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続きます。

『a thinking reed』から繋がった話です。

 嘘つきだね。
 つきたくも無い嘘を重ねて。
 甘い嘘をあげる。

 でも、それは違う。
 相手を思う嘘もあるけど。
 こんな嘘は、自分を隠したいだけだ。

 嘘を付き合って、その先にあるものは何?



A lie never lives to be old



 久しぶりの景色。
 久しぶりに見る人々。
 各地をいつも転々とする自分は、いつどこへいっても「初めて」か「久しぶり」になる。
 勝手知ったるその建物に足を踏み入れた。
 結局今日ここに来る、と事前の電話は入れなかった。
 心底後悔した翌日だ。到底そんな気にはなれなかった。
 どうせ会えば遅かったな、だの最後に連絡があってからどれくらい経っただの言われるのだ。
 それの前哨戦を電話口から聞きたくない。
 結局今日は午前中に医者に行って来た。
 処方された塗り薬をアルフォンスに頼んで、自分は大佐に会うべく司令部にやってきたのだ。
 どこか心持ち、エドワードの足取りは重い。
 もう正午はとっくに過ぎ、軍部内は忙しなく動いていた。
 エドワードはトランクに視線を落とす。
 こんな書類、他の人物でも用意できそうなものを、とエドワードは思う。
 簡単なものではないが、大佐の周囲を考えればできそうな人物くらい、きっと一人はいるだろう。
(まあ中尉にも言われちゃあな…)
 会うのも久しぶりだ。
 きっと、変わってはいないのだろうけれど。
 エドワードはトランクとコートを持ち直してドアの前に立つ。
 左手で、ドアを叩いた。
「入りますよっと」
 返事がある前にさっさと扉を開け放った。
「あらエドワード君」
「久しぶり中尉。遅れてごめん」
 一番に声をかけてきたのはホークアイだった。
 一言挨拶して、エドワードはその視線を正面に向けた。
「やっとご到着か、鋼の」
 予想範囲内の、第一声だった。
「へえ、ちゃんと仕事してんだ?大佐だもんな」
 軽く笑って足を進める。
「持ってきたぜ」
 そう言って大佐の机の近くでトランクを開け始めた。
「何だ鋼の。私に挨拶はなしか?後、詫びもまだ聞いてないが」
「言ってないし。ああ、ひさしぶり、大佐」
 視線も動作もそのままに、言葉だけ返す。
「つれないな」
 ロイは笑って答える。
 ロイの卓上を見ればどんな状況か分かる。いつも書類の山だ。
 おかしいくらい回されてくるのか、単に手を緩めて遣り残している山なのか、
 それはエドワードの知るところではないが。
「…解ってるくせにさ」
「列車はそんなに打撃を受けたのか?今回の天候は」
「受けまくり。マジで大変だったんだよ」
「そうみたいですね。そちらの方面から被害状況が届き始めています」
 被害状況でさえ、やっと届くようになったのか
 まあ、今日の天候を考えてみれば、納得ではあるが。
 まだまだ、司令部に届いていない被害状況などたくさんあるのだろう。
 エドワードは再びロイの机を見下ろす。
 さっさと済ませないと、こうした通常業務の書類にさらに、
 これらの状況報告その他の書類が上澄みされることは間違いない。
「アルも気にしてわざわざ徒歩で距離稼いだり、まったく何でこんなことに…」
「日ごろの行いが悪いのではないかね?」
 ちょっとムッとして、エドワードは取り出したレポートをロイに突きつけて言った。
「だとしたらきっと大佐もだよ。だから俺の到着が遅れた」
 ちょっと考えてエドワードは後ろを振り返る。
 周囲にいたロイの部下たちは誰一人としてロイの援護の言葉を発しない。
「…あながち間違ってないってこと?」
「…悪かった。受け取ろう」
 ロイが手を伸ばす。
 エドワードは突きつけるように腕を思いっきり伸ばして書類を差し出していた。
 ロイも何気なく腕を伸ばしたが、書類を受け取るには、自身も随分腕を伸ばさなければならなかった。
 つまり、微妙に距離が開いていた。
 そしてエドワードはロイが書類を受け取るとすぐ手を引っ込める。
「?」
 凄く小さな、動作だ。瞬時の。
「今日はアルフォンスはどうした?」
 エドワードから、何かしらの言葉が発せられる前にロイが言う。
「ああ、アル?あいつは図書館だよ。しばらくご無沙汰だったからな、本のチェック」
 ここを出たら自分も行ってそこで落ち合う予定らしい。
「そうか」
 ロイは深く詮索せず簡潔に返事を返した。
「早く確認してくれよ大佐」
「…ああ」
 そういって、本当に確認する気があるのかないのか、パラパラと書類をめくる。
 どう見ても中身は確認していない。
「よければ、俺行くからさ」
「何だ、そんなに本が待ち遠しいのか?」
「そりゃあね。いいのがあればだけど」
「それとも、早くここを立ち去りたい理由があるのか?」
「…」
 長居する、理由がない。
 エドワードはそう言った。事実だった。
 強いて言えば、もうひとつあるというだけのこと。
「まあ、そうだな。中尉」
「はい」
 ロイは椅子から立ち上がってホークアイの方へ行く。
 二言三言、打ち合わせをすると、ホークアイは頷いた。
「では、そういうことで頼む」
「貯めたのは大佐です。
数日後には各地から報告書がくることは目に見えているのですからその卓上の書類は絶対延期できませんよ」
「…そうだな。………覚悟する」
 誰が見ても嫌な束だ。
 慌しく動いている時間を肌で感じる。
「鋼の」
「何?」
「時間がない訳ではないだろう。こちらへ来なさい」
「何で?」
 自分の前を行くロイに問い返す。
「アルフォンスの居る図書館に行く前に、特殊文献の閲覧に行くのだろう、どうせ」
 エドワードは答えない。それは否定する理由がなかったからだ。
 弟は一緒に行っても中には入れない。
 なら先に一般の図書館の書庫へ行く方が効率的だ。
「ならその前にこっちにある本を見て行ったらどうだね。強制はしないが?」
「…ホントどうにかしてよ、大佐その性格」
 さっさと言ってくれればいいのに。でもきっとそれは無理なのかもしれない。
「本当に、もう少しでも通常の一般業務もどうにかしてくださいよ大佐」
 やりとりを聞いていたハボックが横槍を入れた。
「あ、仲間?ハボック少尉」
「おお、仲間仲間。でもきっと俺とエドだけじゃなくて」
「お前たちは上司を苛めて楽しいのか」
 つまらなくは、ない。
 それでも、刺々しいところがないわけではないこの軍において、それは優しいトゲかもしれなかった。
 それは上司と部下の関係が影響している。
 しかし何にせよこれ以上上官に対して言えない。
 それでも、年だけとった、地位だけを誇張しているような上司には絶対言えないようなことだ。例え些細な言葉でも。
 それが既に決定的な違いだ。
「…それで?どうする鋼の」
 エドワードは苦笑して答えた。
「お邪魔しますよ」

