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長編
シリアス・オリキャラ有り オフィスにエドワードの声が響き渡った。 エドワードの声はよく通る。叫んだ声の後には静寂が残った。 封筒を持つ手はかすかに震え、その目はただただ真っ直ぐにその封筒を求めたハボックを捕らえていた。 ハボックは仕方なさそうにため息をつく。 「俺に、何を言わそうってんだよ」 「その言葉、それこそまんま返す」 「どういう…ことですか。まさか、やっぱり」 アルフォンスのいう「やっぱり」というのは、自分達の脳裏をよぎる嫌な予想は間違っていないのか、という意味だ。 「そうね。二人はつい数時間前にそこに居たのだものね。感情が荒れても仕方ないわ」 切り出したのはホークアイだった。 これ以上何も言わない状況というのは無理だと判断してのことだ。 二人は気づいている。気づいてしまった。 こんなにあっさりと、早く状況を見抜く力なんて本来必要ないのに。 どうして他の予測を立てずに真っ直ぐに大佐の不在(会議)とリンクさせてしまえるのか。 今回は、ハボックが報告書の提出を代理として求めたのだから、エドワードなら気づいてもおかしくはないとしても。 言葉を濁しても意味がない。 少なくともそこにこの兄弟に対しての優しさは存在しない。 言葉を濁すことは、今は優しさとは逆であることにも、皆気づいている。 「二人が見た街の現状は、こう着状態だったそうね。数時間前に動きがあったのよ。だけど情報はまだ少ないの」 「動きがあったって…」 「情報が少なすぎて何ともいえないわ。だから大佐は…いえ、情報として、その報告書を求めているの」 「そうは言ったってこう着状態の情報だぜ。意味あんのかよ?」 「少なくともこう着状態が打破される前の情報が分かるわ」 「打破される前ったって…」 街の姿は、きっと今とは全く違う。変わってしまっていないことを願うが、難しいのだろう。 難しいからこそ、変わってしまう前の街の情報が求められている。 いつ来るや分からない攻撃に畏怖しながらも。心労を重ねながらも明るく生活をしていた。 少しでも守ろうと、ひとりひとりが意思を持って動いていた。 そこにあったものは、願いだった。 恐怖に犯されずに済む平和を望む声だった。 それだけだった。 「こんなのありかよ…ッ」 エドワードはハボックに封筒を叩きつけた。 やりきれない気持ちをぶつけただけだ。 それはそこにいる誰もがわかる。だからハボックも黙ってそれを受け取った。 決して好意を持つことは出来ないが、あの大尉だって早期解決を計算していた。 勝算のあるような物言いですらあった。 だからこそ、あんな言い方をしたはずだ。 何をやってる。 何をやってる。 そして、自分も何をやってる。 「兄さん!」 突然走って部屋を飛び出したエドワードをアルフォンスが慌てて追いかける。 腕を伸ばす。しばらく走って、エドワードの腕を捕らえた。 「バッ…離せよっ」 「どこいくの!?」 「エドワード君!」 すぐにホークアイ達も追ってきていた。ハボックだけが、ロイに封筒を渡しに行っていた。 「駄目よ、シーアールに戻るなんて。戻ってどうするつもりなの?」 「そうだよ兄さん。ボク達が行ってもどうにもならないよ」 「どうにもならないわけあるか!数時間前まで…普通だったじゃねーか。もう少しちゃんとオレが見てたらッ」 「エドがちゃんと見てたって、どうにもならんことなんていくらでもある。お前の所為じゃないんだ」 一歩下がったところからブレダが言う。 お前の所為じゃない。 そして、たったひとりエドワードがいたところでどうにかなるわけでもない。 「そうだよエドワード君。確か、有能な大尉が行ってるんだろう?きっと策を講じてるよ」 「オレはっ…その大尉にも会ってんだよフュリー曹長」 「!会ったの?」 「…ああ。予定外だったけどな。随分自信あるみてーだったけど?それがこのザマ?」 あの時の言葉は何だったのか? 伝えてもいいのか?あの時の言葉を。大尉を派遣したという上官に。 皮肉にしか聞こえないだろう。 「状況がどう転ぶかは、ある程度の予測は勿論だけど時に急展開することも多々あるわ」 こちら側が気づいていないだけで。 