがに届かない。 仕方なくエドワードは立ち上がった。 「よっ…」 何気なく左足に力をこめる。 途端。 「うあっ!」 強い痺れが脚を駆け抜けた。 思いがけない痛みにエドワードが顔をしかめた。 不用意に脚を出してしまった。 機械鎧の付け根が悲鳴をあげる。 それは瞬時のことではあったが、油断ゆえの予期せぬ痛みに、身体のバランスが失われた。 「え」 予想外の展開に思わずエドワードはそばにある物に右手を伸ばした。 身体を支えるために手を伸ばしたのだが、結果手を置いたものは自分が積み上げた本の山。 当然支えになってくれるほどのものではない。 さらに伸ばした右腕が。肩に小さく痺れが走った。 予期せぬ痛みにエドワードは眉を寄せた。 その瞬間、集中力が途切れる。 双方の結果、むしろ被害が拡大する。 「ええ?」 本の山が倒壊する。 自分も一緒に。 「うわッ!」 今までの静けさはどこへやら、派手な音と共に自分も床に墜落した。 「痛ぇッ…」 馬鹿だ。 カッコ悪い。 「う…」 思わず声が洩れた。 いつもなら、例えこんなことがあったとしても恥ずかしさを耐えながら崩した山を直すところだ。 しかし、エドワードは動かなかった。 周囲に人は居ない。 見られたわけでもない。 今ので本が傷んでしまっていては問題だが、それ以前のことだった。 音は外に漏れただろうが、仕事中の軍人たちだ。問題ないだろう。 「くそ…」 エドワードが顔を歪める。 軋む。 本の残骸と共に床に転がったままのエドワードは、左足を引き寄せた。 「痛ぇんだよ…」 軋む。機械鎧が。 ただでさえずっと悪天候だったのに。 普段なら、問題ないのに。 さらに酷使するような場面が続いたから。 タイミングの問題だ。 時期が悪い。 (何でこんな時に呼ぶんだ) 呼ばれたら、行かない訳無いのに。 (あんただって雨嫌いだろ) なあ。 「鋼の!?」 呼ばれて、エドワードは驚いた。目を見開く。 それと同時に、豪快にドアが開いた。 「な…」 何なんだ。 「大きな音がしたが…一体」 そこで、ロイの言葉が一旦止まる。 派手な光景だった。 本の海に溺れた少年が一人。 それだけで、あの音の理由はわかった。 当の本人は、いきなり現れた人物に驚きながら視線を向けた。 「何で、…あんた」 エドワードはゆっくりと身体を起こしてロイを見上げる。 「それはこっちのセリフだが」 いやな間があく。 「俺のは見てのとおりだよ。本崩して悪かったな」 立ち上がると散乱した本を一冊ずつ拾い上げた。 「私は近くを通ったら派手な音が聞こえたのでね。見に来て当然だろう」 ロイは至極当たり前に答えると、同じように本に手を伸ばす。 「へえ。随分といいタイミングだな」 「全くだな」 少しずつ、静かな時間を取り戻しつつあった。 「無理をしすぎなのではないかね」 「…何の話だよ」 「アルフォンスも心配するだろうな」 エドワードは少しイラついて声のトーンを変えた。 「だから」 何。 「痛みは取れないか?」 「!」 エドワードの眉間にシワがよる。 (気付かなくていいんだよ) 「…別に」 「不具合な環境が重なったからな、君にとっては」 そういいながら、これは閉まっていいのか、とエドワードに聞く。 エドワードはロイの言葉にそういう自分だってそうだろう、と思いながら彼の問いに対しては素直に頷いた。 「別に、ちょっと不意打ちだっただけだよ」 そう、不意打ちだった。 「こっちに大佐は何の用で来たんだよ」 「ここに。…というか君に」 エドワードの手が止まる。 「これ以上何の用」 視線を上げない。 まだ目を通してない本と数冊の辞書を床に貯めたまま、再びエドワードは腰を降ろした。 「何故いつも押し黙ってやりすごす?」 「…何故?」 こっちが聞きたい。 どうしてそういう質問をするのか。 「どうして周囲を見ない?」 どうして? 「意味が判らない」 どうしてそんなことを言われるのか解らない。 解らないんだ。 「仕方ないことだろ。こんなの」 「私は最初に勘違いをしていた」 見た目の掻き傷のことを、見ていた。 それ以上の、彼の失われた手足。 見慣れた、なんてそれこそおかしい。 その重い手足に慣れるなんて。 そんな事は。 「すまなかった」 温度差があるんだ。 自分の体温の温度差。 そして二人の錬金術師の温度差。 「どうして?」 どうして謝るんだ。 必要ないよ。 言わなかったのは自分だし、それ以上に言う必要もない。 知らせる必要も、義務も。 全く。 「私は何かを隠したとしても、本心を言ったとしてもすんなり受け入れてもらえないな」 心配もさせてもらえないのか? どうして。 君は、無性に与えられる好意に不器用だ。 敵を作ること、感知することにはとても鋭敏なのに。 優しいものになると、途端に不器用になる。 そして、負の感情を吐き出すところを持たなすぎる。 「ここ数日は時々、痛んだのではないか?」 「仕方ないことだよ」 「弟の前でも、何気ない顔で過ごすのだろうな、君は」 今日も、昨日も、きっとその前も。機械鎧をつけた時から。 「ここに来る前も一人で顔を歪めていたのか」 「……」 何でそういうことに気付くんだ、とエドワードは思う。 それはエドワードにとっては誤算だ。 アルフォンスのとったその行動は、別の意味でのものだった。そう、「今日行きます」とただそれだけで。 嫌がって連絡を怠った兄の代わりに。それだけだ。 兄弟の想いが、痛い。 昼には司令部に到着するはずだった。 それがずれ込んだ理由は、これしかない。 決して歪めた顔を弟に見せる事はないんだろう。きっと司令部の面々にも。 だから、弟と別れてから、襲ってきた痛みを一人でやり過ごしてきたのだろう。そのために必要だった一人の時間。 それは己の罪の形。 それと同時に、その痛みを忘れないように。 繰り返さないように。 無くさないように。 名前を呼んで欲しいと思った。 折角この場にいるのなら。 気付かなくていいことだった。けど、そのことを気にかけてくれているのなら。 発破をかけてくれ。 傷の舐めあいじゃなく。 (傷の舐めあいは嫌いだ) 自分を、相手を共に弱くするだけだ。 いい訳なんていつでもどこでも言える。でも得るものはない。 弱いこころは必要ない。 だから。 これ以上みっともないことがないように。 紅蓮の焔を見せて。 目に焼き付けるから。 猛火の焔を。 「立ちなさい、鋼の」 いつもの君を。 「柄じゃないって?」 立ち止まってしかめ面するなんて。 「そうだな」 ロイはそう答えて、手を差し伸べた。 君は知っているはずだ。解っているはず。 無条件に差し伸べられるこの手をとることが、傷の舐めあいではないことを。 「立ちなさい」 そして走るその途中で、たまには自分を振り返って。 END. PR ![]() ![]() |
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