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長編
シリアス・オリキャラ有り


 街に入ると、人が見えた。

 誰もが非難して篭っているとか、激しい戦闘になっているとかそういうことにはなっていない。
 
 エドワードはトランクを持ち直して、とりあえず歩いてみた。

 窓には念のために目張りが施されている。

 有事のための住民の対応は、それ程は成されていなかった。

 つまりは、まだそれくらいの段階なのだろう。

 と、今は第一印象として捉えておく。

 エドワードはもっと軍人が警備をしていると思っていたが、予想に対して現在までに見かけた軍人は少ないほうだった。

 それは当然、憲兵を含めてである。

 そしてやはり、男性があまり見えない。

 仕事があるのは当然だろうが、街を守るために交代しているようだった。

 市場はさすがにそれ程活気はないが、食事の買い物をしている人がちらほらと見えた。


「ねえ、兄さん」

「どうした?」

「どこかでご飯食べてから宿を探す?」

「あーそうだな。…あ」

「どうしたの?」


 エドワードは宿のことを考えて、気づく。

 何故今更になって気づいたのか、自分でもよく分からない。

 銀時計を呈示すれば、街に入っている大尉以下の駐在する軍人たちの耳にそう時間のかからないうちに入ってしまうはずだ。

 街に、国家錬金術師が来ていると。

 ロイは別に「国家錬金術師とばれないように」とは指示していない。

 しかし、第三者として見るのなら、身分はばれない方がいい。

 状況が状況な街だ。必ず耳に入るだろう。

 そして少なくとも、大尉はいい顔をしないはずだ。

 誰だって、様子を見に来たのではないか思う。

 そうすれば、こちらとしても身動きが取りにくい。


「やられた…」


 エドワードにしてみれば納得いかない。不満は理由なくロイに向けられる。

 ロイにしてみれば、どちらでも構わないといったところだろう。


「じゃあ…どうするの?」

「…まぁ、考えても仕方ないだろ。とりあえず飯だな」


 何だったら、普通に宿を取ればいい。

 予定外出費は、後で払わせよう。

 とりあえずエドワードが決めたのは、それだった。



* * *



「旅行…じゃ、ないだろ?お前さんたち」


 エドワードが肉を食べていると、二つ隣に座っていた男が声をかけてきた。足元にあるトランクが視界に入ったからだろう。


「ん?」

「ああ、肉が口に入ってるのか。悪いな。最近は他所から来たお客人ってのは少ないから」


 男は苦笑いを浮かべている。

 質問に他意はなく、本当に純粋な質問なのかもしれない。


「ああ…セントラルからの途中。今日はここに泊まろうと思って寄ったんだけど」


 エドワードは肉を飲み込んでからそう答えた。それは事実だ。

 目的地へ行く途中で寄った。ついでに、頼まれて。


「そうか。ここの状況を知っていてここに観光に来るもんはいないだろうしな」

「そんなにヤバイのか?」

「知ってはいるのか。まあ、時々危ないときもあるけど、今はまだ何とかもってるな。軍が動いてるから」


 男は酒をあおる。


「大尉が駐在してるって、聞いたけど」

「…何でそんなこと知ってるんだ?」


 エドワードの言葉に男が反応した。何故そこまでこの街のことを知っているのかと不思議に思ったのだろう。


「えっ…あ、いや」

「あの、ボクたち昨日までセントラルに居たんです。新聞とかも見てますし、あそこは情報が集中しますから」


 アルフォンスの的確な横槍に感謝しつつ、エドワードが続けた。


「結構向こうに効いてるんだ?」


 大尉の派遣は功を奏しているということか。

 誰が派遣した(というか誰の配下か)大尉かは知らないが、そこそこ使える人物だったということだろうか。


「どうだろうな。悪くはないんだろうが、状況は変わらねえな」

「トリプロウ側は、この街をまだ狙ってるってことか」

「ここまでになってるのに光明は見えない。俺たちだって苛立ってくるってことさ」


 男はそう言ってカウンターから皿を受け取った。

 伸ばされた腕には包帯が巻かれていた。

 エドワードたちの側から見えなかった頬には、大きなガーゼが当てられていた。


「それ、あっちとやりあって負ったのか?」

「ん?ああ怪我か?そうだ。俺たちだって軍にしてみりゃ一兵卒みたいなもんだろ。俺たちの街だからな、仕方ねえ」


 エドワードの眉間に皺がよった。


「あんたは、軍人じゃねえだろ?」

「そうだな。…だが、街は街の人間が本来は守るもんだろ。それができないから軍が出張ってきたんだ…そういう見解だ」

「そんなこと」


