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完結

NEVERMIND 2





 エドワードはハボックに引きずれらるようにして連れて行かれた場所。

 独特の雰囲気が漂っている。

 ハボックはやっとエドワードの腕を解放した。

 その腕には微かに跡が残っていた。その跡を見て、理由は解らずとも相手は本気なのだと、それだけをエドワードは悟る。


「ほら、そこ座れ」


 半ば無理矢理エドワードをその場に座らせた。


「いや、座れって……大体何なんだよ」

「そりゃこっちのセリフだっつの」


 エドワードが不満を表しながら目の前に立つハボックを睨みあげる。

 ハボックはやれやれ、とため息をついた。

 本人は気付いていないらしい。


「アルは一緒じゃねえんだな」

「え?ああ、今は先に行ってほしい所があって」

「アルは気がつけないからな」


 それはアルフォンスにしてみれば可哀想なことなのだろうけれど。

 これは、あの司令部にいる人間なら誰でもきっと気付く。

 嫌というほどに知っていることだから。


「どういうこと?」

「だからそれはこっちのセリフ」


 ハボックは必要な物を適当に手に取る。


「どこ行って来たって?」

「だからそんなの……」


 ハボックが手にした物を見て、エドワードは気がついた。ハボックが何に対して言っているのかを。

 エドワードは続く言葉を言えなかった。


「何で?」

「見せろ」


 ハボックはエドワードの問いには答えずに、ただそう言った。

 エドワードは仕方なさそうにそれに応える。

 きっともう、何を言っても無駄だ。そう思った。彼は分かっている。気付いている。


「大したことねーんだよ、こんなの」

「嘘つけ」


 ジャケットを脱がす。

 右脚を出させる。


「……ホントにこれが大したことないと思ってんなら問題アリだぞ」

「ねえよ……痛ッ」

「ほら見ろ」


 晒された傷口に、消毒液の染みたコットンを押し付けた。


「怪我したらせめて早く処置しろよ馬鹿」

「馬鹿言うな。つか、もちっと優しくできねーの」

「大将にそんなこと言う資格なし」


 慣れた手つきでエドワードの負傷部分に手をつけていく。

 コットンは鮮やかな赤にどんどん染まっていく。

 ハボックの足元にあるゴミ箱には赤く染まったコットンがひらりひらりと複数落ちていく。

 一つ一つの傷がすごく酷い、というほどではない。軽くもないが、自分がとりあえず手当てをしてやれる程度の。

 それでもこれは多い。決して浅くない傷が。


「何やってんだよ」

「色々」

「お前が言うと恐いんですけど」


 言えって言ったの少尉だろ、と言われるままに腕を出しながらエドワードが口を尖らす。

 ハボックは黙々と手を動かす。とりあえず素直に申告された箇所に処置していく。

 エドワードもこれ以上は何も言わず、ただそれを受け入れて黙っている。

 他には、と問われて少しだけ躊躇った後にわき腹を出した。

 骨をやったわけではなかったけれど。これ以上偽るのは、黙っているのも無駄なことだと思った。

 さっきまでの嵐のような時間とは対比的な静けさがある。

 ふと、指摘されたところではない箇所にハボックの視線が注がれた。ピンセットでつまんだコットンをそこにも押し当てる。

 エドワードも意識していなかったらしく、不意に染みた小さい衝撃に痛え、と言葉を零した。

 そこにも傷が出来て鮮血が零れていたことに本人が気付いていなかったらしい。

 そこらじゅうが傷だらけで感覚的に気付かなかったのか、その血の匂いが周囲の怪我でかき消されていただけか。

 比較的浅い傷だったが、それでも溢れ出していたその鮮やかな色。

 その肌を滑り落ちて赤い道筋をつけていた。


「もうないな?」

「うん」

「ホントだな?」

「ねーよ」


 エドワード自身、申告せざるを得なかった場所は全て曝け出した。申告した。

 しかし自分でも気付いていないところも、無きにしも非ず。

 そう思って小さな声で多分、と付け足した。

 その回答によし、と言ってハボックは適当に後片付けを始める。

 その背中を見ながら、そのまま背中に問いかける。


「なー、少尉」

「ん?」

「何で?」

「は?」


 ハボックは手を止めてエドワードを振り返る。


「本人は気付かないもんですかね?」

「え?」

「エドは一番分かってるだろ」


 嫌と言うほどに知っている。


「少なくとも悪化させんな。傷負ったらすぐに応急処置はしろ」


 エドワードの睫が揺れたのが分かった。微かな震え。恐れだ。それがどうなるかということを考えればその先の展開など。


「コート羽織ってるから気付かれないとでも思ったか?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「止血位しろよ……」


 久しぶりに会って早々これか、とハボックが呟く。その一言はエドワードに刺さる。

 何をどうやってこんな傷を負ったのかは分からないが、そんなに経ってはいないだろう。

 大したことない、といういつものエドワードの勝手な解釈で、アルフォンスに気付かれないように、いつものように振舞っていたのだろう。

 分かりやすいといえばそれまでだが、こちらの身にもなってほしい。

 アルフォンスに気付かれないように。振る舞いに、表情に出さなければ。

 後は別行動になってから手当てすれば。ばれた時はもう大丈夫だから、と言えば。もう手当てもしたから、と言えば。


「そんな匂いさせてんじゃねえよ」

「え」

「あのまま大佐ん所に報告に行ってみろ。何言われるか」


 ロイだけではない。ホークアイにだって、誰にだって。

 エドワードも、理由がやっと分かった様子だ。

 ここにいる者は皆が敏感なのだ。その匂いに。その、この身に流れる赤のにおい。

 少し俯くエドワードの頭を再び軽く触る。さっきと同じように。


「ゴメン……」

「別に俺に謝らなくてもいい。無茶すんな」


 久々に会って、そんな傷を負った匂いをさせないで。また心配になる。また走り出すことが分かっているから。

 血の匂いに、いい思い出はない。エドワードもハボックも、司令部内にいる誰もが。

 一度知れば、二度と忘れられない。

 明らかに致命傷を負った人間を感覚が麻痺するほど見てきた。

 自分の足元で、命の赤を大量に流してそれを失った人間がどれ程いたかなど。もう。


「慣れるなよ」

「え?」

「その匂いに慣れるな」


 一度覚えてしまったら、拭うことができなくなるようなこの鉄のにおいに。

 鈍感になるな。

 自らのこの身から溢れてしまったなら、その痛みより先に気付け。

 身体が悲鳴をあげていることに気付け。


「サンキュ」

「ああ」

「少尉」

「ん?」

「今はさ、なかなかうまくいかねーかもしれないけど」


 目標は成すためにあるから。

 自分の望みは絶対に成せることのはずだから。できることだから。

 だから。


「今こんな事言っても信用できないかもしれないけど」


 でも敢えて言うよ。


「心配いらねーから」


 どこかで転んだとしても、トラブルに巻き込まれても。

 帰ってくるよ。

 どこからでも。


「ホント、信用できねえ」

「ひでえ言い方」

「事実だろ?自分で言っといて」


 そう思ってくれるのだったら。

 そう胸を張っていえるようになればいい。

 危険が付きまとうような生き方をしているのだったら、なおのこと気をつけてくれれば。

 それでも、自ら心配いらないといえるのだったら、きっと彼はそのことにちゃんと気付いているのだろう。

 ただ単に心配しないで、と口にされるのとは違っていることくらい、こっちももう解る。





 帰って来るよ。

 だからそのときは、お帰りと言って。
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