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短編
Lith and selths are fellows. ――その日、その場所を通ったのは五回だった。 残業は仕事上致し方ないとはいえ、愚痴のひとつもいいたくなる。 仕事をするものとして、それはそれで割り切ってやっているつもりだ。 それでもこうも続くと、気は滅入ってくる。 口には、出さない。当然だ。表情にも、普段は出さない。時には煙に巻いて曖昧にして吐き出す。 暗い表情をするな、と怒られても嫌だ。そんなことでまで怒られたくもない。 もちろん、怒らせるつもりもない。 これで今日の朝日は、司令部内で拝むことになることは間違いなかった。 いまさら家に帰ってもいいと言われたところで、そんな気力はない。 時計に視線を落としてみたが、現実を知っただけで余計に悲しくなった。 (最近定時にあがったのっていつだったかなぁ…) 軽くため息をついてみるが、どうしたところで終わった時は戻りはしない。 過去を振り返ってみても、嬉しくはならない。むしろ悲しくなるだけだ。 ここにいる以上、仕方のないことだが。分かってはいる。納得も、してはいる。 改めてやっと上官のチェックの終わった大量の書類を抱えて、オフィスを出る。 失礼、と一応言って、脚でドアを閉めた。 今日の自分の所属する場所――自分の上官の指揮する管轄の居残りは、ホークアイと、自分。 そして、司令官。 と、もうひとり。否、ふたり。 ホークアイは先に仮眠を取っている。 といってもさっき仮眠を取りに行ったばかりだ。 自分は、ホークアイと交代で仮眠を取る予定になっている。当分は先の話だ。 ホークアイは時間には必ず戻ってはくるだろう。しかし。 取れるかどうかは、オフィスに篭っているはずの司令官による。 しかし今自分が後にしたオフィスには、誰もいない。 (仮眠…取れんのかなぁ…) 真剣に心配だ。 やれやれ、と思いながら、長い廊下を歩く。 誰かがシャワーを使っている音がする。 司令部にはそれなりの人員がいる。残業を強いられているのは自分たちだけではない。 自分も使っていてもおかしくない時間だし、場所が場所だ。場合によってはいつ誰が使っていてもおかしくない。 そこを通り過ぎようとして、思い出す。 (…あ) 今日は外で力仕事をしていたこともあって、ホークアイが仮眠に入る前に、自分は先にシャワーだけ使った。 さっき脱衣所を使ったとき。 ひとつ忘れ物をしていたことを思い出す。 (タバコ) ふと思い立って、書類を右手でしっかり持ち直すと、すばやく胸に左手をやる。 ポケットの上から触るが、何かが入っている感触はなかった。 念のため、と思って脱衣所に足を向ける。 ゆっくりと足を踏み入れると手前から二番目の場所に、無造作に上着が突っ込んであった。 そのさらに三つ奥に、見慣れた小さい箱が見えた。 (…やっぱり) 取り残されていたそれを回収し、足早にその場を立ち去る。 さっさとこの重たい書類を片付けて、ロイの卓上に山と詰まれた資料の本を戻さなければ本当に仮眠が取れなくなりかねない。 自分の背中にはシャワーの音だけが、聞こえてくる。 * * * 「お疲れ様ですハボック少尉。残りはやっておきますよ」 本の山を返却しに行くと、何故か司書が残っていた。 「すんません、こんな時間になっちゃって」 こんな時間には当然、普段は開館しているわけはない。 その場合は普通の図書館と同じように、返却ポストに入れておけば翌日司書が処理をしてくれることになっている。 「問題ないですよ」 そう言われて、ハボックは苦笑した。 「何で今日はこんな時間まで残ってんスか?」 仮に残業していても、普段は閉館扱いで内部で作業が行われる。 「私、リザの知り合いなんですよ」 「中尉の?…そりゃあどうも」 ハボックは素直に納得した。 先に仮眠に入ったホークアイが手回しをしてくれていたということだ。 これだけ大量の資料返却だ。通常の返却手続きとは異なる。 それを考えて、先手を打っておいてくれたというわけだ。 「さすが中尉…ホントすいませんね」 手間が省けて、嬉しい限り。 「リザにお礼言ってあげてね」 司書は笑顔で答えた。 「もちろんス…ああ、ご恩ができちゃったかな…」 早めに返しておきたい、と思わずにはいられない。 