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長編
シリアス・オリキャラ有り こんなにも時間がたつのが早いなんて、と思うことはある。 また、その逆も然り。 出来ることなら時間を止めてしまいたい、と思ったことは、かつて何度もある。 戻せるのなら、と。 身近に居るあなたが、自分の前から消えてしまうその前に。 如何な能力を持つものだとしても、絶対に叶わない、生き物の戯言。 「まだか!?」 冷静で居なければ、と思っていても、それも限界に近かった。 テロリストの身柄は、既に上がっていた。 ただ、エドワードだけがまだ見つからない。 軍のエドワードを除く全員の安否だけは、分かっていた。 これだけの人数がこのたかが知れた領域にひしめき合っていて。その中には敵味方が存在して。 それぞれが自分の思うところで行動している。 それぞれ自分がすべき事を思い描いて動いている。 ロイは同じ軍服を纏う彼らの動きを把握する。それは赤い道を歩きながら経験してきた分、周囲とは段違いだった。 ロイとて軍部内においてはまだ若輩者だからこそその年齢に対する大佐という地位をあれこれ言われる。 だが、それを背負うだけの道は確かに歩いてきたのだ。 数え切れないほどの、ひとの命という道を踏んできた。 いつ、誰が逃げ出してもおかしくないあの時間を。 逃げ出せた者の方が、よほどひととして普通だっただろうと思える。けれど自分は踵は返さなかった。 あんなものを見るのは最後にするべきだと、今でも思うのに。 もう、誰にも見せることのないように。体験することの無いように。大切なひとを失うことのないように。 そんな願いはいとも容易く折れるのか。 ロイは的確な指示と物凄い仕事量を並行させながらただエドワードを待った。 本当なら、誰よりも真っ先に探しに行きたい。 近くにはいるはずなのに。 ただこの場に居続けるだけということがどれだけ苦痛か。 それでも、自ら探しに行くことは出来ない。 ただただ、もどかしい。 祈ることしか出来ないなんて。錬金術師ができることがそんなこととは。 今までにどれ程の命を奪ってきたか分からない自分が今更することが、そんなこととは。 一緒に落ちた人物がすでに発見されているのだから、エドワードも発見されていいはずなのだ。 ロイは再び時計の蓋を開けた。 エドワードが落ちてから、既に三十分以上経っていた。 * * * 限界だった。 痺れを切らしたロイが動き出した。 「マスタング大佐!」 慌ててすぐ後をファウツが追う。 ファウツはとてもロイを制止しきれない。ロイの声は冷静さを失わないように勤めてはいたが、緊張と動揺が確かに混ざっている。 「下のほうまで降りてみるだけだ。報告は上がってこないのか!?」 「は、はい…」 ファウツだけではない。誰だって分かっている。 限界だ。 生死の危険の境界線。 どこかに打ち上げられていたら。誰かがすでに助けていたら。自力でどこかへ避難できていたら。 しかし、どれにも該当しなかったら。 (早く戻って来い、鋼の) 久しぶりに見た彼は、元気そうに振舞っていたけれど、随分とやつれていた。 そうそう会うわけでもないのに。普段を思えば前回より割りとすぐに会えたのだが。それでも。 そんな短い期間に、痩せていた。 動いている分、恐らく鍛えられてはいるのだろうが。 それでも脂肪分を燃焼しきってしまえば次に燃えるのは筋肉だ。 動きに対する食事の量が少なかったのだろう。 普段から無茶を平気でする。無茶を無茶だと思わない。思っていても立ち止まることをしない。 怪我が治ればまた新たな怪我をするような人間だ。 やはり、彼は軍人向きではないのだろう。 しかし、この道を選んだのは本人だ。このことは、誰よりも本人が分かっている。 国家錬金術師がどういう立場であるかということは。 そのときが来れば、自分はどうしなければならないかということは。 だからこそ。 ロイは待った。が、それももう。 この現状へ彼を誘ったのは他でもない自分ではあるけれど。 ロイがやや足場の悪くなった坂を降りていると、下のほうから数人の声がした。確かに聞こえる。 「!」 人の動く気配を感じて、ロイとファウツが駆け下りた。 様子を見れば変化があったことだけは、恐らく間違いないだろう。 「マスタング大佐!」 「見つかったか!?」 ロイの脚は更に早くなった。 数人の人だかり。あの中心に、恐らくは。 「鋼の!」 ロイは割って入った。 周囲は、やっとロイの存在に気付いて敬礼をする。 しかし、事態は穏やかではなかった。 「マスタング大佐!少佐が」 「鋼の!?」 迷うことなく、視線はその場に注がれた。 いた。 確かにエドワードはそこにいた。 見つかった……! そう思った次の瞬間、一瞬ロイの動きが止まる。思わず伸ばそうとした腕は、伸ばされることはなく。 目に映る光景を、ただ確認するしかなかった。 ずぶ濡れの身体。髪が頬に張り付いていた。助け出されてまだ間もない。 硬く閉じられた瞼。揺れない睫。 青白いその肌。 嫌なモノを連想させられる。 その色を、ロイは経験上知っている。 忘れられない、それを。 「あの、やはり、片腕片足が機械鎧ということもあって、沈んでいるところを発見して急いで救出したのですが…」 やはりその重みはエドワードを水の底に追いやっていた。 加えて落ちた弾みで、右腕は何かに引っかかってしまっていたらしい。 恐らくはエドワードがどうにかしようとしても、どうにもならない状態だっただろう。 両腕の自由を失って、錬成陣を書くことも、手を打ち鳴らすことも叶わずに。 落ちたときに既に意識を失ってしまっていたのか、もがくうちに限界が来たのかは分からないが。 ロイは手袋を外して、エドワードの頬に手を当てた。 冷たい。 冷たかった。 その冷たさは。 「呼吸が、ないんです…!」 その声を聞いて、ファウツがロイの数歩後ろで、はっと顔を上げた。 「心拍も…っ」 報告を聞き終わる前に、ロイは迷わずにエドワードの唇をふさいだ。 気道を確保して、息を吹き込む。 余計なことは何も考えていなかった。ただ、命を吹き込もうともがいているようなロイの姿があった。 そのあまりにも躊躇わずに動いたロイに、周囲は瞬間驚いた様子だったが、事実を知るわけもない。 すぐにエドワードの蘇生のためだと納得する。 発見されて、ここに身を移動させてすぐに気道の確保をして、心臓マッサージを始めた。 それからすぐにロイが駆けつけてきたということだ。 ロイに報告へ行った者とは入れ違った形になる。 その生者の気配を失った身体。 必死に人工呼吸をしても、息を吹き返さない。 唇が、こんなにも冷たい。 そこには全く彼の意思を感じない。 何度となく唇を重ねたけれど、こんなことは。 「…鋼の」 失ったと、いうか。 「起きろ、鋼の!」 言わせはしない。 死ぬわけにはいかないのだろう。 弟を置いて逝けはしないのだろう。 私を、置いていくと言うのか。 こんなに近くに居て、自分は何も出来ないというのか。 今は手が届くのに。 手を離せというのか。 周囲も蒼白な顔をしている。 どうしても、エドワードに力が戻らない。 命が動き始めない。 加えて、発見までに要してしまった時間。 約一時間。 逝かせたくはない。 それはできない。 それでも、眼前に広がるのは、絶望的な気配だった。 PR |
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