無線が相手側に筒抜けになってるかもしれない。 暗号でのやり取りだって、解析されてしまっていれば意味がない。 向こうも同時受信してしまっていたとして、その暗号の解読を向こうが先にこなしてしまっていれば次のこちらの手など意味がない。 敵側に情報が漏れているなどと思ってもいない側からすれば、予定通りにミッションを開始するだろう。 敵側はそれを見越した作戦を展開する。 全てを防ぐための予防線を貼り、ダメージを受けたと見せかけるためのダミーを襲撃される予定の場所に用意し。更にカウンターをしかけ。 時にはその手を逆手にとって言い訳や自分側の有利にもなりうる。 たったそれだけで、決まってもいない正義と悪が決定されることもある。それだけで、悪のレッテルを貼られる可能性だってある。 たった一つのミスは自分の命を失いかねない。 自分以外の大勢の命を失いかねない。これは決して大げさな物言いではない。 数多あるであろう情報の中からどれを信じ、どれを切り捨て、どう動くか。 それを考え指揮するのが上の仕事だ。 しくじれば数え切れないほどの味方の命を失い、街の命が失われ、最悪は自分もそうなりかねない。 例え逃げたとしても、圧倒的な不利であれば、逃げても逃げても追いかけられ、いずれは逃げ場などなくなる。 そこに残るものはあるのだろうか。 「オレはっ…何のために」 あそこにいたのか。 「人間兵器が…聞いて…笑って呆れる」 「兄さん!」 言われる前に自分で言ってしまえ。 ちっぽけな子ども一人いたところで何の役にも立ちはしない。 でも自分は。 表向き功績を持つ「国家錬金術師」の名前を持っている。 それでなくてもエドワードは体術も得意だ。 一人居れば、確実に違うだろう。 実際本当に違うかどうかは置いておいて、少なくともエドワードはそう思っていた。 現実の状況を知らないが故の思い。 「エドワード君。落ち着いて。どうなったかは、まだ分からない。迂闊に動いては駄目よ」 だからこそ、ロイは伝言をホークアイに残した。 勝手に動き出さないように。 状況が違うから。 一人単身、あの地へ乗り込まないように。 「でもッ」 言われていることは理解できる。 気持ちも分かる。 確かに行ったところで絶対に役に立つとまでは言い切れないことも。 ロイであったなら、きっと違うのだろうが。 頭では、分かる。 でも心が納得しない。 どうして。 自分は街の何を見てきたのか。どこを見てきたのか。何を探ってきたのか。何を会話してきたのか? 一体何を知っていると言うのだ、自分は。 「くそッ!」 エドワードは激しく床を叩いた。 どこにも持って行くところなどないこの気持ちをとりあえずやり過ごすには、辛い。 ホークアイは分かっていた。 シーアールが万が一の状況に置かれた場合、そこにエドワードを行かせたくないと思っているのは他の誰でもないロイであることを。 不安を感じつつもある程度の活気を失わずにいた街を知ってしまったエドワードが、一変したその土地に行くということがどういうことかを。 その状況を見たときに、どう思うかを。 だからこそ見せたくなかった。 もちろんそれ以前に行かせたくはないという単純な気持ちもある。そこまで悪化してしまっている場所に易々とは行かせられない。 本当はそうならない、悪化しない状態で事態を収束させたかったが今となってはもう遅い。 シーアール視察をエドワードに託したこと自体を、ロイは後悔していた。 「とりあえず、部屋戻るぞ」 ブレダはそう言うと一人戻り始める。 どう動くにしてもまずはロイが戻ってこなければどうにもならない。 エドワードは静止を振り切って戻りたい気持ちでいっぱいだ。しかしそれを分かってしまっているアルフォンスがエドワードの前にいる。 エドワードは仕方なく、とりあえず脚を動かした。ブレダの後ろを歩く。 エドワードが歩き始めてすぐ、前を行くブレダが立ち止まった。 「?」 エドワードは数歩ブレダに近づいて、その理由を理解した。 ホークアイもフュリーもファルマンも敬礼をしている。 前からくるのは、ロイよりも上の階級を持った人間だった。 見るからに不機嫌そうな面持ちで歩いている。 