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続きます。

『a thinking reed』から繋がった話です。



 見透かさないでくれ。
 気付かないでくれ。気付かなくていい。
 気付いて欲しいなら、こんな風にしない。
 隠してるつもりはないけれど。これは貴方は知らなくていいことだから。



A lie never lives to be old 2



 この場所はそもそも図書室ではない。
 あくまで資料室だ。
 しかも滅多に使われない、いわば物置みたいなものだ。
 その決して大きくない部屋の奥の、簡単仕掛けの隠し扉をエドワードは開けた。棚が幾つか見える。
「…何で大佐の本があるんだ、ここに」
「これだけの量を持っていけというのかね」
「…そりゃ大佐が運んだんだろ…」
 いかにもロイらしい返答に呆れ顔で答えたエドワードは、古びた本に手を伸ばす。
 見たことの無い呈そう。
「鋼の。集中する前に聞け。帰るときはここの鍵を忘れずにかけた上で私のところに来るように。いいな」
「オッケ」
 本来ならついでにロイもこの場にいたいところだが、現状をちらりと思い起こせば、今は無理だ。とても無理だ。
 エドワードは数冊適当に本を見繕うとその場にゆっくり座り込む。
 もう意識は本に移行されつつあった。
「鋼の。それでは風邪を引かないか?」
「ああ。もういいから大佐。感謝する。いいよ仕事戻れよ」
「鋼の」
「中尉が待ってるんじゃねえの?あんまり長居してると怒られるんじゃないのかよ」
 視線は本のままにエドワードが答えた。
「鋼の」
「…何だよ集中させてくれよ。アルも待ってるんだから」
 あまりに何度も呼ぶものだから少し鬱陶しそうに言葉を返した。
 機嫌が悪くなりかけているのは当然ロイの目からしても一目瞭然だ。
 しかし、今はすぐにロイは踵を返せない。
 おかしい。
 おかしい所がある。
「早く一人になりたいか?」
「……」
 エドワードの視線がついに活字から離れた。
 愚問だ。
 それでもすぐ冷静沈着を取り戻す。
 取り戻したところで、束の間の動揺にも似たあの視線を、ロイは見ている。
(気付かなくていいのに)
 余計なことだ。
(気付かなくていい)
 必要の無い事だから。
 別に自分だけが特別じゃない。
「…何の話?」
「鋼の」
 ロイは思わずエドワードの左腕を掴んだ。
 ぐい、とエドワードの体を引き起こす。
「ッ…なっ…にすんだよッ」
 一瞬顔をゆがめた後、エドワードは全力でロイの腕を振り払う。
「それで隠しているつもりか。随分派手に掻きむしったな」
 ロイは呆れるように言った。
 エドワードは黙ってロイを見る。
「さっきここへ至るまでの道を聞いて納得したよ。原因はそのときのものだろう」
「…いつ気がついた?」
「身体の動かし方がいつもと少し違う。痒さで辛いんだろう。隠そうとしているから余計その細かな動きが気になる。さらに」
「…まだあんの?」
「ついでに言えば、首も耳の辺りも同じようだな。服で隠せない部分は仕方あるまい」
 そんなまじまじと掻いたところなど確認しない。
 今日の夜でもあれば、薬を塗るために見たかもしれないが。
「何だよ我慢してたのに。カッコ悪」
 そう言って、自制心を緩めたエドワードは既に辛いところに手を伸ばしている。
「それで掻いていては永遠に治らんぞ」
「そんなの解ってるよ。仕方ないだろ、すっげー痒いんだよ!」
「ほう。…どれ」
 ロイはエドワードの上着を掴むと軽く捲った。
「うわ、何しやがんだッ!」
 昨日のアルフォンスを思い出す。
 そして、いい気分はまったくしない。
 揃いも揃って何だと思っているのか。
 まるで完全な子ども扱いだ。
 勝手にシャツを脱がされかけて怒らない方がおかしいだろ、と内心エドワードは思う。
「背中も引っ掻き傷だらけだな」
「へいへい、俺が悪いんで」
「アルフォンスは今も気が気ではないだろうな。兄がまたどこか治りかけているところを掻いているんじゃないかと」
「五月蝿いよ…」
「掻き過ぎだ。背中が全部赤くなってるぞ。かさぶただらけだしな」
 そういってロイは手を伸ばした。
 そのまま手のひらでスッとエドワードの背中を撫でた。
「おわっ!触んなッいきなり!」
「ザラザラだぞ」
「…ひとの辛さも知らないで…」
 そういってエドワードは勢いよく捲られたままだったシャツを直した。
「それにな、鋼の」
「…何?」
 ロイは小さく間を開けた。どうも笑っているように、エドワードには見える。
 あまりいい気がしない。
「そんな首筋だの耳だのを赤くしていると、時に勘違いされるぞ」
「は?」
 ロイの言葉にすぐ返答できないでいたが、何を言われたのかに気付く。
「馬鹿ヤロッ!!そんな風に思う大佐がサイテーなんだよ!」
 顔を紅くしてエドワードが激しく反駁した。
 こっちは本当に苦労しているというのに。失礼だ。
「せめて今日は帰りにホークアイ中尉にでも頼むんだな」
「何を?」
「パウダーファンデーションで少しくらい隠せ」
「…どうしてそういうことを普通に思いつくんだよ大佐は」
「男の気遣いは必要だろう」
「それって…どうなんだろ…」
 今までの経験からものを言っているのだろうか。
 少なくともエドワードにしてみればいい気分はしない。
 ああいう風に言われることも、過去を垣間見させるような言葉も。
 わざわざアルフォンスに処方箋を持っていってもらったというのに、結局はあっけなくばれてしまった。
 不服でないと言えば、嘘になる。
 エドワードは半ば諦め顔でゆっくりとその場に再び座り込んだ。
「そんなに長居しない。後で行くから」
「ああ」
 簡単に答えて、ロイはその場を後にした。



