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完結?
『If you can dream it . you can do it』 と繋がった話(っぽく)


 今はまだ必要なその光を、なくさずに進め。





(ヴェーア ヴァルテン カン ハット フィール ゲターン)


Wer warten Kann ,hat viel getan. 2-1 ~待てば海路の日和あり2-2~









 夜の暗い道でも解る金糸の髪。

 見間違えるはずもない。

 無意識に手に力が入る。

 アルフォンスが再び窓から見下ろすと、エドワードがこのアパートメントに入る姿が見えた。

 帰って来た。

 そう認識すると同時に、アルフォンスは急いで部屋を飛び出す。そのまま玄関へ駆け寄る。

 やや勢いよくドアを開けた。すぐにアパートメントの入り口に視線を動かしたが、そこにはすでに人影はなく。

 エドワードはその開け放たれたドアの音には気付かなかったらしい。

 ドアを開けて、その目の前にエドワードの姿が見えなかったアルフォンスは、数歩外へ出て、上の階へ続く階段を見上げた。

 エドワードの羽織っている上着の裾が揺れたのが見えた。しかしすぐに見えなくなったその姿を、アルフォンスが追う。


「兄さん!」


 その背中に言葉を投げかけると、エドワードはやっと振り返る。


「兄さん」

「……どうした?」


 呼びかけられて、やはり少し大人びた、驚いた表情でエドワードがそう一言問う。


「それはこっちのセリフだよ。こんな気候なのにそんな薄着でどこ行ってきたの。どこ行くの」


 部屋を通り過ぎて。


「うん」


 少し笑って、エドワードが言う。


「外」

「え?」


 その指は、上を指す。


「よく見えるんだ」


 その答えは、何処へ行ってきたのか、という問いの答えにはなっていない。

 けれど、考えようによっては上以外の場所を探していたのかもしれない。そう都合よく考えることはできた。

 屋上に行くと、夜空を見上げるときの障害物が減る。

 月のない夜。

 その分、星が良く見える。

 それでも、肌をなぜる風は冷ややかだった。

 エドワードは適当にその場に座り込む。

 アルフォンスもその横に腰を下ろす。横にいる兄の表情を窺うと、ただ空を見上げていた。


「よく、夜空見上げるの?」

「ん?ああ、たまに」


 このあたりだと、この場所が一番よく見えるらしい。

 まだしばらくこのあたりにいる予定だから、どこか穴場をふらりと探しにいくらしい。

 見える場所が少ない訳ではない。ただ、望むその場所を求めてフラフラと歩く。

 いつまでもここにいるわけではないのに。

 エドワードは嘘は言っていない。好みの場所を探すことも。

 けれどそれは、同時にただの言い訳でもある。


「こっち来てから?」

「そうだな。あいつとロケットの事喋りながら、ってのが始めかな……今は別にそういうわけじゃねえけど」


 いつか、この空を飛んで。

 あの雲の向こうまで。大気圏の向こうへ。それこそ、あの星までだって行けると夢見て。その先まで。

 世界を飛ぶ夢を。


(ハイデリヒ……さん)


 この空全てに、夢を馳せて。

 きっとエドワードも、同じように、この空を駆るかもしれない可能性に夢を見て。

 同じほうを見る者同士。

 それは、少し羨ましい。

 そんなアルフォンスは、さっきよりも冷たくなった風を感じて、上着を深く着込む。


「ねえ、兄さん。寒くなってきたから、今日はもう戻ろうよ」


 そう告げたが、返事がない。横を向くと、相変わらずエドワードはただぼんやりと空を見ている。


「ねえ、戻ろう」


『風邪引きますよ』


 そう言われたような気がした。


「兄さん?」

「この空の先に、いるかな」

「え?」


 何が。

 誰が。

 彼が?


「見えない、向こうまで行けたら、そのずっと先に、いるかな」


 まだ誰も知らないその先へ。その世界へ。行けば、いるだろうか。誰も知らないのだから、可能性がないとは言えない。ただその危うい可能性を信じて。


「アル……」

「うん?」

「いるかな」


 動けなかった。アルフォンスはただ、エドワードを見つめる。

 ねえ、それは。

 彼のことを言っているの?

 それとも。


 それとも。


 微かな間の後、アルフォンスはエドワードに抱きつく。


「兄さん。帰ろう。一緒に帰ろう。ボクと一緒に……帰ろう」

「そうだな」


 強い兄。

 弱い兄。

 強く在ろうとする。

 そんな兄の、弟には空白の、知らない四年分の時間は、兄にどう作用したのか。

 彼を支えるものを全て奪われて、それでも立ち止まらなかった。

 少しずつ歪んでいったことにも気付かずに。

 捜していたのは自分だけではなかったのだから。

 苦しんでいたのも自分だけではなかったのだから。

 ただ、再会できることを望んでいた。きっと生きていると信じて。相手の生死すら知る術がない中で、それでも二人ともただ信じて。

 不安定な希望だけを抱えて。

 一抹の泡のような、脆い希望を『信じる』ことが、支え。辛うじて走ってきたのだ。


「ごめんね」

「どうした?」

「ううん。ううん……ボクと一緒に帰ろう」


 エドワードが笑うから。笑顔で返事をするから。

 ごめんね、ごめんなさい。そしてありがとう。

 ボクの温もりは通じますか。伝わりますか。

 この体温は、貴方の弟のものです。他の誰でもない。あの人でもない。やっと伝えられるこの体温。

 必要としてくれるなら、ボクはどこまででも、歩いていくから。

 苦しいのは、自分だけじゃない。

 誰だって、それぞれの苦しみを抱えている。

 ボクはきっと甘えていた。

 今は居ない、あの人にも甘えていた。

 何も言われないのをいいことに、自分に都合よく解釈していたかもしれない。

 今度、ちゃんと兄に聞こう。あの人のことを聞こう。

 大好きな貴方のことも。

 今は、帰ろう。

 一緒に帰ろう。

 隣にいるから。

 繋いだ手は、そのままに。

 少なくとも、今は。
 
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