それは今軍が置かれている状況を思えば当然のことだ。 将軍職にあれば、やらなければならないこともそれなりにあるのだろうし、何より自分のプライドと権威を守りたいだろうからだ。 やらなければならないことなどうまく周囲を動かせば事足りるはずだ。ある程度は。 ただ自分が楽をするために周囲を動かすと言うこと自体、馬鹿ではできないのだが、それも優秀な側近がいればある程度は可能だ。 気の立っているエドワードだったがここで暴れることも文句を言うことにも、メリットがないと分かっている。だから黙っていた。 ハクロ将軍がエドワード達を通り過ぎてから数歩、その脚を止めた。 エドワードだけではなく、ホークアイも気持ちちらりと視線を向けた。 「鎧に…金髪の少年。鋼の錬金術師?」 エドワードとアルフォンスの二人を見て、気がついたらしい。 「そうだけど」 エドワードはハクロ将軍と同じく機嫌はよくなかったが、問われたことに対しては素直に答えた。ただ口調は悪かったが。 初対面ではないにしろ、そうそうは会わない。会いたくもない。確認されてもおかしくはない。 「…そうか。本当に来ていたのか」 「…どういう意味?」 「さっきマスタング大佐が言っていた。近いうちに鋼の錬金術師が来ると」 エドワードは不服そうな表情だった。 「今、ここにいるということはもう聞いたのか?」 ハクロ将軍は上から見下ろすような口調で(事実エドワードを見下ろしてはいるが)そう言った。 「?何を?オレはまだ大佐には会ってねえし」 「…そうか、マスタング大佐はまだ別件の会議に連投していたな」 思い出したようにぼそりと言われ、周囲の軍部の面々も視線を揃えた。 もう終わったと思っていたが、まだロイはオフィスには戻ってこられないらしい。それは今初めて聞いた情報だった。 「失礼ですがハクロ将軍、マスタング大佐は」 「ああ、今までの会議の方が緊急で急遽入ったものだからな。そのまま予定の会議だろうな」 シーアールの件では、ロイは報告しているはずだ。鋼の錬金術師が街を見てきたということを。 だからこそハクロ将軍はさっきそう言ったはずだ。 「…鋼の錬金術師。君には伝えねばならないことがある」 「…シーアールの件だったら書面に起こしてもう渡したけど」 そして、街の置かれた状況も知っている。知ってしまった。 「それはそれだ。この場にいるとなればな」 「なにかあるなら大佐が言うんじゃねえの?」 「そのマスタング大佐が今会議中だからだ。今回街の様子を見たということで、だ」 エドワードの物言いは、将軍相手ではないようだ。 いつものことにせよ、アルフォンスも気が気ではない。 こういうところに関してはもう少し大人になってもいいのに、と。 「こちらへ来い」 その言葉にエドワードは眉をひそめた。 「ここじゃ駄目なのかよ」 「こっちへ来いと言っている」 どうも生理的に相性が悪い。 エドワードはそう思えてならなかった。 「鋼の錬金術師に話がある。そんなに時間のかかることではない。 遅かれ早かれマスタング大佐から聞かされる。だが、早く知っておく義務がある」 「…どういう意味?」 そう聞いたところで、まだ無事といえる街を見たものとして、という意味だろうなと想像はついた。 アルフォンスは心配して数歩踏み出したが、エドワードはそれを静止する。 「大丈夫だよアル。オレが何か悪いことしたわけじゃねえし、説教される理由も喧嘩する理由もねえし」 「でも兄さん」 「すぐ終わるんだろ?」 ハクロ将軍は黙って頷いた。 あちらとしてもエドワードに用があるからこそ言っているのであって、仲良く茶をすする道理はない。 長居してもらう理由も。 義務的なことがあってのこと。 それは曲がりなりにも軍属という立場のエドワードにとっては断る理由がない。 ただ一ついえるとすればどちらも気が立っている。 無駄な言い争いにならなければいいのだ。 しかしハクロ将軍はその無駄な言い争いすらする気は毛頭ない。もちろんエドワードにも。 ただ、話さなければならない状況におかれているだけ。 「分かった」 短くエドワードは答えた。 PR |
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