 エドワードは言葉を続けられなかった。

 スープの入ったカップを下ろす。


「結局はその大尉が来てもあんまり変わってねえってことか」

「ま、一ヶ月じゃ出来る奴だってそうは結果なんざ出ないさ。悪くなってないだけマシってもんだ。…ただ」

「…ただ?」

「あれは、軍人だな」


 エドワードは理解しかねて首をかしげた。

 皿に残っていたメインディッシュを流し込むように平らげた男が再びエドワードの方を見た。


「お前さんたち、宿取ったのか?」

「まだだけど」

「俺ん家は狭いし汚ねえけどよかったら泊まってっても構わねえぞ」


 男は少年と鎧姿の二人組みに不思議そうにしていたが、それについては何も聞いてこなかった。

 その上で、提案をしてくれた。

 エドワードの容姿から、年齢もそういっていないだろうし宿賃も節約したいのではないかと純粋に思ったからだ。


「いいの?」

「ああ。汚いぞ」

「雨風凌げるなら全然構わないし」

「ありがとうございます、ええと」

「ん?ああ。ウェインだ。ウェイン・ルンプラー」

「オレ、エドワード。こっちが弟のアルフォンス。助かるよ」


 エドワードは、考えて頭を下げた。別に腕を出しても構わなかったが。

 それから少し、ウェインは街の様子を教えてくれた。

 話をしていると、周囲に居た他の人も寄ってきて少しは状況を把握出来た。

 現在の軍の配置は、やはり狙われている街の資源に重点を置き、進入されないように周囲と特に街が隣接している区域に分布されていた。

 辛うじて街は街らしく、最低限は機能しているが、時と場合によっては酷い内乱状態の時もあるようだった。

 怪我人も、最悪な結果になった人もいた。

 辛うじて保っているといえば保っている均衡は、そう遠くないうちにどちらに転んでも結果は出るだろう。

 ただ、聞いている限りは完全勝利はなさそうだった。

 犠牲はつきものだと、言葉面は分かっていても、どうしても納得できない。

 それに、どうしたら。どういう結果なら「完全勝利」なのかも、最早分からない。


「中尉も、困ってたよ」


 誰かが、そう言葉を漏らした。


「会ったのか?」

「ああ、さっき。結構久しぶりだったな。あれは疲れてるよ」

「みんな疲れてんだよ。疲れてないなんてのは働いてねえってことだ」

「…誰?」


 エドワードは話についていけなくなって質問を投げ込んだ。


「ああ、ファウツ中尉。もともとここ数年はこの街に駐在してる軍人だよ」

「あー。その大尉が来るまで指揮取ってたっていう」


 そのファウツ中尉の手に余りすぎて、大尉が派遣されたはずだ。


「あの人は優しすぎるんだよ軍人として。割といい人ではあるがな」

「そうなの?」

「迷ってばかりじゃここではやっていけねえからな」

「…まあ、それはそうだけど」


 一瞬迷うことはある。

 それでも早期に決断しなければそれこそ取り返しのつかない事態になりかねない。特にそんな時には。

 戦うのが目的だ。失わないために。守るために。

 だからこそ躊躇うことができない時の反応は大切。


「ってことは、その大尉は中尉とは結構逆のタイプなんだ?」

「そういうことだな」

「ふうん…」


 任務を遂行するための、指揮。

 達成するための動き。命令。

 時には残酷な指令。


「ああ、何かエドワードたちにはどうでもいい話だったな。もう行くか?」

「ん?ウェインさんは」

「そろそろ寝るさ。明日は警備だし」


 ウェインはそう言って立ち上がる。

 ポケットを漁って財布を取り出すと店の主人に金額を聞いた。


「警備は交代で皆さんが自主的にやってるんですよね。それだけ街をみんなで守ろうとしてるんだ…」

「最初は自主的だったな。今は違うが」

「え?」

「ローランドが街の住人に口出ししてるんだ。別に言われなくてもやるから構わないがな。…いい気はしねえが」

「それじゃ」


 エドワードはさっき聞いた言葉を思い出す。

――軍にしてみれば一兵卒。

 あの言葉は、正しくそのままだということだ。

 上官は、自身の下官に指示を出すはずなのに。

 その権限を待ちの住人にも当たり前のように行使しているということ。

 街の住人にしてみればそれを聞き入れているつもりはないようだが(自主的のつもりだからだ)、結果としてはそう見て取れる。

 恐らく、軍はその結果を見ているのだろう。


「ローランド?」


 聞きなれない名前をアルフォンスが復唱した。

 金を支払ったウェインは帰り支度を済ませると、その問いに答えた。


「さっきから話題の、大尉殿の名だ」
 
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