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短編

In knowing nothing is the sweetest life.





 何も知らないっていうのは、楽でいい。

 思い悩まなくてもいいし、苦しまなくてもいい。

 嫌な現実を見ることもない。

 あることないこと、心をざわつかせることもない。

 そうだろう?

 自分を負へ追いやるものがないのだから。

 傷つかなくていいのだから。

 傷は、癒えるけれど、その痕は残る。

 忘れさせてくれない、痕。

 その痕が残ることがないのだから。




 それでも、どうして繰り返してしまうのか。

 結果は、やってみなければわからない。

 それでも、求めるのがひとというものだろう。

 自分は相手ではない。だからこそ、解らない。解ろうとしても、解るはずもない。

 例え努力したとしても。


―――私ハ貴方ノコト理解シタイワ

―――理解シテルワ


 そう言われたって。

 何を、どう、どこをどう解ってくれてるの?

 今のこの胸のうちが全部解るの?さっきの気持ちが解るの?出会ったときのこと、解るって言うのか?

 言葉というものは難しいもので、どういう言葉を使えば上手く伝わるのかなかなか解らない。

 言葉だけではなくて。時、場所。状況。ニュアンス。抑揚。表情。声の高さ。他には?きっともっとある。

 思いつく限りの単語を並べても、伝わらないことなんてたくさんあった。

 やらなければ、と思ってもできないこともあった。

 難しい、と思う。だから?

 だから運がないのか。

 ときどきはそういうことが全部吹っ飛んで行動してるときもあるけど。

 でも、お前を見てたら、ちょっと違うのかなと思ったよ。

 出会いなんて、本当に偶然で。

 これだけたくさんひとがいて。世界なんて結構広くて。

 たまたま出会って、喋って、一緒にいたりとかするんだろうけれど。

 唯一、そうじゃないもの。

 それは、本当に定めってやつなんだろう。

 自分が生まれる前から決まっていたこと。

 肉親。

 そう、兄弟。

 望む望まないに関わらず、目の前に置かれた現実。

 そんなこと考えもしなかったけど、お前を見ていたら、そんなことを思った。

 自分の意志とは関係のないところで決まっていたこと。

 拒否することは絶対に叶わない、決まったこと。

 その関係に苦しんで、傷ついて、笑って、助けられて。

 喋らなくても伝わる思い。

 伝えたいのに伝わらない思い。

 始めは、前者だけを思っていたけど。

 そうでもないんだなってことは、よくわかった。

 やっぱりそうだよなあ。

 やっぱり。

 何も知らなければ、傷つく事もない。

 心が煩わされることもない。

 その分だけ、楽しく暮らせる。

 でも、そう解ってても出来ないのがひとってやつで。

 だからこそ、もがいて、苦しんでるんだろう。

 自分だって、ハズレばっかり引いてるけど。

 全部が全部ハズレというわけでもないし。それは言える。

 まあまあ当たりの中に小さなハズレが混じってた、ってくらいか。


 なあ、大将。


 お前さんも、ハズレ、とか言ってるレベルじゃないのは承知だ。

 でも全部がハズレなわけでもないだろ?


 オレは、ややハズレに傾いてるけどな。


 あいつにはあいつの走らなきゃならない道があって。

 オレにだって当然あって。

 オレがハズレくじ引いてる時にたまにお前が来たりして。

 オレとお前は、似てない。

 似てないんだけど、どこか引っかかるところってのがあってさ。

 何て言うんだ?

 また言葉を捜しあぐねてる。

 今度試してみようか。

 たまには簡単な言葉の一つや二つまず投げてみて。

 反応を試したり。

 ちょっと長めにキャッチボールしてみたり。

 たまにはいいだろ?







「なあ大将」

「何?」

「何も知らないってのは楽でいいよな」


 ハボックはケースからタバコを出すと、口にくわえた。

 そしてライターを探す。

 自分で買ったばかりの、安物のライター。

 一応マッチも持っているが。どっちでもいい。火が欲しい。


「そりゃ、ね」


 ハボックの近くに座っていたエドワードが動く。

 そんな動きにどうしたのかとハボックは視線だけを動かした。

 その視線が捕らえたのは、自分の手からライターを奪うエドワードの手だった。


「ちょ、ちょっとおい」


 大切な火を。


「ハボック少尉はタバコ吸いすぎ」


 猫のよう。

 大きな金の瞳がこっちを見ていた。

 少年の目。


「オレには必要なんだよ…」


 火を求めてハボックは手を伸ばした。

 必要なんだ。

 健康になんて、いいわけがない。

 それでも、必要なんだ。

 言葉の見つからない時にも、丁度いい。

 言葉を発せずに困るこの口を、構ってくれるもの。

 ハボックの目が、ライターを追う。欲しいんだよ。
 
 それを見ているうちに、仕方ないとでもいうようにエドワードが動く。

 ライターを求めて伸ばされたハボックの腕と交差するように、エドワードが腕を伸ばした。

 エドワードの手が、ハボックの眼前にあった。

 そして、そこに灯るのは。

 求めた、赤い光。


「…ほら」


 行き場を失った腕を下ろして、ハボックは苦笑せざるを得ない。


「こりゃ光栄なこった」


 ハボックは、一度行き場を失ったその手を伸ばす。

 その手でエドワードの腕を取って、距離を縮めて。引き寄せて。

 顔を近づけた。





*****

In knowing nothing is the sweetest life. = ことわざ。知らなければ、思い悩むこともないんだ。その方が、楽しく暮らせる。


近い言葉に「知らぬが仏」ってありますが、あれだとあざけっていう語になっちゃうので今回のイメージ的には合わない。

*****



















「さっきの答え」

「ん?」

「さっきの答え、いる?」

「…ああ、あれ」

「知らないのは、確かに楽」

「…だよな」

「でも」

「うん?」

「自分の歩いた道にあったのに、それを知らずに通り過ぎちまうってのは、ダメだ」

「…ああ」

「権利じゃない。知る義務があるんだ」

「お前は、そう思うのか」

「ダメージ喰ったら、沈んで、浮上する」

「はは…エドらしいな」

「そうかな?」

「そうだろ?」

「知らないのは、楽。でもオレは、知りたい。てか、知る」

「言い切りかよ」

「誰にも文句は言わせねえし」

「じゃあ、オレもそれでいくか」


 激しい炎じゃなくて。

 でも、確実に灯った火を持って。

 険しい道を照らそう。

 毎日毎日楽しいことだけがある人生なんてない。そんなの味気ないし、と思う。

 面倒なことは沢山あるけれど。

 今みたいな時間が、だから余計に愛おしく感じるんだろう。
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