ハボックは返却冊数を確認して、手続きを済ませる。 「あ、そうだ。マスタング大佐って、今日ここ来ました?」 念のために聞いてみる。 「マスタング大佐ですか?今日はお見かけしていませんけど」 不思議そうに司書が答えた。 やっぱり、と肩を落としつつハボックは礼を言ってその場を後にした。 このあとには、自分のデスクにある紙の束をいじらなくてはいけない。 やれやれと思いながら、さっき来た廊下を戻る。 居残りをしている人数は、それなりにいるらしい。 ところどころ、明かりの付いた部屋がある。 気の滅入るような事件にまつわる仕事でなければまだいいのに。 人が不幸にあった事件でなければ。 誰が怪我したとかでなければ。 ここが軍の司令部でも。自分は軍人でも。仕事の内容を理解していても。そう、思う。 そして、今日五回目。 やや足早にその場所を通り過ぎ。 ――ようとした。 変化はなかった。 ただ、誰かが使用してる気配と音がするだけだ。 (誰だ…?) 別に誰でも構わないし、気にする理由も必要もまったくない。むしろただのお節介だ。 (…) ただ、何となく顔を覗かせてみる。 脱衣所には、誰もいない。 脱がれた服が、一着。 使用者は一人だけのようだった。 (ん?) ちょっとした違和感を覚えつつ、元通り脚を通路に向ける。 そして数歩進んだところで、違和感の理由を理解する。 一着だけ突っ込まれていた服。 さっき見た状態と全く変わっていなかった。 つまり、さっき自分がタバコを取って行った時と同じまま。手は付いていなかった。 本当に変化がなかった。 (こんな長い時間使う人っていたかな…) (…女性じゃあるまいし) 長風呂が好きな将軍はいる。 が、将軍がこんな時間ここにいるはずがない。 しかし、それは個人差だ。 そんなことを考えつつ、脚を進めようとして、躊躇った。 理由が分かってすっきりはしたものの、もし中で使用者が寝ていたりでもしていたらと思い再び脱衣所に脚を運んだ。 様子が解ればいい。問題がなければ、すぐに戻ろう。 相変わらずシャワーの音がした。 ここにある上着は忘れ物では、おそらくない。中に人の気配があった。 ただ、動きがないように思える。 ハボックは軽くドアを叩く。 「誰か使ってますよね?大丈夫スか?」 声をかけてみるが、反応がない。 うたた寝でもしているのかと思い、再びドアを叩いて声をかけたがやはり反応はなかった。 (――…) 自分にはこれ以上はできない。 一応…と思い、失礼、と一言扉に向かって言うと、突っ込まれた服を引っ張り出した。 何か誰だかを特定できるものがあるかもしれないと思ったからだ。 バサリと音をたてて、上着を広げる。 黒の上着。 「ん?」 私服だ。 非常に見慣れた。 自分からしてみたら小さい、黒い服。 これをいつもまとっているのは。 「大将!?」 驚いて、ドアを振り返った。 この服の持ち主なんて、一人しかいない。 たまたまここに泊まっている、国家錬金術師。 夜遅くに司令部に到着した、これから宿を探すと言い切る少年を、その上官と中尉と少尉である自分と、さらに少年の弟で説得してここの仮眠室を使わせた。 弟いわく、微熱が続いているというから。 「ちょっ…おいエド!?」 ドアをさっきより強めに叩いて、返事を待つ。 しかし反応はなく、シャワーの音だけだ。 曇りガラスの向こうに、人影が確認できる。 黒が見える。 …黒? エドワードの髪は金髪。仮に機械鎧だとしてもあの色ではない。 ばっと音がするくらい激しくハボックは脱衣所の方に視線を戻す。 手元にはエドワードの上着があった。 それだけだった。 上着だけ。 「エド!開けるぞ!」 もう一度だけ、声を大きくしてドアを叩いた。 返事がないので、そのままドアを強引に開けた。 「エドワード!」 やっとはっきりした視界の先には、ズボンを履いたままで、しかもシャツを着たままのエドワードの姿があった。 双方の目は閉じられたまま。動きはなかった。 バスタブにもたれかかるような姿。 ぱっと見、どうみても倒れているようにしか見えない状況で。 そんなエドワードにシャワーが降り注いでいる。 ハボックは服を無意識に放り出すと、エドワードに駆け寄った。 まず最初にシャワーを止める。 「うわっこれ水じゃねえかよ、エド!」 どおりで視界がいいはずだ。普通なら湯気が立ち込めているはずなのだから。 抱え起こして声をかける。 