忍者ブログ
ブログ
[23] [22] [21] [20] [19] [18] [17] [16] [15] [14] [13]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

短編

 こんな冬の日には。





陽のあたる場所





 エドワードの近くにアルフォンスの姿は無かった。

 たまにある、こんな日。

 こんな旅を続けていれば、別行動になることもそれなりにある。

 ありはするが、これはまた別の話。

 前ばかりを見つめている兄が、今をゆっくり認識してくれる機会だと、弟は思っている。


『ゆっくりしておいでよ』


 こう言われる度に、エドワードは自分を少しだけ振り返る。振り返ることができる。

 それは、振り返ることを忘却した自分への警告のようだと思う。

 振り返っても自分のためになることなんて何がある。

 あるのは、自ら犯した過ちの歴史だけなのに。

 望むものを得るためには、その可能性を拾い集める要素は未来にある。

 仮に過去にあったとしても、もうそれを回収することは出来ないだろう。出来ることは、後悔する事だけ。

 少なくとも今のエドワードはそう考えていたから。


「何を考えている?」

「ん?」


 隣を歩くロイが口を開いた。

 しばらく黙ったままだったエドワードのその表情から、何かを考え込んでいるのを察知して声をかけるのを控えていたロイだ。

 それでも個人的な気持ちから言えば、自分と一緒に居るときくらいこんな表情をさせたくもない。


「別に」

「とてもそうとは思えない表情だったが」

「気のせいだろ」

「百歩譲っても気のせいとは思えんな」

「……あそ」


 ロイは苦笑する。

 エドワードは自分を表現することが得意ではない。それを見抜かれることも。それを突きつけられることも。

 そのことに不服を感じながらエドワードは軽くため息をついた。

 その息は、外気との温度差を証明するかのように白く視界に現れて消えた。

 歩くことをやめないその脚も、今日のようなこんな日だと、だんだんと冷たくなる。

 それを感じさせる右足がそうエドワードに伝えてくる。

 寒さに思わず身震いして、エドワードがくしゃみをした。


「風邪か?」

「たった一回のくしゃみで風邪決定かよオレは」


 不服そうにロイを見ようとすると、視界が黒で覆われた。

 ロイが自分の着ていたコートをエドワードに羽織らせたのだ。


「うわ……」


 あからさまにエドワードの眉間に皺がよる。


「なんだねその不服そうな顔は」

「すげー不服」


 そう言われてロイが笑う。その笑顔はエドワードを更に不満にさせた。

 こんな思いは子どもじみてる。そう思うのに。


「もうすぐ着く。それまでくらい着ていなさい」


 今日はここ数日でも一段と寒いからな、と付け足す。

 背中を押される。

 主導権は完全にあちら側にある。こういうことにはいつまで経っても慣れない。自分らしくない。

 でも共に同じ方向へ、同じスピードで歩んでいるのは間違いなく自分。それは自分の意思。

 やはりこういうのはいつまで経っても慣れないと思う。

 わずかな、ゆっくりとした時間の流れの中に存在する自分が。

 自分のためだけに生きているこの時間が。

 いつの間にか勝手知ったるこの家の間取り。生活観の薄い部屋。けれど確かにある彼の生活観。

 それでもまだ微かに感じる違和感。けれど悪い感じはしない。

 本人でさえ認識しきれない、エドワードの奥底に確実にある罪悪感が少しずつ現れているだけ。

 本人が認められない、ここにある安堵感を理解しきれていないだけ。


「とりあえず早くシャワーを浴びてくるといい」


 エドワードが寒さを感じていることにロイは気付いていた。

 仕草も素振りも変わらないようにしていたエドワードだった。けれどそのこと自体がロイには筒抜けだった。

 不服そうなエドワードの表情を見て、ロイは笑う。


「何だね。一緒に入るか?」

「――」


 エドワードが言葉をなくした。


「バカじゃねーの。言ってろッ」


 その緩やかな時間を断ち切るようにエドワードはドアを勢いよく閉めた。

 そうだ。こんなやりとりは緩い。

 歯がゆい。けれどこれが自分の隙間を満たしてくれていることは、もう否定することは出来ない。

 ロイにしてみても、きっとこんな反応が返って来ることは百も承知。あまりにそのまますぎて苦笑せざるを得ない。


「……くそっ」


 無性に悔しくなって、用意されていたタオルに突っ伏した。

 心地よい優しさ。

 そして懐かしい匂いを感じた。


「……」


 なんだろう、とエドワードは少し考えて納得した。

 懐かしい。

 まだ弟の笑顔を受けて自分もただ笑っていた頃。懐かしい笑顔の数々。

 まだ何も知らなかったあの頃の。

 母親の優しさを思い出す。


「……太陽の匂い」


 天日干しされたタオルの匂い。

 随分と久しぶりに感じるものだった。

 温かい。


「……」


 エドワードが視線を上げた。その先はドア。そしてその先は。

 彼が自ら用意した。

 そうそうここに帰ってもなれないだろう彼が自ら洗濯をしたというのだろうか。

 自分のために?

 彼が自分のために選択する姿など想像できない。

 あえて想像を膨らませてみて、思わず笑みがこぼれた。

 らしくない。あまりにも。

 そしてその滑稽な愛情が向けられている先は。


「……はは」


 根無し草のエドワードの隠れ家のようなこの場所で。

 根無し草の自分に向けられる、家族愛以外の愛情。

 突きつけられることの無い、隠れた愛情。

 些細なことに嬉しくなるのは自分が弱っているからなのか、それとも。

 久しぶりに感じる太陽の暖かさ。

 余裕を漂わせているのに、その中にたまに見つける不器用さ。


「……大佐」


 ドアの向こうから呼ばれて、ロイがソファーから立ち上がる。


「何だ?タオルも着替えもあるだろう?」


 ドア越しに返事をしてみたが、その先のエドワードからの言葉は無い。

 見つけたかと思い、ロイは再び座ろうとした。


「あー……」

「何だ」


 意図を測りかねたロイが視線だけを再びドアに向けたとき。


「……入る?」


 それはエドワードの方から発する、今出来る譲歩。

 こういうことに不器用なエドワードの、それなりの決心と勇気。

 今頃顔を赤くしているだろう。

 面とは向かってまだ言えない。

 憎まれ口ばかりになってしまいそうだから。

 それが解るロイは、笑って二人を隔てるそのドアを開けた。





*****






糖度高。(自分的に)
あ~甘。(やはり自分的に)


PR

コメント


コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


トラックバック
この記事にトラックバックする:


忍者ブログ [PR]
カレンダー
08 2025/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
No Name Ninja
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
アーカイブ