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続きます。
自分にとってそれは至極当たり前のことだと思っていることは、誰しもある。 日常当たり前のことだと思っていること。ある時、その場合の対処の仕方。反応。言葉の返し方。行動の仕方。 それは別にびっくりされることではなくて、自身の中ではそれが水準であるだけだ。 だからこそ、他人が見て驚いたり呆れたりするときもあるということだろう? そして何に、何故驚かれているかは当人には分からない。 それがどんなことでも。 些細なことでも。 秀才には、何故いつも授業を受けているのに理解できず試験前に焦っているのか分からないように。 スーツのシャツはクリーニングに出すのが当たり前と思っている人が、家で洗濯している人を見て驚くように。 だから、そんな他人には理解できなくても当人には至って当たり前なことを忘れたときのショックは当人にしか分からない。 何故忘れたのかも理解できない。 何故しくじったのか分からない。 プライドを持っている人物なら、尚更。 * * * 基本的に司令部はいつも忙しい。 そんな状態なのにどうでもいいとしか思えない仕事をわざとか、と思えるように回してくる上層部。 そんなものに限って正直くだらない、と思えるものだったりもする。勿論全てがとは言わない。あくまでも仕事であることは変わりない。 それでもここ一ヶ月ほど、信じられないくらい忙しかった。 最初は愚痴をこぼしていたロイも愚痴を零す状況すら与えられず仕事をするしか術はなかった。 書いても書いても減るどころか増えていく紙の束。 どんどんと送られてくる書類。 ただ目を通すだけでもどれだけかかると思っているんだ、と思えてならない。 これにさらに照合の必要な書類が毎日一千通単位で届く。 そんなことは専門の部署でやればいいはずだ。何のために部署が分かれているのか。 そっちの部署も人員が多くないことは承知。結局誰がやっても変わらないことも。 それでもここで出来るわけがない。 やることがある。 二ヶ月ほどの約束で、こっちにも回されてきていた。 さすがにそれ自体は部下たちが目薬片手に残業してくれているが。 判も押しすぎてインクが見る間に減っていた。 ふと眼前にある部下達の表情を見れば、皆やつれたように見える。 ホークアイは気丈にやっているように見えるが、よくよく見れば目を擦っている。 ロイはさすがにため息をついた。 帰りたい。 せめて正常な生活スタイルを返してくれ。 明らかにテンションを落としながらペンを握るロイ自身も、自身が気付かないほどに疲弊していた。 視界がゆがむ。 限界だった。 椅子にも座り続けすぎて腰がおかしくなりそうだった。 「…少し出てくる」 固まった身体をゆっくり動かしながらロイが立ち上がる。 「…十五分ですよ、大佐」 「十五分…」 「大佐、十五分でもお許しが出ただけラッキーだと思ったほうがいいっスよ」 「…そうか?」 いくら軍に身を置いているとはいえ休むことは与えられて当然のことだ。 どこかがおかしい、とロイは思う。 「あれ…?」 その声に、ロイは正面を見る。 聞きなれた、しかし今まで確かにここにはいなかった者の声。 「出かけんの、大佐?」 「鋼の?」 入り口には様子を伺うような姿勢のエドワードと、更に控えめな様子でこちらを見るアルフォンスの姿があった。 「あら、二人ともいらっしゃい。立て込んでいて悪いけれど」 「相変わらず凄いなここ。入っていい?」 「入れないような何かでもしでかしたのかね」 「馬鹿やろ、ねえよそんなの!」 ロイの一言がエドワードの癇に障ったらしい。いきなり怒鳴られた。 「ノックしたのに反応しなかったのはそっちだろ?」 「ノックした?」 「したよ」 ロイを始めオフィスにいた面々は周囲を見渡す。 「何?誰も気付かなかったのかよ」 「疲れているんだ…」 ロイが頭を抱えた。 煮詰まっているのは。ストレスをためているのは皆同じと言うことだ。 早々に何か手を打たなければと思いつつロイは再びホークアイを見る。 「済まないな中尉」 「どうぞ。本当にあまりに遅ければ探しに行きますけど」 「…分かった」 「今日ぐらいは、仕方ないでしょうから」 ホークアイはそう言ってにっこり笑った。 今日のホークアイは機嫌がいいのだろうか。さっきもここから逃げ出そうとする自分に例え十五分でもすんなりと許可をくれるとは。 「というわけだ、鋼の。少し付き合いたまえ」 「ええ?」 「いいじゃない、兄さん。わざわざ戻ってきたんだし」 「だって、それは、お前が戻ろうって何度も――」 「はいはい。いいじゃない、きっかけが何であれ。今ここにいるんだし」 時間勿体無いんじゃないの、大佐の貴重な休憩時間みたいだから、とアルフォンスは言ってエドワードを廊下に押し出す。 「おい、ちょっとアルっ」 ついでにロイの背中も押す。 「いってらっしゃい」 二人は半ば強引にオフィスから締め出された。 扉のしまり際、アルフォンスはつぶやいた。 「折角の好意なんだから。ついでにボクの気持ちが変わらないうちにね」 そしてそんな光景を仕事の片手間に見ていたホークアイがふとあることに気付いた。 「あら…?」 その視線は、主の不在となっている正面のデスクに注がれた。 * * * 予定よりも五分遅れで二人が姿を現した。 正直十五分では可哀想だ。とは、誰もが思っていた。 むしろ出て行った以上十五分は不可能だろうと。 例えは食事をするとしても、それはこの時間には出来ない。仕切りなおしになることは間違いない。 それでもロイのことを思えばあの時間条件は不可能だろうと思っていただけに。 戻ってきたことに驚いた。 「何だ」 部下達から注がれる視線に不満を漏らす。 「だってさっき中尉が十五分とか何とか言ってたから。引っ張ってきたんだけど」 「そのことに関してはお疲れ、大将」 「でもよかったのか?」 「は?」 ブレダの問いの意味が分からずにエドワードが首をかしげる。 「いや、微妙な時間だったろ?」 「仕方ねえんじゃねえの?凄い遅れてオレまで中尉に怒られるの嫌だし」 エドワードの返答などシンプルなものだった。 ロイはやれやれといつになく素直に席に戻る。 エドワード効果だ。 いつまでもこの場に留まってはくれないであろう少年の時間を掴むため。 「大佐ーオレ一度外出るぞ。また来てやっから」 「…ああ」 周囲の目が黙って二人に注がれた。 「今日は残業なしだ」 「ちゃんと仕事しろよ。迷惑かけんな」 「誰が誰にだ?」 「あんたが周囲に」 素直に言葉を叩き返すと何故か躊躇う弟に行くぞ、とエドワードが促した。 アルフォンスが言葉を発する前に扉は閉められた。 兄弟が司令部を後にする頃、オフィスからロイの悲痛そうな声が聞こえた。 正確には、悲痛そうというよりも後悔にも似た悲鳴。 それは、何よりも自身を責める、後悔の悲鳴。 PR ![]() ![]() |
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