 * * *



 ロイが再び致し方なく書類の山に手をつけているとホークアイが戻ってきた。
「もう戻られていたんですか」
「ああ。あれ以上居た所で鋼のは多分怒るだろうし、戻ってこなければそれはそれで別人に怒られるからね」
「状況報告はまだそんなに来ていませんが、ある程度整理しておきます」
「頼む。ついでに帰る前に簡単に鋼のにも報告書を出してもらうようにした」
 ロイは答えながらやっとできた書類に印を押した。
 それをやっと出来たかとブレダが取りに来る。
「あ、大佐。そういえばエドって何かあったんですか?」
「何の話だね少尉?」
「いや、昼ちょい前にアルフォンスから一般回線で通話があったんで」
 電話?
 ロイが反応する。
「聞いていないぞ。何と言っていた?」
「ああ、いや、大した事なくて。今日セントラル入ったんで、昼過ぎにはエドが司令部に着くだろうからって。
エドが電話しなかったから変わりに弟が連絡をよこしてくれたって訳です。
でも昼過ぎだったらきっともうすぐ着くだろうと思って。すいません」
 些細な事でも連絡を怠ったブレダには多少なりとも非がある。
「昼過ぎ?鋼のがここへ来たのは随分後だったと思ったが」
「ええと…そうですね。二時前くらいでした確か」
 フュリーが時計を確認する。
「すぐ近くまで来てるのに来ないって、変ですね」
「…」
 ロイには思い当たる節があった。
 病院に行って来たんだろう、と。
「どっか寄り道…って柄じゃないスからね、大将は。目的地にまっすぐ来るタイプだし」
 司令部の前まできて、来てしまったと嘆くことがあったとしても、その嘆きに一時間はさすがに使わない。
 ハボックの言葉を聞いて、小さなズレを、ロイは感じた。
 何か、変な感じがした。
「エドワード君、おでこや耳が赤くなってましたよね。かぶれたんでしょうか」
「中尉も気がついたか」
「塗り薬で早く治るといいですね。彼の性格からして早く治さないとどんどん掻いてしまうんでしょうから」
 そう答えつつ、終わった資料の束をまとめている。
 彼の性格は完全に見抜かれていた。
 そうなればあのアルフォンスが気付かないはずもないだろう。
 ロイはペンを置いた。
「――そうか」
「大佐?」
「鋼のは薬を持っていない」
「は?」
「だから、病院に寄ってきたのであれば、薬を持っているはずだ」
「そっスねえ」
「なのに持っていないとすれば、それは多分その薬は弟が持っているからだ」
 ずっとだまって聞いていたファルマンが口を開く。
「あの、大佐。何が言いたいんですか?」
「多分鋼のはアルフォンスと共に病院に行っている。
そして分かれた後にここに電話してきたのだろう。だからある程度の到着時間の予測がついていた」
 周囲にいる面々はそこまで言われて、何とか「そこまで」は納得する。
「それで?」
「何故こんなに鋼のがここに来るのに時間を費やしてるんだ?」
 そうしてやっと、その疑問にたどり着く。
 アルフォンスの電話が病院に行く前にあったものだとすれば、最初にロイの言ったとおりだろう。
 しかし考えてみれば、弟の電話は病院を出た後にかけてきたもののようだった。