* * *

 ホークアイは鍵を取りに行った。
 先にロイとエドワードは目的地に向かう。
 足音が響く。
 ロイのすぐ斜め後ろをエドワードが歩く。
「さっき、距離を稼ぐために歩いたと言っていたか」
「うん」
「それで今日ここに着いたのだろう?どの辺りを歩いてきたんだ?」
 一日前後で徒歩で稼げる距離などたかが知れている。
 しかしその距離を考えた時、徒歩に向いた道があまりない。
「雑草が生い茂ってるとこ」
「道ではないのか」
「だって道が倒木とかで寸断されてんだもん。多少はそんなの超えてもいいけどさ、ちょっと他にも」
 少し目にしてきただけでも、被害は見えた。
「後でついでに目にした分の状況報告を置いていってくれないか」
「えー俺急いでるんだって知ってるだろ。それにそれ錬金術師関係ないじゃん」
「路頭に迷う人々がたくさんいるのに、それを無視できるのかね」
 今、となりにアルフォンスがいたら。
 絶対にロイの味方だろう。
「何も細かくじゃないくていい。少しでも今から解れば今日からこちらが動ける」
「…解ったよ」
 物資援護もいる。
 人手もいる。
 街の住人確認もある。
 第一段階着手は早いに越したことは無い。
「俺が通ってきたのはえーと…確か」
 それなりに目的のためにショートカットしてきたつもりなので見ていない部分も多い。
 指折り数えて確認している内にホークアイの姿が見えた。
「大佐」
「ああ、すまないな」
 鍵を受け取る。
「ここには昔私が読んだ本も、多分ある」
「へえ。…てか、多分て何」
「ここしばらく見た覚えが無いのでね」
 扉を開ける。
 そんなに広い部屋ではないが本棚で埋め尽くされている。
「資料を置いているのだが、ついでに私の本や錬金術の本もある」
「めちゃめちゃ一般人…てか軍の人間も見れるんじゃ」
「見たところで解らんさ」
 窓は上の方に小さなものが一つ。
 図書館の書庫の匂いがする。
 ロイは灯りをつける。
 そのままエドワードの興味のありそうな本が納まっている棚を支持した。
「大体その辺り」
「この辺?」
「の、奥だ」
「奥?」
 棚はそれで終わりだ。
 エドワードは不審に思って壁に手を沿えた。
「…大佐」
「何だ?」
「これ自分でやったの?」
「まあな」
「軍の建造物に勝手にこんなことやっていい訳?」
「それくらいは子供でも出来るさ」
「面倒くさくてやらないよ。でも凄い原始的…」
 まるで子供用の迷路だ。
「まあ、その最後の棚に入っている資料を求める者もいないし、そもそもここにも人などそうそう来ないからね」
 ロイは笑って言う。
 エドワードは半ば呆れるように苦笑した。
「んじゃ。…うわ、結構重っ」
「そりゃ簡単に開いては意味が無いだろう」
「ま、そう…だけどっ。よっ」
 エドワードは手と足に改めて力を入れ、壁を横にスライドさせた。
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