「おい、エド!」 「うん~…?」 やっとエドワードの口から言葉がこぼれた。 「エド」 「あれ…?」 ボーっとしたままハボックを見上げる。 「ハボック少尉…どしたの…?」 「どうした、じゃねえだろうがよっ!!」 声を荒げた。 おぼろげだったエドワードの瞳が、やっと開く。 やや驚いたような、そんな表情だった。 「こんなに冷えちまって…とりあえず暖めて、早く出ろ」 「え?…あー、うん…」 いまいち自分の状況が理解できていないエドワードのシャツをとりあえず脱がす。 「いいか。着るものは適当に用意してやるからとにかく身体を暖めろ」 「…オレ、寝てた…」 「こっちから見たら行き倒れだっつーの…」 心底本心をつぶやく。 「いいな?」 「うん」 ハボックはシャワーを湯に切り替える。 「あれ?オレなんで服着たまま入ったんだ…?」 「そんなことオレが聞きたい…」 腹の底から、ため息がでた。 ゆっくりとだが、エドワードが動き出したのを確認してからハボックは一歩下がった。 温まってから出るようにということをもう一度告げてから、ドアを閉める。 床に落ちたエドワードの上着を拾って畳む。 焦った。 自分でもそう思う。 曇りガラスの向こうで、今度は人が動いている気配がしていた。 ハボックは、とりあえずエドワードの羽織るものを探しに行く。 * * * 身体を温めなおして出てきたエドワードに用意された服は、ハボックのスペアの軍服のズボンとTシャツだった。 「これ…?」 「仕方ないだろ。司令部内にはこれしかねえんだよ。乾くまで我慢しろ」 ハボックは言葉が終わらないうちからTシャツをエドワードに被せた。 「ちょっ…自分でやるから」 「ズボンのすそは、折っといた」 「…むかつく」 軍属であるエドワードが、何の因縁だか軍支給の服を着る。 いつかは自分用の物が、用意されるかもしれない。 命令されれば、受け取らざるを得ないものだ。 今手元にあるものは、まだ違うけれど。でもそれは紛うことなき軍を象徴するもの。 しかもそれが、ハボックのもので。 「大将…いつから倒れてたんだよ」 「え?覚えてなんかないよ。服は脱いだと思ったんだけどな」 生乾きの髪を緩く一本に結いながらエドワードが答えた。 「大体お前、微熱出てんだろ。余計駄目じゃねえかよ。悪化するぞ」 「そのときはそのときだよ」 「悪化したら、待遇悪くなるぞ」 「え?」 「放っておいてくれるのか?」 誰が、とは言わなくても分かる。 「……難しそう、かな」 「だろ?」 エドワードの身支度ができたのを見ながら、ハボックは言った。 「大将」 「何?」 「優しい嘘は、必要か?」 敢えて、聞いてやろう。 優しい嘘は、必要?お前のために、そして相手のために。 「少尉」 「そもそもさ、何時間撃沈してたか知らねえけど、大丈夫なのか?何て言って部屋出てきたんだ」 エドワードの表情が少し陰る。 苦しさではなく、ヤバイという表情だ。 ただでさえ、体調が万全ではないのに。 「どうする」 「…オ願イシマス」 目が笑ってない。 やれやれと思いながら、濡れたエドワードの服を持って先にハボックが動いた。 「その格好じゃどの道戻れないだろ。早く乾かすしかなさそうだぞ。そのついでに優しい嘘を考えてやる」 「…うん」 予定は、あくまで予定。 予定は未定なんてよく言ったものだ。 そう思うと、上官のことをあれこれ言えないのではないか、と内心思う。 それでも時間は止まってもくれないし、待ってもくれない。 ならば、できることをとにかくこなすしかない。 まずは、エドワードの服を乾かすことと、エドワードの胃袋に何かを入れること。 そして薬も最後に入れること。 いつの間にか、世話を焼きまくっている自分が笑える。 こういう予定外は、嫌いじゃない。 ハボックはエドワードの服を乾かしながら、目の前でココアを飲む本人に聞いた。 体調が万全でもないのに、一時間以上部屋に戻ってこなかったら、絶対に心配して探しているに違いないと思うから。 「部屋を出るときは、薬貰ってくるって言って」 「それじゃあますます戻ってこない!って思ってるんじゃないのか」 「ずっと眠れなくて。ずっとずっと駄目でさ」 どうしても眠りにつけなくて。 時計の音だけが聞こえてきて。 「医務室に行ってくるって、言った。そこで寝られそうだったら、寝てくるかもって」 「…そう、言ったのか?」 