 さっきハボックが言っていた。
 もともとここに来る事が目的だ。それこそ余程のことが無い限り、一時間以上の寄り道はあまり考えられない。
 それこそ賢者の石がらみとか、何か重大なものを発見したり気付かなければ。
 しかし、もしそうだとしたら恐らく今日中にエドワードは司令部には来ないだろう。それどころではないはずだ。
 忙しさの中で大切な査定期間を忘れるくらいなのだから。
 と考えるとやはりあの電話は病院帰りだろう。
 なら、病院を出てから司令部に来るまでの時間、鋼の少年は何をしていた?
「身体が痒かったんでしょうか」
「まあ、それはあるだろうが」
 それだけでもあるまい。
 エドワードが書類をロイに突きつけたとき。
 衣服からかすかに見える左腕が引っ掻き傷だらけだったことに、ロイは気がついた。
 そして改めて、首やら耳やらにも引っ掻き傷があることに気付いた。
 あれは明らかに豪快に自分でつけた傷だ。
 所々集中的に掻きすぎて肌もカサカサになってしまっていた。
 見ていても、かわいそうに思えてしまう。
 さらに、資料室に向かう時も、歩き方がいつもと微妙に違う気がした。
 痒くて身をよじりたいと思っているのだと思っていた。
 歩いている間ずっとではなく、時々だったからだ。
 彼らしくないぎこちなさ。
 それは、痒いのではなく。
「――…」
 ロイは思わず立ち上がった。
「すまない。すぐ戻る」
「大佐」
 いまさら「もしかしたら」と思う自分もどうかと思うが、彼はこと自分に関して、一人で背負いすぎる。
 恥ずかしいことなら、誰にも知られたくない。
 別に恥ずかしいことではなくても、人に知られたくないことなんて、人は誰でも持っている。
 しかし彼の場合は何でも隠そうとする。
 暴かれる事を恐れるように。
 そのときを、どっと押し寄せる感情を、事態を、一人で乗り越えようとして。
 ときには、そばにいる弟さえも置いて、乗り切ろうとして。
 きっと誰かが手を差し伸べても、関係ないと一蹴してしまいそうだ。
 自らが招いた、自らが選んだ業の道を行くための。
 甘える事が、ひどく不器用で。
 攻撃は最大の防御。強く在りたい、身も心も。
 その反面、失うということをひどく恐れて。
 それを乗り越えようとして、その足で地に立つ少年。力強く。
 弱さは、見せない。きっとそれは彼にとってはもう「普通」なのかもしれない。
 時折見せる、あの笑った顔が、彼なのに。
 誰か彼を護って。
 本人にとっては不本意かもしれなくても。保護者じゃなくていい。彼の近くに。
 辛い時に辛い表情をしてはいけないのか。
 悲しいと時そういう表情を見せてはいけないのか。
 怒る事には抵抗がなくて。

――誰の前でなら、そういう表情をする?

 オトナに近づくたびに、そういう感情をコントロールすることを覚えた錬金術師。
 何て不器用。




「誰かあの子どもに教えてやれ。何でも一人で抱え込もうとしすぎだ」
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