忍者ブログ
ブログ
[28] [27] [26] [25] [24] [23] [22] [21] [20] [19] [18]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

続きます。
『If you can dream it . you can do it』 と繋がった話(っぽく)


 いつか沈んでいくそのときまで。





(ヴェーア ヴァルテン カン ハット フィール ゲターン)


Wer warten Kann ,hat viel getan. 2-1 ~待てば海路の日和あり2-1~





 アルフォンスが失った四年という年月を取り戻しても、それでも兄は知らないうちに成長していた。その事実を改めて実感させられた。

 決して埋める事のできない四年と言う年月が、そこにあった。

 兄についてきてこちらの世界に墜ち、大切な四年を取り戻したあの時は、この身の年齢差は縮められなくても心の差は取り戻せたと思った。

 それでも最初はまずここに順応するので精一杯だった。

 けれど、自分の目の前には、自分の横には今は兄が居る。それが大切なこと。

 そんな弟を見て、固定概念を覆さなければならないのだから仕方がない、とエドワードは言った。自分もそうだったと。

 変わらないルールもある。むしろ、そのほうが多い。

 錬金術が使えない世界でも、科学技術が発達して、空を飛ぶ術を得た世界でも、人の生きていく姿は変わらない。

 食べることも寝ることも、学ぶということも、時に戦うということも、人と付き合っていくということも。変わらないマナー。

 それでも、この五感を得たこの自分の身体で、兄と同じ時代を、同じ世界で生きていけるなら。

 色々なところを旅した。生きていけるならどの場所だって似たようなものだと思えた。

 会いたいと願っても、もう会えない人たちはいるけれど。この現在を自分が、選んだ。

 そうして、自分達はこの世界で生きていく。

 そんなアルフォンスがこちらへ来てまずしたことは、自分とよく似た青年を送り出すことだった。

 きっと、きっとエドワードは彼に自分の弟の面影を重ねただろう。

 エドワードは旅をし続けた四年という年月を、自らの身と、弟の笑顔を取り戻すために歩いた。走った。

 彼は全てを投げ打ってその一部を取り戻した。なのに取り戻した彼自身は、その求めた、取り戻した笑顔を見ることはなかったのだから。

 ずっとずっと望んでいたその笑顔を。

 弟の手に戻ったことも知らず、生きているのかさえ知る術すら持てず、中途半端なまま彼は放り出された。

 そんなときにあの青年に出会ってしまったなら、きっと彼は苦しかっただろう。最初は苦しかっただろう。

 けれど、そんなエドワードをギリギリの一線で繋ぎとめてくれていたのも、あのひとだったのではないかとアルフォンスは思った。

 聞いてみたかった。彼はどんなひとだったのか。

 けれど、兄の望みを叶えるために残り短い針を強引に手折られてしまった彼のことを聞くのも躊躇われて。

 しばらくはあの人に関して、何も聞けない日々が続いた。

 でももう少し時が経ったら聞いてみよう。

 そして彼は、兄の語る言葉をどんな思いで聞いていたのだろうかと考える。


(もし、ボクが)


 たった一人この世界に墜ちたとしたら。

 兄の生死も解らず、ただこの世界に一人墜ちたら。

 例え父が近くに居てくれたとしても。途中、その父も行方が解らなくなっても。

 帰る手立てを何も持たず、見つからない日々の中で、横に兄とそっくりな表情で、やはりよく似たあの声で話すひとが近くに居たら。


(ボクは今のまま、このままで生きていけるんだろうか)


 強い兄。

 弱さに苦しむ姿も、後悔する姿も、泥の河を必死に泳ぐ姿も知っている。だからこそ見えるその強さ。

 どこかよそよそしかった彼が少し変わったのは弟の自分がここへきてからだと、兄を知る人に言われたことがある。ひとりではなく、数人に。

 それがきっと、ここでの姿だったのだろう。

 この世界を真っ直ぐに見ることを、向き合うことを始めたエドワードの変化を、周囲も気付いた。どいういう変化かまでは解らずとも。

 弱い兄。

 それはひとりの人だからこそ。いつだって強く在ろうとするエドワードの姿。


(兄さん)


 アルフォンスは温もりのないベッドを見つめていた。

 シャワーの音も響いてこない。

 いつからだろうか。

 アルフォンスが眠る前には向かいのベッドに確かにその姿があった。


『おやすみ』


 おやすみ、おやすみ。よい夢を。

 エドワードが好きな、アルフォンスの寝顔。

 最初はそれも仕方ないと思っていた。それは今でも。

 兄はただ、自分が日常を過ごす、それを見ているだけで嬉しいのだと。当たり前の事を時々嬉しそうに見る。

 時々、そんな視線を感じる。

 恥ずかしいとは思うけれど、そんな気持ちは嬉しい。だから拒否はできなかった。

 害になることは何もない。終始監視されているわけでもない。そう、あれは監視の眼ではない。

 それでほっとできるなら。それも彼の心が落ち着くまでのことだろうから。

 そんなエドワードの姿がなかった。

 時々、アルフォンスに告げることもなく、姿を消す。

 別に必ず行き先を言ってほしいわけじゃない。彼が自分を置いていくわけでもない。だけど。

 深夜に、ときどき。

 アルフォンスがふと夜中に目を覚ますと、ときどき向かいにいるはずのその姿が見当たらなかった。

 バスルームにもいない。この借りている部屋に、その姿がない。

 こんな時間に、いつも何処へ行くのだろう。

 不安よりは、心配の心の方がアルフォンスは強かった。


(あなたも)


 こんなときに、ふと考えてしまう。

 理由は解らないが、この放浪癖のようなこんなことを、昔からしていたのだろうか。

 あなたも、兄を心配するようなことはありましたか。

 聞いてみたかった。

 ほんの少し聞いた、あの青年のこと。話すエドワードの表情を見て、その思いが強くなった。

 貴方はこの世界で、きっと兄に必要な人でした。

 見放さないでくれて、そばに居てくれてありがとうございました、と今は強く思う。

 このまま、再度寝たほうがいいだろうか。この場から離れないほうがいいだろうか。

 捜しに行っても、いいだろうか。

 少しだけ、思考をめぐらせた。

 けれど、突き動かされる思いを否定することもなだめる事もできずに、アルフォンスはベッドから起き上がる。

 かけてあった上着を手にしながら、少し窓を開けてみる。片手に在るものは、必要そうだった。


(もう、兄さん、どこに)


 上着を羽織ってから、アルフォンスが窓を閉める。

 閉めた手が、窓から離れるのに少し時間がかかった。動かした視線を戻す。一瞬映ったその視界を疑うこともなく。


「兄さん」


 今、自分の視界に微かに入ったその姿を、見違えるはずもなかった。



PR

コメント


コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


トラックバック
この記事にトラックバックする:


忍者ブログ [PR]
カレンダー
07 2025/08 09
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
No Name Ninja
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
アーカイブ