「…そうだけど」 ハボックはただ驚いた。 それだけ? それで、言われた相手は納得なんてするのか? 「アルは、いつも寝られない身体だし。一緒に行くって言ってくれたんだけど。気ぃ使ってくれたんだよ」 エドワードの言わんとしていることを、理解して。 心配で心配でたまらないのに。 寝てくる、と言って、どこかをふらついているんじゃないかと、きっと思っている。 それでも敢えてそうしなかったのは、ここが軍内部だから。司令部内だから。 「それがなんで風呂場で行き倒れなんだよ」 「行き倒れてはない」 「いーや、あれはどう見てもそうだ」 「……薬貰う前にさ、汗かいてたからシャワー使いたかったんだよ」 眠れなかったのは本当。 医務室へ行こうとしていたのも本当。 でもその途中で、シャワーを使いたくなった。だけ。 仮眠室に入る前に、使いたければ構わないと言われていたから。 「それで、ねぇ…」 ハボックは銜えたタバコの隙間から声を零した。 「悪化してたら自業自得だぞ。オレの優しい心遣いも意味なくなるからな。悪化させんなよ」 「自分から優しい心遣いとか、言う?」 「偽りなき事実だぞ」 至極真面目な顔で、エドワードを見る。 その表情を見て、エドワードは表情を緩めた。 「サンキュ、ハボック少尉」 「あん?」 「見つけてくれて、さ」 いきなり怒鳴られたときは、自分の意識もはっきりしていなかったこともあって驚いたけれど。 「見つけてくれたのが少尉で、よかった」 見つけられないまま、朝になっていなくて。 別の人じゃなくて。 上官でもなくて。 弟でもなくて。 「…ありがたく、思えよ」 「だから言ってんじゃん」 「オレはまだ仕事残ってんだよ。ああ、仮眠…」 「…悪かったよ」 「そう思うんなら、これ飲め」 机の上にある薬を取ると、ハボックはエドワードの口に押し込んだ。 「~~ッ!うえっ」 「…はは」 エドワードは何とか薬は飲み込んだが、咳き込んだ。 「馬鹿っいきなり口ん中入れんなっ」 「飲み忘れそうになっただろ?忘れたらオレの時間勿体無いからな」 お前が望むのなら、嘘なんて吐いてやる。 優しいものだ。 嘘のレベルが、優しい。 目の前に飛び込んできたあの時の情景を前に、思わず叫んでいた。 理由なんて簡単。単純。 簡単なこと。 「走ることは、悪かねえよ。エドは、走れよ」 ハボックが口を開く。 「走って、走って、走ればいい。けど」 「…けど、何?」 ハボックと同じ、軍のズボンを履いた脚を組んで、エドワードは問う。 「休息取らねえで、走るだけ走っても、多分成功なんてしない」 エドワードが真剣な瞳でハボックを見た。 その金色の瞳を見据えて、ハボックは笑う。 「休息して、英気養えよ」 ここにいる。 ここにいる。 手が必要なら、差し伸べてやる。 この手でいいなら。 この身体が動けるなら、動いてやる。 あんなのは、見たくないんだよ。 誰だって、そうだ。自覚しろ。 だから、走れ。 走れ。 不完全な体調の少年は、休息した後の余裕のある笑みを浮かべた。 そして、乾いたシャツを受け取った。 休憩は、した。 腹にも、こころにも。 さあ、今受け取ったそれを纏って、黒い上着を装備しろ。 真紅のコートを翻して、また行け。 ***** Lith and selthe are fellows. = ことわざ。 休息と成功は仲間。 あー…そして… すいま せ ん … ありがちというかすでに沢山の方が書いたであろうっていうような内容で… 注)花さまに押し付けさせていただいたテキストの焼き直しテキストです。 あちらはオリジナルキャラも扱わせていただいたので、焼き直し版とはちょっと違っています(ハボック出ないし) こちらの方が長めです・・・。 ***** 「ズボンは、もうちっとだな。乾くまで…」 「オレ、ちょっと考えちゃった」 「…何をだよ」 「あのまま押し倒されるかと」 「……ズボン、いらねえんだな?」 「わっいるよ!いるに決まってるだろ!?」 「それ履いてっても構わないぞ、オレは」 「オレは構う!」 「…今履くか?構わないぞ。こんな湿気ってんの履けるんならな。バレるぞ?」 「―――…」 「オレの勝ちか。それともホントに倒れてみる?」 「…スイマセンデシタ」 PR ![]() ![]() |
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